#3 プップー、ポンポン
(589字・この記事を読む所要時間:約2分 ※1分あたり400字で計算)
「夏というのはもうちょっとゆっくり来るものだと思っていた……」
ピカピカに晴れたある日の午後。
数歩進んだだけで既に汗だくになった腕に、冬物のコートやらマフラーやらをいっぱい抱えてヨタヨタとクリーニング屋へと向かう。
時折吹いてくるそよ風を額に浴び、清々しさを感じながら「また一つ冬を越せたんだなぁ……」と呟いた。
桜の花はもうほとんど残っていない。
ついこの前までは道いっぱいのピンクだったのに、もう青々とした葉を覆い、元気よく空へ空へと枝を伸ばしている。
良い季節になった。
生き物が活発になってくる、そんな夏が好きだ。
交差点で信号を待つ。
よいしょと服を持ち直し、横断歩道に足を伸ばす。
目的地はすぐそこだーーとその時。
「プップー」
小さな車が隣に止まり、中から一人のお兄さんがこっちを見ていた。
誰だろうかと考える間もなく、お兄さんが不思議なしぐさをした。
ハンドルを握っていた片手を放し、
「ポンポン」
と自分の背中を叩いたのだ。
そして唖然とした私を残して颯爽と去っていった。
はて……となんとなく自分の背中覗いてみるとーー
「しまったっ!」
なんと横断歩道のど真ん中にマフラーが落ちているではないか!
ああ、全然気が付かなかった!
そうか、あのお兄さんは、これを知らせようと車を止めてくれたのだ。
「ありがとうも言えなかったな……でも」
ひょいとマフラーを拾い、遠くに目をやる。
お兄さんの思いはちゃんと伝わりました。
📚何気ない出来事って魅力的
記事は気に入っていただけましたでしょうか? もしよろしかったら、サポートお願いします!(◡‿◡✿) 不求多,真心便知足~!(量より真心!) よろしくお願いします~请多指教!✿