スズメの巣 第4話

第4話 大一番

橋口は、候補者から絞るドラフト指名レースをシステム化していた。
ポイント加算は、優勝は100ポイント加算。
2位50ポイント。3位30ポイント。4位は20ポイント加算となり、
次回戦進出もしくは卓内トップのたびに5ポイントずつ加算されていく。
なお。5団体以外主催の外部試合は一律2倍となり、優勝は200ポイント加算とした。

橋口は、伸びをしながらパソコンを閉じた。
すると、愛田が時計をチラッと見て「そろそろだな。」とつぶやいた。
橋口は、気になって聞いた。
「何がですか?」
「麻雀天下統一戦だよ。全国のチャンピオンが集まる。」
「すごいですね。でもこんな朝早くからですか?まだ、10時前ですよ。」
「準決勝と決勝は一日でやるからな。こんな早いわけ。」
「へぇー。」無気力の返事をした。

麻雀天下統一戦。
昨年度のプロのタイトルホルダーが全員集合する大会で4月に開催される。
この大会は、地方勢のタイトルホルダーも招待されるため、下剋上が起こりやすい。
2回戦は団体最強や二冠がシードで、3回戦は昨年3冠以上を達成したものだけがシード権を得る。
優勝者は、麻雀天下人というタイトルを獲得する。
優勝賞金は1000万円と麻雀大会ではトップクラスの賞金だ。

「すごい大会ですね。」
「参加者は毎回120名ほどで、無名の新人が覚醒するシンデレラストーリーも起きやすいな。」
「候補者が増えるかもですね。」
「まあな。」
そんな会話ををしていると、金洗が出勤してきた。
「おはようございまーす。あっ今日でしたっけ?天下統一戦。」
「そうだぞ。」
「やっぱ知ってんだ。」
「もちろんだよぉ。知ってるというか出たことあるし。」
橋口と愛田は、言葉を疑った。
「は?」
「へ?今なんて?」
「だから出たことあるのよ。この大会に。」
「何のタイトルで出たんだ?」
「愛田さんも知らなかったんですね。一応3年前に天姫位としてですけど。1回戦負けでしたけど。」
橋口と愛田は驚くほかなかった。
「始まりますよ!」
その言葉で現実に戻った。

映像に注視する。
10時になった瞬間。盛り上げる音楽が流れ始めた。
まるで、ライブのOVERTUREのようだった。
「全国の麻雀ファンの皆様。おはようございます!昨年度の各々の激闘を制した猛者たちがここに集結しました。その中で残ったのが、12名です。今年の天下は誰が取るんでしょうか?」と煽り始めた。

準決勝は1半荘勝負。
A・B・Cの3ブロックに分かれて戦う。
トップは即決勝進出。2位はプレーオフ進出。
3位は3ブロックの中で最も点数が高かった1名がプレーオフに進出。
ラスは即脱落となる。
いわば点数もカギを握るサバイバル勝負と言えよう。

プレーオフを挟み、決勝戦を迎えた。
時計は、17時を回っていた。橋口は軽くびっくりした。
「もう17時ですね。」
「この試合は長いからなぁ」
「日付回ったこともありましたよねぇ」
「そうなの!?」
橋口以外は驚く様子もなかった。

決勝戦は2半荘の合計ポイントが高いものが優勝。
メンバーは、このメンツだった。
Aブロック代表 現雀猛位
榊 愛斗(全日本)。
Bブロック代表 現電現王座
新田 天(電現)。
Cブロック代表 現3冠・現麻雀天下人
赤坂 五十六(全日本)。
プレーオフ勝者 団体統一シンデレラバトル初代王者
太平 みく(振興会)
と実力者VSルーキーという構図ができた。
橋口は、なぜかルーキーの太平が気になってしょうがなかった。

1回戦は、ベテランの貫禄を見せつけ赤坂が放銃なし。
高打点の完全試合を達成し、1人を箱下に沈める。
赤坂、太平、新田、榊という順になった。

2回戦が始まろうとしたとき、橋口は何か心がざわざわした。
その様子に気が付いた金洗は橋口に問いかけた。
「どうかしたの?」
「いやなんでもない・・・。」
「何でもないことはないでしょ。なんかあるなら言って!」
「なんかこの試合。太平さんが勝つ気がする。」
「どういうこと?」
「なんか光ってる気がしたの。目が変わったというか・・・。」
愛田はそれを聞いて「直感で感じることはあるだろう。ただ今回はかなり難しいだろう。」
金洗も同調した。
「そうですね。今回は難しいかもしれないですね。この点数状況じゃあ・・・。」
ふと、金洗は心の中で思い出した。
「あれ・・・。うーみん前もそんなこと言ってた気がするなぁ・・・。」

2回戦が始まった。
東場は赤坂の独壇場だった。
1回榊が赤坂から跳満を上がるも、返り討ちの倍満を赤坂に放銃した。
これは、赤坂優勝のムードが漂っていた。

しかし南2局、太平の親番で異変が起きた。
太平が4連続跳満を上がった。
他からのリーチもはねのける押し具合を見せ、7本場を終えた。
そして、8本場に入るころには10万点を超えた。
そんな中で手牌を見るなり、太平は「ツモ」と小さい声で言った。
他3名は、驚くしかない。
「16000は16800オール」と太平は言った。
天和。役満だった。
天下統一戦では役満は出たことがあった。
しかし、意外にも決勝戦では初である。
ましてや、天和あがりは天下統一戦史上初だった。
そして、オーラス。
赤坂が親の役満でテンパイを取るも、太平が満貫を赤坂から打ち取り、見事麻雀天下人の座を手に入れた。

橋口は、終わるなり「この子確実に欲しいです。」と話した。
「何か引っかかるものがあったんだな?」
「タイトルとしては少なく、未知数な選手で今調べたところ、団体ではDリーグで昇格まで遠いです。しかしながら、チームの柱になってくれると思うんです。」
「ドラフト会議の抽選で負けたら?」
「他のチームから出るまで諦めません。というか他のチームが取らない気がするんです。」
「でも、天下人だぞ。注目度が高いタイトルだ。」
「うちが必ず取ります。おそらく獲得できなければ、社長目標は厳しいです。」
強気な目をしていた。


そんな中で、金洗は言葉を発した。
「愛田さん。今回はうーみんを信じてもいいかもしれないです。」
「さくちゃんありがとー!」
「どういうことだ?」
「実際に成功例が過去にありますから。」

それは、橋口に対して部署が移動してから一度だけ相談したことがあったと金洗は話す。
新店舗の店長を一週間以内に決めろ。
そんな無謀な指令をカフェ事業部の当時の部長から出された。
そんなの無理だ。諦めていた。
社員たちの経歴や仕事内容を見て判断したが、決めかねていた。
かつ、エリア内と絞られていたので難航を極めた。

そんな時に、本社内で久しぶりに橋口に会った時にそのことを相談した。
橋口は「もし良かったら手伝おうか?ちょうど企画の谷間で空いてたし。」と快諾した。
会議室を借り、一通り資料を橋口に見せた。
「うーみんはどの人を店長にすべきかなぁ?」
「うーん。ピンとくる人はいないなぁ・・・。」
「やっぱ、そうだよね・・・。」
「もし良かったらこの後カフェでお茶でもしようか?リフレッシュもかねて」
「そうだね。そうしよっか。」
そう言ってJOYグランドスラムが展開するカフェの一店舗で休憩することにした。
簡単に入りやすいが競合他社も同様な店舗を経営しているため、差別化が欲しいところだ。

そんな中で、橋口は落ち着きが無くなっていた。
「どうした?うーみん?」
「いや・・・。ちょっとねぇ・・・。」
「なんかあるなら言って!」
橋口は迷いながら言葉を発した。
「分かった。もしよければあの子いいんじゃない?」
「あの子?あの子はバイトの子ね。今就職活動中らしいわ。」
「さっき聞いた新店舗のコンセプトに合ってそうな気がするの。」


金洗は悩んだ。バイトを店長というのはどうなんだろう?
タブレットで面談したときの資料や履歴書を探した。
すると、情報がドンピシャだった。
金洗は腹をくくった。
「責任は私が取るわ。うーみん本当ありがとう!」

そのバイトは、ホテル系の専門学校に在学していた。
そのバイトの子に店長の件を打診した。
就職活動に悩んでいたそのバイトは悩みながらも正社員として働けるという条件も飲み承諾した。
部長は納得していなかったが、いざオープンすると大成功。
個室カフェというのが旅館や料亭のようなおもてなし精神をくすぐり、パーソナルスペースを確保できると大繁盛。
また、バイトから大企業の店長への成り上がりストーリーはメディアの取材も殺到した。
いまや、某スーパーの社長ぐらいテレビに出ていた。

そう語った金洗は力強く発した。
「絶対取ろうね!うーみん!」
「もちろん!」

夜が深くなるが、徐々に暖かくなる外と同じように、何か心が熱くなる感じがした。

第5話へ続く。


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