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エッセイ:大ちゃんは○○である22

「18のB…あー、ここだここだ。」
太っちょマンは18のBを見つけた。しかし、席を探す時ってこんなに声って出ちゃうもんなんだろうか?一人言が多いタイプなんだろうか?
「すみません、隣失礼しますねー。」
そう言って、太っちょマンは荷物を荷台に上げると僕の隣のシートにその大きなお尻をねじ込んだ。
「はい、どうぞ」とは言ったものの、本当は
「いえ、ちょっとお断りします。」と言いたかった。
言いたかったけど、そんなこと言う権利なんて当然ないわけで。心で涙を流しながら泣く泣く了承するしかなかった。
だって指定席なんだもの。
いざ隣に座られると、その存在感たるや想像以上のものがあった。
ちなみに僕は窓側。太っちょマンは通路側。
『ヤバい。この位置関係、めちゃくちゃトイレに立ちにくいし、気ぃ遣う。頑張って出たとしても戻ってこなくちゃいけないんだ。』
そんなことを考えていると、バスは発車時刻になり、定刻通りに京都駅を出発した。
走り始めてすぐだったと思う。クーラーは効いているはずなのに僕は異変に気づいた。
『なんだ?あ、暑い。。あっ、もしかして太っちょマンの体温か?体温だったとしても熱伝えすぎでしょ。
それになんだこの圧迫感。押されて押されて寄りきられそうな気がする。外に押し出されるなんてことはもちろんないけどさ、果たして僕は一晩耐えられるんだろうか?』
そんな自問自答をしている僕になんてお構い無しに
太っちょマンはスナック菓子を座席テーブルに3袋乗せると、その3袋を全部開け
バリバリバリ、ボリボリボリとむさぼるように食べ始めた。
『うるせ~~~!太っちょマンの咀嚼音マジうるせ~~~!』
わりかし静かなバスの車内で、真隣から響いてくるスナック菓子の咀嚼音たるやなかなかのものだ。
たまらずイヤホンを両耳につけ、音の世界に逃げ込む僕。スナック咀嚼音をすかさずシャットアウトした。
夜行バスは発車してしばらくすると車内の照明が落とされる。
各座席についているライトは使用自由なので、真っ暗にはならないのだが、僕は座席のライトは点けず消灯時間に合わせて目を閉じた。が、
咀嚼音はシャットアウトしたし、やわらかい音楽を聴きながら眠りの世界に落ちたかったのに、どうしても隣が気になってしまってなかなか寝つけない。
時折ちらっ、ちらっと横目で様子を窺うと発車から1時間ほどたっているのに、太っちょマンはまだ何やら食べていた。
『まだ食べてるよ。。』
気になりだしたら、眠ることなんてできなかった。
寝なきゃ寝なきゃと思えば思うほど、眠りの世界から遠ざかっていく。
目を閉じていても、音楽を聴いていても、流れる景色に目をやっていても
太っちょマンの存在感の前では全てが霞んでしまうような、そんな感覚だった。
時計に目をやると、0時を過ぎていた。
東京到着まではあと5時間と少々。
ようやく食べることに一段落つけた様子の太っちょマンは、ゴミを片付け始めていた。
『おっ、そろそろ寝るのか?』
ビニール袋にゴミを一まとめにした太っちょマン。
ゴソゴソと動き何かを取り出した太っちょマン。
それを目に当てだした太っちょマン。
どうやらアイマスクのようだった。
『はっはーん。お腹も満たされたし、今度は快眠をむさぼる気だな。全く…幸せな奴だぜ。』
でも、これで少しは静かになり、圧迫感からは逃れられないものの
ようやく僕も眠りの世界に落ちていけるなと思った。

つづく

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