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エッセイ:大ちゃんは○○である26

事務所オーディションは浅草にあるビルの一室で行われた。
会場の入り口に近づくと、付近は熱気に包まれており、元々纏っていた緊張感がさらにグッと増していく。
受付には事務所スタッフと思われるスーツ姿の男性1名、女性1名がおり、来場者に1人づつ案内をしていた。
僕が行くと先に到着していた4人のライバルが並んでおり、スタッフの方から順に説明を受けていたので、僕もその4人の後ろに並び、受付の順番が来るのを待った。
人生で初めてのオーディション。ドキドキしないわけがない。
ここに来ている全員が役者になる為にここに集い、チャンスを掴みとろうとしている。
いわば全員がライバルだ。
でも、僕は誰に負けるつもりはなかったし、誰にも負けてたまるかと言い聞かせた。
実力を見せつけて、ここにいる奴ら全員蹴落としてやるからな。と思っていた。
眉毛をキリッとさせ、目に力を入れ、一点を見つめながらそんなことを考えていると
「はい、次の方。ここに名前を書いてもらえますか。」
とスーツ姿の男性スタッフから声がかかった。
力が入っていた僕は自分でもびっくりしてしまうぐらい大きな声が出てしまい
「はいっっ!!」と返事をした。
少しでも印象に残してやろうと枠を目一杯に使って、かなり大きな字でフルネームをアピールした。
『なんか声の大きいのがいたねえ。』
『やたらと名前をでかく書いてる奴がいましたよ』等、何でもいい。
とにかく何かしら事務所の人間の印象に残ることをしたかったのだ。
「はい、これが今日の台本になります。覚えなくてもいいので始まるまでの間に目を通しておいて下さい。あと、これがナンバーバッジ。胸のところにつけておいてもらえますか。席は空いてる席どこでも構いませんので。」
スーツ姿の男性スタッフから台本とナンバーバッジを手渡され、僕は会場に足を踏み入れた。
会場には書類審査を通過した40名ほどの男女が集まっており、皆痛いぐらいのギラギラを全身から発しているのが一目で分かる。
どの顔も自信に満ち溢れているように見え、気を抜くと飲み込まれてしまうような空気だった。

つづく

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