スズメの巣 第33話

※この物語はフィクションです。

第33話  力になる者。

「こんにちはー。」
オフィスに入ってくる。
沖村だ。

「ああ。沖村さん。」
橋口が出迎える。
「すみません。無茶言って・・・。」
「全然いいですよ!むしろすごいですね。」
「なんか、私にもできないかなと思って。」

というのも。
沖村から、橋口は相談を受けていた。
その件は、天下統一戦の太平の応援配信をやりたいというものだった。
ただ、せっかくならチームとして応援したいという申し出だった。

ただ、今日は日曜日。
橋口以外のスタッフは時間が合わず。
かつ、チームメンバーも男性陣はリーグ戦などで欠席となった。
つまり、橋口と沖村の2人きりだ。

「そこの会議室の方がいいのでは?」
「分かりました。そこにします。」
橋口に促されるまま。
一眼レフやら、セッティングをする。
「何か手伝います?」
「じゃあ、これやってもらえますか?」
会議室を即席スタジオに。

一方。
「どうしよう・・・。」
麻雀天下統一戦の会場では、太平がド緊張で待機していた。
「みくちゃん。」
声をかけたのは、同じ団体の目瀬あおいだった。
ちなみに、プロ歴で言えば13年。
年齢で言えば、10年の大先輩だ。
「あぁ目瀬さん。」
「ココア飲む?」
「あぁいただきます。」
目瀬から缶のココアを受け取る。

「緊張してるんでしょ?」
「はい・・・。」
お見通しだった。

「フフッ。やっぱり。隣いいかな?」
「あっはい。」
目瀬が隣に座る。
そして、こう話す。

「でもね、みくちゃんは自分らしく戦ってごらん。」
「えっ?」
「結局のところ、正直に打つことが一番力が発揮できる気がしてるのね?」
「はぁ。」
「テレビの向こう側とか、ネットアンチなんて気にすんな!みくちゃんは強い!」
「あっ。あぁ・・・。」
「麻雀は、まぐれなんてないんだし。それを踏まえて戦略と運を両方持ってるんだから!でも私も負けないよ~!」
「えっ・・・。わ、私もです。」
「うん!その意気。じゃああとでね。」

そのエールは、孤独な太平に太陽を照らすようなものだった。

ついに生放送が始まった。
準決勝は3ブロックに分かれ、まず一発勝負で、ストレートで決勝に進出できる3名を決める。
そして、各ブロック2位の3名と3位の中の最多ポイント1名のプレーオフ。
合わせて4名を決める。
太平は、Bブロック代表としてストレートで決勝進出を決めた。
一方、一度負けたものの目瀬もプレーオフで勝った。

エールをくれた先輩と決勝でぶつかる。
目瀬に胸を借りるつもりで精一杯ぶつかる決意を固めた。

ただ決勝では、ツモに恵まれなかった。
しかし、太平は諦めない。
小さい上がりもコツコツと上がった。
その結果、1回戦は2着で終えた。

以前の彼女だったら、恐怖に押しつぶされていたことだろう。
ただ、今は違う。
パイセンだけじゃない。
チームの仲間がいる。
こんな胸を張って打てている。
勝ちだけが、正義ではあるけれど。
今回は、負けてもいいや。
そう思うと、2回戦は笑顔で望めた。

その様子に気付いたのは、生放送を見ていた橋口だった。
「みくちゃん、いい感じかもですね。」
「どゆこと?」
沖村が問う。
「あんなリラックスして打ててるんです。みくちゃんらしい麻雀が出来るんじゃないでしょうか。どうなるか分からないけど・・・。」
「なるほど。」
沖村は、笑顔になった。

そして、2回戦。
これで天下人が決まる。
着実な打ち方で、失点を回避し続けた。
そして、相手の当たり牌を吸収していく。

南3局。
太平は、一瞬目をつぶった。
一息ついた。
「ふぅ・・・。リーチ。」
ツモれば1位交代のテンパイを入れる。
結果は、跳満一発ツモ。
これがきっかけとなり、太平は連覇した。

もちろん大号泣。
対局者たちから、拍手を初め祝福を受けた。
表彰式でも、泣き続けた。
もう、まぐれなんて言わせない。
太平の涙は、強い決心も固めたようだった。

生放送終了後。
目瀬が、太平を抱きしめていた。
「よくやったね!」
目瀬は、本当は悔しいはずなのに。
なぜか、太平を抱きしめていた。

「目瀬さん。何で私に喜んでくれるんですか?」
「当たり前じゃん!私は長年経験してきたから、メンタルも強いの!来年だってあるし。人には人の戦い方があるしね!そんなことよりとにかく嬉しいのよ!みくちゃんが頑張ってたのは見てたから!連覇なんて難しいことを達成したんだもの。」
「あ、ありがとうございますぅ・・・。うぅ・・・。」
再び、泣き出した。

配信中の、橋口・沖村も号泣だ。
「みくちゃん・・・。」
「良かった。ホントに良かった・・・。」

ちなみに。
生配信のコメント欄は、太平の連覇に歓喜する者だけではなかった。
「GMさん泣いてるしwww」
「沖村さんは、分かるけど」
「泣きすぎじゃね?」
「親やん」

2人のリアクションに、リアクションする。
こんなコメントも高速で流れていったとか。

つづく。

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