スズメの巣 第25話
第25話 天下の前に生き残ろ。
年明け。
お正月休みをはさみ最初の試合で、日ノ出が爆発。
連闘連勝。スランプから脱した。
その他も好調で、チームは現在1位につけている。
残り8節16試合。
どうなるか分からない。
そんな中、試合中に橋口が作業しているととある情報が入ってきた。
「麻雀天下統一戦 大会概要・全出場者決定」
「天下統一戦の出場者決まったそうです。」
そう呼び掛けた。
「おっ来たか。」
「ついにだね!」
選手とスタッフが集まる。
太平は、準決勝。
布崎は、1回戦スタートとなる。
「やっぱり結構なメンツだなぁ。」
鳳が嘆いた。
「そうですねぇ。」
金洗が同調する。
全員タイトルホルダーだ。
そう思うのも無理はない。
ぐっとこらえてもらう他ないかもと思っていた。
橋口ははっと思い出した。
「それもそうなんですけど。1部リーグってグランプリの予選ありましたよね。ってことはもうすぐ最終節ですね。」
「あっそうか。1月末には敗退が決まるのか。」
「ですね。」
シーズンも終盤に差し掛かり、1部リーグは次節で2チームが脱落する。
ダイヤモンズは、ジャッジメントトーナメントも欠場を発表した。
チーム解体は濃厚だという。
なお、ジャッジメントトーナメントは急遽変更され、1部最下位チームに加えて2部2~4位チームで行われることになった。
つまり、2部優勝チームは1部昇格が決定するという。
グランプリ予選は5チームで行われる。
1部リーグ最終節2日目スタート前の順位はこうだ。
1位 横浜シティドラゴ
ーー グランプリ本戦進出ボーダー ーー
2位 RAKUWAホビーウォーリアーズ
3位 TUNOYAMAパールズ
4位 有楽町麻雀カルテット
5位 海王ゴールドバンディッツ
6位 六本木桜花隊
ーー 降格候補ボーダー ーー
7位 麻雀組 焔
1位争いは、ほぼ決まりつつあった。
2位との差は、250ポイントと大きく、かつシティドラゴ・ホビーウォーリアーズ・パールズは、最終節1日目でトライアングルルールにて対戦し、ポイントが確定した。
試合が残っている最高位の有楽町との差は410ポイントであるためほぼ確定である。
ましてや、麻雀カルテットは降格争いに参戦した。
4位から7位までの差は、95ポイント以内でありどのチームでも入れ替えプレーオフ。ジャッジメントトーナメントはあり得る展開に。
4位 有楽町 -38.6ポイント
5位 海王 ー79.1ポイント
6位 六本木 ー100.5ポイント
7位 焔 ー136.3ポイント
「鳳さん。今の順位と今シーズンを見て降格しそうなのってどこですかね?」
橋口が申し訳なさそうに聞く。
「うーん・・・。」
鳳は険しい顔を崩さない。
「鳳さんが悩むって相当ですね。」
金洗は驚いていた。
「いや、正直言うとどのチームが落ちても不思議はない。」
「ええっ?!」
「この4チームは今季決定打を逃す試合が多かった。ましてやエースが不調だ。」
「強いてあげると?」
「強いてあげたいが、この中からは分からねぇな。」
頭をかいた。
「そうですか・・・。」
その言葉を最後に、沈黙が広がった。
そして迎えた1部リーグシーズン最終戦。
ここで負けると、史上初の降格が現実味を帯びてくる。
各陣営、緊張が走っていた。
「浅野ちゃんどうするよ?」
「そうですねぇ・・・。」
焔陣営は、浅野選手兼任監督が悩んでいた。
「この最終戦絶対に落とせない一戦です。これまでの成績を見ても全員芳しいとは言えません。」
「でも誰かを出さないと。」
「ええ。」
「一か八か賭けに出ようと思ってます。」
「どうするんだ?」
沈黙を破った。
「モナちゃん連闘で行きたいです。」
「ええっ!!私がそんな大役無理ですよ!」
「そうだ。プレッシャーに負けたらどうする!!」
年長者である茂手木が、喝を入れる。
「もちろん。ただでとは言いません。」
「どういう意味だ。」
「もしジャッジメントトーナメント行きなら自分のクビ。進退をかけます。」
「そこまで言わんでも・・・。」
「チームスタッフの方とも話しました。みなさんの残留の交換条件に飲んでいただけました。覚悟はできてます。」
続ける。
「おそらく、残留狙いなら固い麻雀を打ってくるでしょう。起爆剤として頑張ってほしいんです。」
冷静に続ける。
「そして、おそらくエースの復活にかけるチームも多いはずです。そしてグランプリ予選は、順位が高いほど有利です。」
「確かにな。」
「私がもし負けたら・・・。」
「大丈夫。自分を信じて。」
そう言って浅野は席に着いた。
17時。
生中継が開始した。
「運命を分ける1日。それが今日かもしれないです。皆様はどうでしょうか?」
「こんばんは。実況の矢面淳です。よろしくお願いいたします。」
「そして解説は、豹田さんです。よろしくお願いいたします。」
「はいどうも。」
「では、第1試合スタメン発表です。」
東 麻雀組焔 鈴古モナ
南 六本木桜花隊 赤坂五十六
西 海王ゴールドバンディッツ 鮫島武
北 有楽町麻雀カルテット 若井波男
「さぁベテラン3人の中に若手の鈴古が入っています。どう見ますか?」
「やはり固い布陣ですね。鈴古をここで起用するとは。意外ですが、爆発に期待したいですね。」
「ありがとうございます。ではこのあとホイッスルです。」
「国歌斉唱が終わりました。では試合開始です。」
鈴古は、とてつもない緊張感だった。
私に浅野さんの運命がかかってるんだもん。
鈴古は、涙目であった。
しかし。逆境に強い。
ホイッスルが鳴り渡る。
結論から言えば、鈴古は第1試合、2着で最下位をまず脱出。
その勢いで、第2試合はトップ目。
つまり、1部リーグの降格候補圏を脱出し、ジャパングランプリ予選に滑り込んだ。
「グランプリ本戦進出は、横浜シティドラゴ。2部降格候補は、六本木桜花隊に決まりました。昨季優勝チームがまさかの降格の危機を迎える結果となりました。」
焔陣営は、狂喜乱舞。
浅野は、鈴古を抱きしめた。
「ありがとう!モナちゃん!」
「こ、怖かったですぅーーー!!(泣)」
「ごめんね。無理させちゃって。」
グスン・・・。
緊張の糸が取れたように泣いた。
一方社長室では、天地社長が激昂していた。
「何てことをしてくれたんだ!!」
「も、申し訳ございません!!」
「会社の人事部を買収して、思い通りの辞令を出すなんて言語道断だ。」
「人手不足だったんです・・・。」
「これは、会社にとって一大プロジェクトだったんだぞ!!」
「本当に、申し訳ございませんでした!!」
机をたたいたが、すぐに冷静になった。
「しかし、人手不足だったというのはこちらにも責任がある。申し訳ない。」
頭を下げた。
「ここは、兼任という形で良ければイエローカードにとどめるが。」
「え?本当ですか?」
「ただし次はないぞ。かつ、ライフワークバランスにも配慮するように。」
「しょ、承知いたしました。」
「出ていいぞ。」
社長は、悩む。
「あれで良かったんだろうか・・・。」
つづく。
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