スズメの巣 第2話

第2話 イカつすぎない?

カンパーイ!!

グラスをぶつけると、高らかに心地いい音がした。
ジョッキに入った泡があふれそうだ。

橋口は、一気にあおり、半分近くを飲み干した。
すると、「もう何からすればいいか分かんない」と愚痴を始めた。
「分かるよ。私も何すればいいか分かんないもん。」

男子禁制の女子会は愚痴、毒、噂のオンパレードだった。
そのなかでも、仕事についてはかなりの量を占めた。
酒が進む中で、「まぁ時間があるのは幸いだね」と橋口が発した。
「確かに何とかなりそうだけど。」
「そういえば、ドラフトっていつだったっけ?」
「えっと、7月の半ばだね。」
「はっ?」

橋口は茫然とした。
「マジで・・・。あと3か月しかないじゃん。」
「社長から言われてないの?決議が結構遅れたって言ってたけどこんな急とはねぇ。」
「まったく。10月ぐらいって思ってた。」
「それプロ野球のドラフトじゃない?ちなみに開幕戦は、9月だよ。」
初耳だった。
まずい・・・。急がなきゃ・・・。
酒の味はしなくなり、酔いは一気にさめた。

翌日。
橋口は早めに出勤してレギュレーションをさらに調べていた。
リーグ・ザ・スクエア来シーズンのルールを調べていた。
・1チーム男女混合で4名
・1日2試合。1部リーグは対局が夜に4日ある。
・今シーズンから創設された2部リーグは昼間2日間である。
・2部リーグのシーズンは1部リーグのジャパングランプリ予選終了まで継続。

ちなみに、1部リーグはレギュラーシーズンで2チーム脱落かつ1位チームはジャパングランプリ本戦進出。
その後のジャパングランプリ予選で2位から6位チームの中で、2チーム脱落かつ残った3チームがジャパングランプリ本戦(優勝決定戦)進出となる。

そして今シーズンから開始する1部と2部の入れ替え戦はジャッジメントトーナメントと呼ばれる。
1回戦は1部リーグ7位8位チームと2部リーグ2位3位チームで4試合行い、上位2チームがファイナルステージ進出となる。
下位2チームは2部降格または残留が確定。
ファイナルステージは、1回戦勝利チーム2組に1部リーグ6位と2部リーグ優勝チームを加えて行い、勝ち抜き戦を実施。
各試合2人勝ち上がりでチームが全滅したら終了。
上位3チームが1部昇格か残留となる。
同率で全滅した場合はポイントが高いほうが1部残留か昇格を決める。と言ったところだ。

そんなことを調べていると、鳳が出勤してきた。
「おはよう~」
「おはようございます。先輩。」
「早いねぇ。」
「ちょっと調べものしていて」
「まぁいいんだけど。」と言って席に着いた。

その後愛田と金洗が時間差で出勤した。
それから11時ごろミーティングを始めた。
そこで、金洗からある提案がなされた。
「参加しているプロ団体5つへまずはあいさつ回りをしませんか?」
「たしかにそうだな。そうしよう。」
「そうね。そうしましょう。」と愛田と橋口は賛成するも鳳は顔を曇らせた。
「どうかしましたか?」
橋口が尋ねた。
「いや・・・いいんだけど。ちょっと怖いんだよなぁ。」
「そうなんですか?」
「あぁ。実際は優しい方なんだが、なんか顔が怖いというか。」
「まぁ顔で決めるのはよくないですけどねぇ」
「まぁ何とかなりますよ。」と愛田が言った。
「まぁそうだな。」鳳は渋々頷いた。

それから、アポイントを各団体の代表に取り、2手であいさつ回りをすることになった。
橋口と鳳、愛田と金洗という組み分けになった。

さっそく1件目のアポイントに向かった。
「鳳です。お久しぶりです。」
「初めまして。橋口と申します。」

最初の相手は、スポーツ麻雀振興会代表の森さん。
スポーツ麻雀振興会は競技として運を排除したツモ上がりできないルールとしてイカサマや賭け麻雀は、即追放というスポーツマンシップに厳しい団体だ。
鳳は知り合いらしく、何度か対局したことがあるそうだ。
穏やかな口調ながらも、風紀委員のような風格が感じられた。

橋口は、「森さんは、リーグ・ザ・スクエアについて必要な選手とはどのようにお考えですか。」と尋ねた。
「そうですね。マナーを守ることに越したことはないでしょう。」
「強さじゃなく?」
「ええ。確かに強さはある選手は多いですが、強さとマナーを守るこそが真の最強だと思いますな。」
「おっしゃる通りですね。」鳳は同調した。
「現に昨シーズンの名前は伏せますがマナーが悪すぎてレッドカードを出された選手がいました。強さはありますが、昨シーズンはボロボロ。通算でもマイナスなので今シーズンの戦力外は免れないでしょう。」
森さんの毒を帯びた一言に橋口はキョトンとし、鳳は苦笑いをするしかなかった。

森さんと別れ、鳳と橋口が2件目のアポイントに向かっている中で気になっていたことを聞いた。
「あの鳳さん。」
「どうした?」
「そんなに怖くないじゃないですか。あの毒はなかなかでしたけど。」
「あの件ね。怖いのは1番最後。それ以外の人は怖くないから。あと、そのレッドカードを出された選手ってのも振興会の人だから。」
「そうなんですね。」
「なんか緊張しちゃうんだよねぇ」と話していると2件目のアポイント相手がいる場所に着いた。

「よっ。新田さん。」
e-sportsイベントの運営の打ち合わせが終わったのを見計らい、鳳は声をかけた。
「あー鳳さん。お久しぶりです。こちらの方は?」
「橋口、挨拶して。」
「今シーズンより下部リーグで参入することになりました。JOYグランドスラム リーグ・ザ・スクエアチーム担当の橋口です。」
「女性の方なんですね。うれしいなぁ~。」
黒髪にピンクのメッシュが入ったこの女性は新田 天(にった てん)。
プロ電現麻雀連盟という団体の代表で一番新しい麻雀の団体だそうだ。
橋口の年齢の2個下だそうで橋口は動転していた。
「お、お若いですね。」

プロ電現麻雀連盟。
通称「電現」は、20年前のネット普及当時からネット麻雀は立派な競技として考えている。
そしてリアル麻雀も行い、デジタルとリアルの融合を目的としている。
最新のE-sportsという分野にも強い。

彼女は、プロになって5年間で自団体のタイトル8個を全制覇した若きルーキーである。
その実績が買われ、団体改革の一手として2代目の代表に指名された。
他の団体への交流も盛んに行い、他団体のタイトルも獲得し始めている。
リーグ・ザ・スクエアの選手の一人で大手外食チェーン「横浜中華ジパング」がオーナーを務める「横浜シティドラゴ」に所属している。
昨年は、ジャパングランプリ予選敗退を喫したそうだ。
彼女自身会社にて副業で勤務しているそう。


橋口は早速聞いた。
「選手としてチームに求めるものって何ですか。」
新田は顎に手を置きながらこう答えた。
「そうですねぇ。練習場所もですが、認めてくれることですかね。」
「なるほど。」
橋口はメモを取りながら相槌を打った。

新田は続けて「あと、アンチからの誹謗中傷から守ることだと思うんです。」と語った。
「それはなぜです?」
「やっぱりメンタルスポーツとはいえダイレクトに受けると参っちゃうんですよね。だからこそ選手の負担を減らして、チームとして守ることも大切と思います。」
「そうですか。ありがとうございます!」
「私はまだイベントの打ち合わせがありますので失礼します。」

新田と別れた二人は、昼飯にするかとファミレスに入った。
お互いに昼食をほおばりながら話した。
「新田さんってかなり芯が強い女性ですね。私より年下なのに。」
「まぁそうだな。初めて会った日も、麻雀をもっとe-sportsのようにスポーツとして認知したいって言ってたし。」
「それが麻雀にも表れてるんですか?」
「そうだな。彼女は強気な姿勢があるからな。だからこそ1戦1戦が苦しそうなんだよ。」
「そうなんですね。」
そういいながら、昼食を食べ終えた。

鳳は、「行きたくねぇな」とボソッと言った。
「もう腹くくってください。」
「そうだな。」
そして、3件目のアポイント相手のいる場所に向かった。
3階建てのビルですべてその団体の施設だそうだ。
橋口たちは、2階に向かった。

2階は事務所らしく、事務員のような方が応対して下さった。
「本日17時からお約束しております。JOYグランドスラムの橋口と申しますが。」
「えっと・・・。どうしようかな。」
「どうかされたんですか?」鳳が聞く。
「今代表は、1階の道場で小学生を対象とした麻雀塾をやってまして少し押しているんです。」
「そうでしたか。じゃあ少し待たせて頂いてもよろしいでしょうか。」
「ちょっと待ってくださいね。今内線でおかけしますから。」
「恐れ入ります。」
内線をかけてもらうと事務員さんが笑顔になった。
「そうですか。失礼します。」
「ではせっかくなので、1階の麻雀塾を見学してください。」
「あっ。ありがとうございます。」

そう言って1階に向かった。
そこには、子供たちの笑顔、悔しい顔など多く見れた。
すると、こちらを見る視線に殺意を感じた。
鳳と橋口が恐る恐る見ると、スキンヘッドの恰幅のいい男性がいた。
簡単に言えばコワモテだった。
あっこの人だ。
橋口はびびっと来た。
麻雀塾が終わるのを待って、声をかけた。

「来シーズンからリーグ・ザ・スクエアに参加することになりました。JOYグランドスラムチーム担当 橋口と申します。よろしくお願いいたします。」
「同じく鳳です。お久しぶりです。」
ジーっと見る目が怖すぎた。
やばいなんかやらかしたかも。
橋口は思った。

すると、代表は笑顔になった。
「そうでしたかぁ!お待たせして申し訳ございません。プロ競技麻雀協会会長の早田万次郎と申します。よろしくお願いいたします。」
腰は低く、これこそギャップ萌えというべきか。橋口はニヤッとした。

プロ競技麻雀協会は、歴史が最も深く会員数も5団体で、最多となっている。
特徴なのはプロリーグがなく、ルールがタイトル戦によって異なることが特徴だ。
かつ、団体内の7大タイトル戦をテクニカルセブンスと呼び、その覇者7名と前年王者を合わせた8名で戦う帝雀戦が団体最強となる。

早田会長にも橋口は尋ねた。
「リーグ・ザ・スクエアに足りないものって何だと思いますか?」
「そうですねぇ・・・。強いて挙げるなら多様性でしょうか。」
「多様性ですか。」
「強い選手が多いに越したことはないのですが・・・。もっとルーキーやベテランなどにも勉強の機会として参加する機会が欲しいですね。」
「なるほど。分かりました。ありがとうございます。」と言ってあいさつを終えた。

「すみません。遅くなっちゃって・・・。」
早田会長はやはり優しい。
「いえいえ。こちらこそありがとうございました。」
「今後ともよろしくお願いいたします。」

そんな会話を済ませ、施設を去った。
「最初はやっぱりビックリしましたね。」
「だろ。慣れてくると話しやすいんだけど。」
そんな会話をしているとスマホが鳴った。金洗だ。
「うーみんお疲れ!こっちも終わったよぉ。」
「了解!じゃあ明日報告しよっか。」
「今日は解散ね。お疲れ様」と言って電話を切った。

「ということなんで、今日は直帰しましょうか。」
「おっそうか。じゃあお疲れさまってことで」
「お疲れ様です。」と言って別れた。

輝く夜景を横目に帰宅した。

第3話へ続く。






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