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(589字・この記事を読む所要時間:約2分 ※1分あたり400字で計算)

 「夏というのはもうちょっとゆっくり来るものだと思っていた……」

 ピカピカに晴れたある日の午後。
 数歩進んだだけで既に汗だくになった腕に、冬物のコートやらマフラーやらをいっぱい抱えてヨタヨタとクリーニング屋へと向かう。
 時折吹いてくるそよ風を額に浴び、清々しさを感じながら「また一つ冬を越せたんだなぁ……」と呟いた。

 桜の花はもうほとんど残っていない。
 ついこの前までは道いっぱいのピンクだったのに、もう青々とした葉を覆い、元気よく空へ空へと枝を伸ばしている。
 良い季節になった。
 生き物が活発になってくる、そんな夏が好きだ。

 交差点で信号を待つ。
 よいしょと服を持ち直し、横断歩道に足を伸ばす。
 目的地はすぐそこだーーとその時。

 「プップー」

 小さな車が隣に止まり、中から一人のお兄さんがこっちを見ていた。
 誰だろうかと考える間もなく、お兄さんが不思議なしぐさをした。
 ハンドルを握っていた片手を放し、
「ポンポン」
 と自分の背中を叩いたのだ。
 そして唖然とした私を残して颯爽と去っていった。

 はて……となんとなく自分の背中覗いてみるとーー

 「しまったっ!」

 なんと横断歩道のど真ん中にマフラーが落ちているではないか!
 ああ、全然気が付かなかった!

 そうか、あのお兄さんは、これを知らせようと車を止めてくれたのだ。

 「ありがとうも言えなかったな……でも」

 ひょいとマフラーを拾い、遠くに目をやる。

 お兄さんの思いはちゃんと伝わりました。


📚何気ない出来事って魅力的


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