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8-意味不明な「お決まり事」

【前回のお話】

(1189字・この記事を読む所要時間:約3分 ※1分あたり400字で計算)

 初仕事の日、私はIさんからみっちり作業内容を教えてもらった。

 新人なので、当然まず研修から始まる。
 「実務に入るまでに、出来る限りの知識を身につけて欲しい」とのことで、私の一日のスケジュールはざっくり以下の通りであるーー

[午前]
・朝一に出社し、会社の床とデスクを掃除する
・その後、デスクに置いてある先輩方々の使い済みコップを洗う
・出勤時間になったら、自分の席につく
・学習資料を読む
(この間、先輩や上司から雑用を依頼されたら手伝う)

[お昼休憩(1時間)]

[午後]
・学習資料を読む
・ランドスケープデザイン用の模型作り練習


 渡された学習資料を延々と読む時間が大半を占めていたが、幸い私は活字が好きだったので、単調だとしてもそれ程苦にはならないだろう。
 模型作りも面白そうだ。図鑑の写真を観察しながら花や木を1本1本手作りしていくらしく、聞いただけでもワクワクする。

 ただ、早朝の掃除作業にはもやもやした。

 これからは私が担当になるのだが、以前は専ら女性社員であるIさんとMさんの仕事だったらしい。
 男性社員は一切そういったことはしない。汚しても資料がぐちゃぐちゃになっても、それについて後始末をするのは全部女性社員なのだ。

 まぁ、百歩譲って床やデスク周りをきれいに拭くのはよしとしよう。
 それでも、何故皆自分が使ったコップを帰り際についでに洗わないのだろうか。

 女性差別、且つ「階級性」な仕事の振り分け方に納得いかなかった。

 そして何となく、不平等な扱いを受けているのにも関わらず、それが当たり前かのように受け入れ、また私へと回したIさんに腹が立った。


 「それと、お給料だけど」
 Iさんがペラッと資料をめくりながら言った。

 「月々8万円ね。あら、そんな驚かないで、これでも精一杯出したつもりよ。竹子さんはまだ研修中だし、社宅の費用も会社から出しているわ。家賃を引けば自由に使えるお金なんてそれぐらい、皆似たものよ」

 「そ……そうなんですね」

 (アルバイトでもこれ以上はもらえるのでは……)

 でも何も言えない。新人だから。
 この会社では今、私が一番下っ端だから。


 (甘えるな私。これが社会で、現実なんだ)

 (きっと皆、こういう理不尽をめげずにくぐり抜けて立派になっていくのだろう)

 ぎゅっと拳を握り締めた。


 「ーー以上が全部の説明よ。これで竹子さんも我が社の一員となったから、会社に貢献出来るよう頑張ってね。これについて、何か不明な点や聞きたいこととはあるかしら」

 「あ……あの……」
 私はおそるおそる手を挙げた。
 「契約書とかは、いらないのですか?」

 「ん?ああ、それはまだよ。取り敢えずは試用期間だし」
 Iさんは顔も上げずに資料をまとめながら、冷たく答えた。

 「竹子さんがきちんとお仕事をこなせるようになったら、その時また、ね」
 コツコツとハイヒールを響かせながら、Iさんは仕事に戻っていった。

 その後ろ姿を呆然と見つめ、私は唾を飲み込んだ。

(つづく)

📚ブラック企業勤めの始まり始まり


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