スズメの巣 第37話

※この物語は、フィクションです。

第37話 夢を掴め

5月。
金洗が責任者となって進めている「JOY V-deers新メンバーオーディション」が始まった。

反対が危惧されたが、鳳も愛田も積極的にゴーサイン。
ましてや、かなり協力的だった。

鳳は、人脈を活かしJOYグランドスラムが誇る各地の麻雀猛者が運営のお手伝いに来てもらうよう要請した。
その結果、プロに人脈があるもの。麻雀の立会経験者などが手を挙げた。
全国各地で、この戦いが広がるように。
愛田も、もう1つの仕事の傍ら。
大会のレギュレーションを抜かりなく定めた。
その結果、大会が不満なく進んでいく。
このような多くの尽力があり、全国規模でこのオーディションを開催にこじつけた。
おかげさまで、参加者は300人は超えたという。

結論から言えば、準決勝までスムーズに大会が進行した。
残すは、決勝のみだ。
決勝に残ったのは、元リーグ・ザ・スクエア選手・現帝雀位・立直王座経験者・プロ歴3年のルーキーの並び。
SNSでは、オーディションの結果が公表されるごとにトレンド入りを果たし続けた。
現在は、この4人で誰が優勝するかという優勝予想で持ち切りだ。

そんな決勝1週間前。
チームオフィスで、パソコンでひたすら作業している金洗がいた。
時刻は、20時半。

橋口は、その様子を心配そうに見つめていた。
「さくちゃん・・・。そろそろ帰るけど。」
「うん。お疲れ。」
「このころ、ずっと残業してるじゃん。無理はよくないよ?」
「もうすぐ。今日には終わるかな?」
「でも、大事な決勝戦もあるんだし・・・。」
「心配サンキュー。そのためと言っても過言じゃないかな?」
「うん?」
橋口は、首をかしげる。

「これで良しっと。終わったー!」
「ああ、終わったのね。良かった良かった!」
「ふぅ。どうしよっかな・・・。」
金洗は、ニヤニヤしながら橋口を見る。

「何よ!」
「うーみん~。何してたか見たい?」
「まぁ。そりゃあね。」
「秘密にしてくれる?」
「ヤバいもんなの?」
「まぁ・・・。ヤバいね。」
「ああ・・・。気になっちゃう。秘密にする!」
「分かった。じゃ見せるね。」

橋口は、荷物を置いて金洗のパソコンへ。
「じゃ行くよ~。」
金洗は、ノートパソコンのスペースキーを押した。

動画を終えた時。
「さくちゃん・・・。」
「どう?」
「めっちゃいいじゃん!!」
「良かった。これでどうにかなるといいんだけど。」
橋口は、若干興奮した。

そして、1週間後。
決勝の日がやってきた。

今回は、自社スタジオに麻雀卓を置いて生配信する。
JOYグランドスラムは、エンタメ事業も手厚い。
自社制作の番組や、制作協力もしている番組もある。
だから、自社スタジオを持っているわけだ。
カメラマンを初め、技術スタッフの力も借りた。

いよいよ生配信が開始される。
失敗は出来ない。
緊張感が高まっていた。

正午。
生配信が始まった。

すると、直接スタジオではなく映像が挟まれた。

そこには、リーグ・ザ・スクエアでのV-deersの活躍。
太平が天下統一戦を連覇したときの涙。
布崎の男子ツアー優勝。
沖村の試合中の苦悶の表情。
そして、去った日ノ出の雄姿が映像で流れた。

そのモノクロ映像を背景に、ナレーションがつけられる。
「昨シーズン参戦したJOYV-deers。今年は1部で戦います。出会い別れ色々ありました。私たちは前へ進みます。」
ナレーションは、終わらない。
「チャンスは多ければ多いほどいい。チャンスに挑んだ者はまたチャンスがやってきますように。勝ち取った者は、新天地で頑張れますように。JOY V-deers新メンバーオーディション決勝戦!!」

そう言うと、ガランと映像の雰囲気が変わった。
決勝に出場する4名の紹介が流れる。
そして、1人ずつ入場してきた。

これが、金洗が制作していたモノだった。
スタジオ裏で見ていた橋口と金洗が固い握手をした。

というのも、金洗が動画を橋口に見せた際。
こんなことを言っていた。

「なんかこれでチャンスをムダにしてほしくなくて。これがきっかけとなって負けたとしても色んなチャンスにつながってほしいなって思うわけ。」
「なるほど。」
「いわゆる、煽りVで4人への感謝とカッコよさをアピールしたかったの。」
「そういうこと!」
そんな思いがあったそう。

決勝は4回戦。
一番合計ポイントが高かった者が優勝。
新メンバーとして、ドラフト指名。
仮に、競合になった場合は次点の選手が対象となる。

結論から言えば、4回戦中3回トップを獲得したプロ競技麻雀協会の平本渚が優勝。
プロ歴10年で、立直王座を1度制覇している。
帝雀戦では、ファイナリストに残った実力に問題ない男である。

そんなこんなで、新メンバーオーディションは成功に終わった。

金洗が、橋口と話す。
「ありがと!うーみん!」
「なーに。実現できてよかった。」
「本当にスムーズにいってよかったよ!」
「そうだね。」

ホッと一息つく。
「でも、これからはうーみんの番だね。」
「どゆこと?」
「みんなで支えていくから。このチームよろしくね!」
「さくちゃんもよろしく。」
「うん!」

つづく。








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