スズメの巣 第5話

第5話 話す相手

4月はあわただしく過ぎた。
プロジェクト始動からチーム名やらシステム。
あいさつ回りなどが済ませたらあっという間に5月になっていた。

橋口はとんでもなく緊張していた。
というか、チームスタッフ全員が緊張していた。
この日は、16チームのチームスタッフがそろう会議だった。
「大丈夫でしょうか?」
「大丈夫であってほしいけどな。」
「不安しかないねぇ。」
「私お花摘み言っても大丈夫ですか?」
かなり混乱していた。
ホテルの宴会場の前のスペースで挙動不審になっていた。

そんな中で、声が聞こえた。
「あの・・・。もしかして金洗さんじゃないですか?」
「えっと。あっ天津さんですか!お久しぶりです。」
「どうも」
「この方は?」
橋口は尋ねた。
「横浜中華ジパングの天津さん。試食会とかイベントの打ち合わせでお世話になっているの。」
「天津です。横浜シティドラゴのチームスタッフもやってます。」
「橋口です。この度参入するJOYグランドスラムのチーム担当です。」
「ということは、金洗さんもチームスタッフですか?」
「そうなんです。」
「ライバルですね。でも、わからないことがあれば何でも聞いてください。」
「ありがとうございます。よろしくお願いします。」
そう言って会話を終えた。坊主頭でふくよかな男性だった。

「みなさんまもなく会合を始めます。お席へのご移動お願いしまーす。」
運営側の男性がそう叫ぶと、ざわざわしながら席へ着いた。


会合が始まった。
会合には、チームスタッフだけでなく各団体の幹部も出席していた。
最初に昨シーズンの成果と反省が挙げられ、次に8チームの参入承認を済ませた。
今シーズンから参入するのは、8チーム。
参入チーム
・大阪ラフミカエルス(スマイリエンタテインメント)(芸能マネージメント)
・オダイバ e レインボーズ(ピコンゲームス)(ゲームメーカー・ゲーミングPCプロデュース)
・キャピタル麻雀部 (ラジオキャピタル)(ラジオ局)
・JOY V-deers(JOYグランドスラム)(エンタメ)
・神保町ブラックタートルズ(亀陽出版)(コミック誌など出版)
・乃木坂アイロンマレッツ (サロンドエトワール)(美容院チェーン)
・幕張麻雀闘宴団(株式会社シンク)(イベント企画・チケット販売企業)
・夕暮れポセイドンズ(寿司の海んちゅ)(回転寿司チェーン)

以上の8チームだ。
幸い愛田の資料が役に立った。
ピリピリしながら2時間近くの会合を終えた。

「何とか終わりましたね」
橋口がふうと一息ついた。宴会場の前でだ。
「ここからがスタートだぞ。」
「わかってますよ。」
「メンツを見て萎縮しちゃったんじゃないのぉ~。」
鳳は冷やかした。
「してませんよ!」
橋口は軽くキレた。
「まったく。まぁいいです。この後はミーティングでお話しした通りそれぞれが一番気になる選手に面談をします。」
「そうだな。最初の面談だしな。」
「選手には選考レースの件はくれぐれも内密にお願いします。」
「了解です!」

鳳が口をはさんだ。
「少し小話。面談はすでに始まってるらしいねぇ。」
「どういうことですか?」
「ここで知り合いから聞いたんだが、うちのチームはすでに動いていると言っていた。そのチーム以外にも4チームは動いているらしい。」
「本当ですか?」
「ああ。早めに唾つけといて損はないでしょ。」
「わかりました。ありがとうございます。では、この報告は来週の定例ミーティングで報告しましょう。じゃあ解散ってことで。」

日は過ぎて定例ミーティングの日。
それぞれが一番気になる選手の資料から映像まで幅広く用意された。
「では、報告を始めます。私からでいいですか?」
「そうだな。そうしよう。」

橋口の報告が始まった。
「私は若手のスポーツ麻雀振興会の太平さんと面談してきました。」
「橋口が気になってた太平さんだな。」
「はい。この人は確実にとりたいです。」
報告を始めた。

会合の後、メンバーと別れ、JOYグランドスラムが運営する個室カフェに向かった。
アポイント相手が待つ個室へ入った。
「お呼び立てして申し訳ありません。」
「いえいえ。とんでもないです。」
黒髪セミロングで女子大生ぐらいだろうか。
クールでどこかかわいさのあることから清楚系でどっかのあれかな?とも思った。
橋口はこう思ったという。
「超かわええ―――!!!!!!!!!!!」と。

橋口が一つ咳払いをしてから話し始めた。
「改めて私は、リーグ・ザ・スクエアJOY V-deersチーム担当の橋口海と申します。」
「スポーツ麻雀振興会に所属している太平みくです。よろしくお願いいたします・・・。」
話した感じおとなしそう。言い方を変えれば陰キャのにおいがした。

「早速ですが、天下人獲得おめでとうございます!」
「あぁ・・・。ありがとうございます・・・。」
「初めての大舞台だったんじゃないですか?」
「はい・・・。まぐれかもと思うのですが・・・。」
「いやいや。実力ですよ。」
「そうですかね?アンチの方からはまぐれって声が多くて・・・。」
「そんなことないですよ。私みたいな麻雀ド素人でもあのあがりはすごすぎますよ。」
「うーん・・・。」
「私は誰が何と言おうとあなたの味方です!」

そう言うと太平は泣き出した。
橋口は困るしかなかった。
「うっ・・・うっ・・・。優勝後いろんな方とお話ししたんです。でも私の前では褒めるだけで裏で「ありゃまぐれだ。」とか「うちではあんな性格だとやっていけないでしょ」とか悪口言ってるのも聞いてしまって誰も信じられなくて・・・。」
「そうだったんですね・・・。」
橋口は同情した。


さらに聞くと、太平は予想通りの陰キャだった。
学生時代は、かわいいからと嫉妬されたりして無視を日常的に受けていた。
自分の顔がコンプレックスとも話した。
クラスにはなじめず昼休みは図書室にこもり、図書室の仲間と遊んだり、本を読んだりしていた。
その結果として高3の学年末テストでは学年で総合1位になったそうだ。

大学ではなく専門学校に進学したが、ここでも馴染めず簡単に言えば3軍でおとなしくしていた。
そんな中で、プロと麻雀を打てるイベントがあった。
学校から徒歩5分。行けないわけではない。
気晴らしに参加してみることにした。
そこから沼にハマったそうだ。
その際に、スポーツ麻雀振興会の森代表から「君はプロになるべきかもね」と言われたという。
専門学校は上位で卒業し、卒業と同時にプロテストにも合格した。
入会1年目の去年。
タイトルこそないが、選抜された新人女流10名が鎬を削る団体統一シンデレラバトルに選抜された。
決勝の3回戦での大逆転が響き優勝した。
本物のシンデレラだった。

一通り話を聞いた橋口は、相槌を打って問いかけた。
「ちなみに。リーグ・ザ・スクエアに興味はありますか?」
「えっ。えっ・・・と。ないわけではないですが、私なんかが出る場所じゃないです。」
「いや、あなたは出るべきです。あなたじゃないと我がチームがいつまでも優勝できないでしょう。それとも他チームからも誘われてる感じですか?」
「他チームから2つですが、実力不足ですし。」
「天下統一戦決勝最終戦前、あなたの目の色が変わった気がしたんです。そこでびびっと来ました。」
「そうなんですね。分かりました。一回持ち帰らせてください。ドラフト会議まではまだ3か月近くありますし・・・。」
泣きながら答えた。
「分かりました。いい返答を待ってますね。」
そう言って個室カフェを後にした。


「そうだったのか・・・。」
「おそらく社会の常識では、コミュ力がないだの陰キャ過ぎるだの言うでしょう。ただ、彼女は自分らしい働き方も実現しているそうです。副業としてプロ雀士をしているといいますからね。彼女自身輝きたいともがいているでしょう。」
「獲得できそうなの?」
「分からない。ただケアはかなりしないといけなさそうね。電現の代表の天ちゃんのいってた通りだわ。」
「アンチから守ってほしいってやつだねぇ。」
「選手調査と同時にケアも考えていきましょう。」
そう言って橋口の報告を終えた。

「じゃあ次は俺か。」
「鳳さんですか。お願いします。」

第6話へ続く。


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