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【前回のお話】

(1134字・この記事を読む所要時間:約3分 ※1分あたり400字で計算)

 「是非弊社で働いてみないか」

 社長さんが真っ直ぐ私を見ている。
 助手らしき女性の方も、同じように笑顔で私の答えを待っている。

 「ぜ……是非っ!……」

 (これは……面接に受かったということか?)

 「一緒に働けたらと……思います!」

 (内定をもらったということか?)

 「一生懸命頑張ります!ありがとうございます!!!」

 大きな声で返事し、私は深々とお辞儀をした。


 嬉しさで胸がいっぱいだった。

 (ああ!こんな私でも、なんとか社会人になれたんだ!)


 料理が次々と運ばれてくる。

 お腹が膨れ、気持ちも落ち着いた。
 心に余裕が出来たので、ようやく二人の顔をじっくり見る気になれた。

 社長は50~60代ぐらいの男性だ(美味しそうにチキンをむしゃむしゃと食べている)。
 苗字はY。つまり、Y社長だ。
 丸顔。身体はやや小柄。
 話し声がのんびりでゆっくりなのが特徴で、「社長」といっても全然威圧感が無く、まるで近所のおじさんのような柔らかい雰囲気を出している。
 学生の頃からランドスケープデザインを学び、一時は就職し会社員として働いていたが、その後独立し、今の会社をつくったのだそうだ。

 女性はIさんという(静かにスープをすすっている)。
 スラッと痩せていて、顔立ちはシャープだ。
 ピシッとしたスーツを身にまとい、黒縁のメガネをかけていて、如何にもザ・ビジネスウーマンというイメージだ。
 英語はあまり喋れないようだが、社長が「あの資料、この資料」と言えばいつもすぐにパパっと出せる。
 更に資料まとめ、日程調整等も丁寧にこなせる。
 それが信頼を得たのか、社長の出張時はほとんどIさんが付き添うのだそう。


 二人は明日にはもう日本に帰国するようだが、近々またちょくちょくと中国には来るつもりだとY社長は言った。

 「その時には通訳として、竹子さんに同行してもらうよ」

 大学卒業まではしばらくこのような形で、簡単なサポートをしつつ仕事を覚えてもらう、ということだ。


 (よーし、バリバリ働くぞ!)

 私は意気揚々としていた。
 こんな熱い気持ちになれたのは久しぶりだ。

 (立派になって、お金たくさん稼いで、親孝行もするんだ)


 その夜帰宅後、早速ネットで日本語の教科書も数冊買って勉強計画を立てた。
 庭園に関する本も大学の図書館で借りることにした。卒業後までに出来る準備はしておこうと思った。


 Y社長も、Iさんも良さそうな人だった。
 ランドスケープについてはなんか良く分からなかったけど、面白そうだった。

 それに、語学を使った仕事が出来る。
 今は足りないところがいっぱいあるが、いつか私も通訳・翻訳のプロになれるだろう。

 これで、もう何も心配することはない……


 明るい未来を思い描きながら、私は布団に潜り、目をつぶった。

これから先、苦しくて辛い、本当の試練が待っていることも知らずにーー

(つづく)

📚人生、山あり谷あり


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