スズメの巣 第24話

第24話 王様は一人です。

「すごく不安なんですけど・・・。」
金洗が語り掛ける。
「どうだろうな?分からん。」
「ちょっと応援しましょうよ!!」
「もちろん勝ってほしいが、実力派が多いからな。」
「もう!なんですか?」
いがみ合っていた。
「始まりますよーー!!」
橋口が一喝する。

シーズンは、上位をキープ中。
気は抜けないが、十分な位置である。

それどころではない。
この年末年始は、誰か人生が大きく変わる。
新大会のROYAL Tears。
新年一発目の麻雀日本一決定戦。
天下統一戦の予選が始まるが、それどころではない。

沖村は、ファイナリストには残れなかった。
ただ、準決勝進出により敗者復活戦に進めた。
残るは2枠。
負けられない。

朝6時20分。
「お名前よろしいですか?」
「あ。沖村といいます。」
「こちら。入館証です。あちらのカイザーパークに向かってください。」
「ありがとうございます。」

沖村は、敗者復活戦会場にいた。
決勝大会は、帝東テレビで2夜連続生中継される。
麻雀がプロスポーツとして認知され始めた証だろう。

敗者復活戦会場は、その帝東テレビのエントランスにあるカイザーパークで行われる。
屋内だが空調は、微々たるものであり寒い。
生配信は、1stステージ最終戦と2ndステージのみである。

敗者復活戦システムは、過酷かつ負けたら終わりのサバイバルである。
1stステージは、朝8時対局スタート。
5人打ちで4半荘。
1対局でも箱下で飛んだら、即脱落(5人時は即退場。4人以下は対局続行も記録には残らない)。
制限時間は70分+1局打ち切り。
20人での抽選でマッチメイクされる。
最終ポイントランキング1位は敗者復活決定。
10位までが2ndステージ進出となる。

2ndステージは、1stステージの順位がカギを握る。
上位に行けば行くほど有利になる。
反対に負けたら即脱落。そしてトビは即失格。対局は即終了となる。

1回戦は、7・8・9・10位で、東風戦で1人勝ち上がり。
2回戦も、4・5・6位に勝ち上がり者1人を加えて東風戦。
最終戦は、2・3位に勝ち上がり2人を加えて半荘戦を勝った1名が敗者復活となる。

生配信を見始めたのは、敗者復活1stステージ最終戦の東場であった。
沖村の卓は、若手実力者たちが多く集う。
プロ13年目。東京予選はラスなし全連対。 來野 康平(競技)
プロ8年目。準決勝はカットライン上の11位で敗退。吉岡 覚(競技)
プロ2年目。地方予選の数少ない生き残り。畑本 和久夫(全日本)
沖村は、トップ目を守っていた。
南場でも、強さを見せ卓内トップを獲得した。

沖村は、運も味方して総合1位になり敗者復活1番乗りとなった。

オフィスでは、安堵が広がっている。
「まずは、決勝進出だな。」
「ええ。」
「鳳さん。何かアドバイスありますか?」
「いや。打ち筋を見ても申し分ない。このままならいける。」
「分かりました。本人にもそのように連絡します!」
橋口は、スマホですぐに連絡した。

その頃、沖村は一息ついていた。
初めてのタイトル戦の決勝ぐらいの位置に緊張している。
ましてや生放送だ。
そんな時に、橋口から連絡が来た。
「今のままでいいです!2日間戦い抜いて下さい!」
このメッセージは、気を和らげるきっかけとなった。

敗者復活2ndステージは、前例を見ない飛ばし合いであった。
最終戦は、まさかの役満放銃により一発で決まった。
ファイナリスト12名が出そろった。
準決勝1位 麻雀武闘家 大出 龍一(競技)14年目
2位 ハマの点棒スナイパー 寺江 亜瑠斗(競技)9年目
3位 ドリームキャッチャー 若根 あき(振興会)8年目
4位 次世代喧嘩番長 江口 一喜(全日本)15年目ラストイヤー
5位 麻雀界の才媛  高屋 優花(全日本)11年目
6位 鳴かせるホトトギス 鳥川 豊(雀士協会)6年目
7位 出あがりの名手 那須 陽一郎(競技)15年目
8位 一撃の紅姫 真田 彩未(競技)4年目
9位 沈黙の雪男 迫野 北斗(競技)15年目
10位 悪魔の手を持つ天使 山崎 七瀬(雀士協会)6年目
敗者復活 
下剋上くノ一 沖村 凛(全日本)13年目
シークレットプリンス 道田 祐樹(競技)2年目

沖村は、スタッフと打ち合わせが終わり、準備をしていた。
勝とう。そう心に決めていた。
私は、後ろにチームがいる。
心強い限りだ。  

一方オフィスでは、3人が戦いを見守る準備を終えた。

16時00分。
VTRが流れる。第1夜は、3時間半の生放送。
豪華なセットのスタジオに司会が入ってくる。
前口上が長く感じるが、結構人気の俳優さんと芸人さんであった。
出場者が全員入場する。
運命のくじ引きに入る。ここがカギを握る。
1戦目は、卓とスタート地点が決まる。いわゆる親決めだ。
抽選の結果はこうだ。

第1戦A卓
東 大出 南 道田 西 山崎 北 江口
B卓
東 高屋 南 沖村 西 寺江 北 迫野
C卓
東 那須 南 真田 西 若根 北 鳥川となった。

「まもなく対局が開始されます。ここで各卓実況と解説及び審判のご紹介です。」
まぁ豪華であった。
「総合解説は、誓桃戦チェアマンの豹田英司さん。MCの2人もこちらから観戦して頂きます。皆さんよろしくお願いいたします。」
「お願いします。」
「実況は、土肥太郎です。それでは、各卓の紹介に移ります。」

A卓は、解説は、乃木坂ヴィーナスアイロンマレッツ共同監督の森野由美さん。実況は、白石龍さん。審判は、プロ競技麻雀協会代表の早田さん。
B卓は、解説は現雀猛位の田中さぶろうさん。実況は、矢面淳さん。
審判は、スポーツ麻雀振興会代表さん。
C卓解説は、現帝雀位及び立直王座の金村ゆかりさん。実況は、段田論さん。審判は、雀士協会審判長の安面龍さん。以上が実況・解説陣です。
みなさまよろしくお願いいたします。」
「なお、各卓のフォーカスカメラは、それぞれの媒体で生配信しております。ぜひご覧ください。」
「この後試合開始です。」

1戦目は3ブロック同時にスタート。
駅伝の実況のように、各卓に実況解説を配置し、総合実況解説が取りまとめる仕組みだ。

決勝大会は1stステージで2半荘。
上位4名が最終決戦に駒を進める。

「初めての麻雀の見方だな。」
鳳が困惑していた。
「でもこういうのもありですね。」

少し見づらいかもとも思うが、分かりやすくもあった。
「では、試合開始です。」
カウントダウンが終わり、試合がスタートした。

穏やかに進行する中で、カットインしてきた。
「それでは、C卓どうぞ。」
「土肥さん、とんでもないことになりそうです。現在南1局なんですが、真田が役満あわよくばダブルも見えるかもしれません。」
衝撃を受けた。
オフィスがざわつく。

結局役満は出なかった。
だが、真田の快進撃は止まらない。
沖村は、少し厳しい位置にいる。

1stステージ第1戦3卓全て終えた。
1位は、真田。
+71.2ポイントと大きくリードしている。

そして、1stステージ第2戦は
第1試合は9位~12位。

第2・3試合は、1~8位の中から、4人ずつ抽選。
ファイナルステージ進出が確定。
そして、1stステージ敗退が如実に分かるサバイバルと言えよう。

第2試合に、沖村が抽選で選ばれた。
現在7位である。

ただ、結果は振るわず。
4着。
この時点で、沖村は1stステージ敗退が確定した。

ファイナルステージは、翌日行われた。
3時間の激闘の末。
「優勝は、高屋優花選手です!!」
ファンファーレとともに、紙吹雪が発射。
歓喜に包まれた。

「初めての大会で優勝できると思っていませんでした。これからさらなる高みに目指したいです!ありがとうございました!!」
優勝賞品や賞金1000万円が贈られた。

「高屋さんねぇ。すごかった。」
「圧倒的でしたね。」
「さすが才媛だな。」
「帝雀位も近いね。」

ほめたたえる。
そして解散した。

つづく。


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