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エッセイ:大ちゃんは○○である24

僕は左肩に力を入れ、クイっと動かしてみた。
「うーーん、、むにゃむにゃ」
全く気づく気配がない。まあまあまあ、そりゃあそうだよ。クイっぐらいで気づかせることができたなら苦労はない。
ならばと、今度は2段階クイクイを入れてみた。
クイっクイっ!
「むにゃん、うーん」
ほぉー、これでもだめですか。なかなか手強いじゃないですか。2段階クイクイでダメとなると、いよいよアレか。
アレを出すしかないか。
本当はあまり出したくないんだけどなあ。背に腹は代えられない。
僕は一つ深呼吸をして、流し目で太っちょマンを見た。
心の中で
『この技を出すことになっちゃってゴメンね。だって君が悪いんだよ。僕の2段階クイクイで気づかなかったんだから。気づいていればこんなことにはならなかったのにね。この技を出させたのは君が2人目だよ。』と呟いて。
クイっクイっクイっ!
僕は普段ではまぁ~~使わない秘技、3段階クイクイを太っちょマンの右頬にお見舞いしてやった。
ポヨン、タプン、ポヨン。
「ウーン、むにゃむにゃむにゃ。はい、マヨネーズ多めでお願いします。」
繰り出した秘技は太っちょマンには全く通用せず、夢の中でマカロニサラダでも注文をしているのか?というような寝言を引き出すだけに終わってしまった。
この世で、決められたスペースに座らされ爆睡という名の武器で体重を預けられるという攻撃が
実は最強なんじゃないかと思ってしまうほど、ダメージは蓄積されていたんだと思う。
結局、トイレ休憩で立ち寄ったサービスエリアまでの時間を耐えきったわけだが
バスを降りた時にはふらついてしまったほどだったんだから。
さすがに休憩中もバスの中で耐えるのは、いくらなんでもだったので、太っちょマンの右足をバシバシと叩き
「ちょっと!ちょっとすみません!通してもらっていいですか。」と強引に現実世界に引きずり戻した。
太っちょマンはハッと目を覚ましたかと思うと
「えっ!?いや、まだ食べてないです!」
と訳の分からないことを呟いていたが、サービスエリアに着いたこと、トイレ休憩の時間であることを伝えると
「あっ、、すみません。僕も降ります。」と言ってバスを降りていった。
サービスエリアでその時に浴びた夜風の気持ちよさは今でも忘れていない。
死ぬほどお腹が減っている時に食べるご飯然り、めちゃくちゃオシッコを我慢した時にする排尿然り、
極限の状態から解放された時のインパクトといったら何とも言えない清々しさがある。
結局10分から15分の休憩を終え、僕は再びバスに戻ったわけだが
一つだけ太っちょマンにお願いしたことがある。
「申し訳ないんですけど、席を代わってもらってもいいですか?」
僕の申し出に太っちょマンは快く快諾をしてくれた。
通路側に席を代わってもらい、再び走り出したバスの中で
『やっと少し眠れるかもしれない』と僕は思った。
再び車内のライトが消される車内。
静かに目を瞑る僕。
響き始める重低音。
右肩に感じ始める感じたことのある重み。
世の中そんなに甘いもんじゃなかった。
『これも一興』と思い込むしかなかった僕を始め、数十人を乗せたバスは東京に向けて、真夜中の高速道路を進んでいった。

つづく

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