スズメの巣 第23話

第23話 瞳の奥に見えたもの。

季節は、移ろいせわしない年末。
色々とバタバタする。
JOYV-deersは、日ノ出がとうとうトップを取った。
トップを取ればラスも取るという展開で、収支としてはトントンであり3位に転落。ただ、2位とのデッドヒートである。

1部リーグは、混戦模様だ。

そんな中オフィスで橋口はかなりソワソワしていた。
「獲れるでしょうか?」
橋口は、不安そうに問いかける。
「この大会は、布崎さんの初優勝が懸かってるからな。まぁ大丈夫だ。」
鳳が声をかける。
「沖村さんもみくちゃんも着いたみたいよ~。」
「まずは、本戦出場だね。あぁ心配・・・。」
ましてや、同日にチームメンバーが4人中3人がビックタイトルを目指している。
チームとして戦っているから胃が痛い。

雀士協会は、ツアーと四季王戦という2大大会が有名だ。
特にツアー優勝者は、団体最強となる。
女流が王座に輝くことも珍しくない。

ツアーのルール
全国各地で10戦を開催。
開幕戦の沖縄から始まり、最終戦のみなとみらいまで続く。

ツアーは、1大会2日間の日程で行う。
1日目は、予選ラウンドとしてラスは即失格。
男子・女子ごとに上位16名が、2日目の決勝ラウンドに残る。

最終戦は、男女ポイントランキング上位12名ずつのみ参加可能。
終了時ポイントランキング1位がツアー優勝者となる。
ツアー王者と準優勝者の計4名が統一ツアー決勝戦に進み、覇者を決める。

家族も多い日曜日。
布崎は、みなとみらいにあるホテルの大宴会場にスーツでいた。
店は、若い者に任せてある。
自分は正々堂々戦うだけ。
そう思っている。
布崎には隠れた野望があった。
今年こそは、天下を取る。と。
競技麻雀の頂。そのタイトルは未だない。
今年自分で言うのもあれだがいい波が来てる。
太平ちゃんには申し訳ないが、今年こそは勝つ。
そう誓った。

今日は、みなとみらい聖龍オープン決勝ラウンド。
ついに年間王者が決まる。
男女同時刻にスタートした。

時は流れ、15時すぎ。
男子ツアーが決着した。
「布崎勇気。2度目の男子ツアー制覇が決まりました!!!」

布崎がてっぺんを取った。
ただ、布崎は目指すのは統一ツアーそして天下だ。

「布崎さーん。」
声が聞こえる。

この後も戦う男子ツアー準優勝のキャピタル麻雀部の来田だ。
「来田君どした。」
「優勝おめでとうございます。統一ツアーは譲りませんよ~。」
「こちらこそ。それを言いに来たのかい?」
「いえいえ。女子ツアー長引いてるみたいですよ。」
「そうかぁ。長期戦てことになるかな。」
「ですね。どうやら若手が超連チャンしてるとか。」
「誰よ。」
「俺も知らなかったんですけど、若宮なんたらって言ってましたね。」
「若宮さん・・・。面識ないなぁ。」
首をかしげた。

一方、時を戻して10時半過ぎ。沖村と太平は雀荘ではなくリーグ・ザ・スクエアのアリーナ棟にいた。
「結構多いね。」
「ですね・・・。」
圧倒されていた。
ゴールドシリーズの個人大会としては異例の規模である。
「全国予選の東京エリアだけだよね・・・。」
「はい・・・。私自信なくなってきました・・・。」
「まぁ行こう。」
受付を済ます。

「みなさん。お集まりいただきましてありがとうございます。大会事務局です。今回は・・・。」
話が長い。
それからしばらくして。
「今日の結果につきましては、全選手対局終了後に生配信にて発表いたします。なお、地方予選についてはすでに終了しており、結果待ちとなっています。都合により見れない方も多いと思われます。別途ご連絡はします。」

「では、対局開始は11時からとなっております。遅れた選手は失格となります。よろしくお願いいたします。」

「まぁ何とかなるよ。」
沖村が励ます。

11時。
「では、対局メンバーを確認して対局を始めてください。」

一斉に礼をして対局が始まる。

太平の卓は、プロ歴15年のラストイヤー実力派3人とぶつかった。
競技女王グランプリ4年連続ファイナリスト 坂野三奈(競技)。
圧倒的攻撃力の城野宙生(全日本)
銀王位初代王者 有田守(競技)

結論から言うと卓組がツイていなかった。
しかし、猛者相手に5回戦終了時に卓内2位と大健闘を見せた。
太平は、+4.6ポイントでフィニッシュ。

沖村は、ベテランからルーキーまで各世代が集まった卓だった。
ルーキーズグランプリ優勝+帝雀戦ファイナリスト経験者北村裕也(競技)。
電現の代表の新田天。
そして、今回がプロ初対局の1年目ルーキー 島井元龍(雀士協会)。

以上のメンツだったこともあり、5戦3勝全連対で卓内トップ。
+203.6ポイントとまずまずだった。
新田は苦しく、予選敗退が濃厚となった。

2人が落ち合う。
「お疲れ~。」
「お疲れ様です。」
「どうだった?」
「私はちょっと・・・。」
「そっかぁ。発表終わったらご飯でもどう?」
「行きます!」
「よし、じゃあ結果待ちだね。」

2人が落ち合った16時過ぎころ。
オフィスに訪問者が来た。
日ノ出である。
「年末ということで、これまで来れず申し訳ありません。」
「いいんですよ。会社はいかがです?」
「旅行シーズンですからね。かなり忙しいです。」
「こちらのことは気にせず、出れるときは報告ください。」
「分かりました。年末年始はかなり厳しいかなと・・・。」
「無理より健康が大切ですから。」
「ありがとうございます。それでは失礼いたします。」

「日ノ出さんに会えてよかったですよ。元気そうで何よりです。」
橋口がホッとした。
「よかったね。うーみん。」
「うん。元気にこそ越したことはないから。」
「そうだな。」
笑顔でオフィスは包まれた。

「橋口。忘れてないか生配信。」
「あ。」
「準備はしないと。」
「うーみん。速報で布崎さん残ったって。統一ツアーは17時半だって。」
「じゃあ見れそうだ。早くするぞ。」
「2画面で見よう。」

まずは、ROYALTears 本戦出場者発表配信。
二人の運命が大きく決まる。
「皆さまお待たせしました。全国予選全対局が終了しました。本戦に進んで頂く100名を只今より1位から発表いたします。」

「第1位 東京予選 プロ競技麻雀協会 握本 拓 +342.6ポイント 」

発表が続く。
「第14位 東京予選 全日本麻雀連盟 沖村 凛 +203.6ポイント」
「沖村さんやりましたね。本戦はかなりチャンスですよ。」
「まぁ焦るな。」
「みくちゃんもお願いします。」

「第100位 広島予選 プロ競技麻雀協会 小見 鯉斗 +18.6ポイント以上になります。」

画面を切り替える。
ちょうど始まる瞬間だった。

「ただいまより統一ツアー決勝戦を行います。」
「始まりますね。」

「では、選手入場。」
四方から選手が入ってくる。

特設ステージにて選手がそろった。
「男子ツアーからは、王者 布崎勇気。準優勝 来田紀夫。」
「女子ツアーからは、王者 阪野あずさ。準優勝 若宮香菜。以上4名です。」

「若宮って・・・。」
「鳳さんまさか!?」
橋口と金洗が顔を見合わせた。

口を結び、眼光を鋭くしていた鳳が話し始める。
「ああ。おそらくな。豹田さんの弟子だ。初めて見た。」

結論から言うと、統一ツアーはその若宮が制した。
1対局1倍満を全対局で決め、プロ初優勝を達成した。
初タイトルが統一ツアー制覇というのは、史上3人目の快挙である。

「これは、あっぱれだな。」
鳳が試合終了後、拍手しながら言う。
「ええ。リーグ・ザ・スクエアにもきそうですね。」
「さくちゃん。厄介になるかな?」
「うん。こんな攻撃派はなかなかだしね!」

解散後。
橋口が、心がざわざわした。
急いで帰宅し、若宮の過去に一番勝った大会の映像を探した。
対局を見ると、合点があった。
「うそでしょ・・・。やっぱりだ・・・。」
橋口は、衝撃を受けた。

第24話へ続く。


















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