見出し画像

弱不胜衣ーーパニック発作に襲われた日

(1408字・この記事を読む所要時間:約3分 ※1分あたり400字で計算)

【弱不胜衣】

ピンイン:ruò bù shèng yī
意味:身体が弱過ぎて、服の重さにでさえ耐えられない様。

『パニック発作に襲われた日』

 あれは、確か27歳だった頃。
 ある日突然、私は得体しれない発作に襲われたのだ。

 昔から動悸や息切れはあったものの、その日は特にひどくて、まるで心臓が暴れ狂っているかのようだった。

 気が付くと、息が浅くなり始めていた。
 呼吸がほぼ出来ない。
 酸欠のせいか、徐々にめまいも出てきて、「これは危ないぞ」と思った私は、意識してなるべく強く深く息を吸っては吐き、吸っては吐いた。

 こうすれば落ち着くだろうと思っていた。
 が、しばらくすると今度は逆に過呼吸が起こり始めた。

 唇が勝手に震え始める。
 手足が痺れ、立ち上がることも出来ずその場に座り込む。
 
 目がよく見えない。音も聞き取り辛い。
 声も出せない。

 何が起こっているのか分からなかった。

 心臓の病気になったのだろうか
 このまま倒れてしまうのではないか。
 救急車呼んだ方が良いのか。

 ぐるぐる考えていると、何故か過去の辛い思い出が次々と蘇ってきた。

 怖い。
 苦しい。
 寂しい。

 嫌だ。

 涙が止まらない。
 私は獣のように唸りながら、床で転がり回った。

 何が起こっているんだ。

 頭を壁に当てた。
 ぐりぐりと擦りつけた。強く、何度も。

 正気に戻れ、私。

 服が徐々に汗で濡れる。
 ただ果たして自分は今暑いのか寒いのか、それでさえも分からなかった。

 全身の筋肉がこわばっている。
 心臓が痛い。

 「もうダメだ」

 力がどんどん抜けてしまい、目の前が真っ暗になった。


 ……


 はっと意識が戻り、時計を見ると既に数時間が過ぎようとしていた。

 まだ頭がぼんやりする。
 悪夢で目が覚めてしまったような、あの心地悪い感じと似ている。

 まだ足の痺れは残っていたが、辛うじて立てた。
 水を飲み、椅子に腰掛ける。

 あれ……もうどこも悪くないぞ?

 ぐにぐにと身体を動かしてみる。

 周りを見渡し、外から響いてくる車や人の話し声に耳を澄ましてみる。
 見える、聞こえる。
 「あー、あー……」
 声も出るようになった。


 後日。
 私はそれが「パニック障害」の症状だったことを知る。


 パニック障害とは、前触れなくいきなり動悸、息苦しさ、めまいや吐き気等の症状が出る障害のことだ。

 ちなみに、発症する原因はまだ明らかになっていないらしい。
 ただ、ストレスなどによって、自律神経や脳の働きに不具合が起こったのがきっかけでそうなるとは言われている。

 一応心臓も調べてもらったが、異常は見られず。

 であれば、やはり心理的なものだったのだろう。

 確かに、当時私は諸事情により毎日が不安と恐怖に溢れていた。
 ろくに休むことも出来ず、疲れがたまりにたまってとうとう心のダムが崩壊してしまったのかもしれない。


 その後、私は生活環境を見直し、人間関係を整理した。
 それにつれて、発症頻度も減った。

 今でもまだ時々発作はするが、症状が軽くなりつつある。
 辛さを和らげるコツも掴めてきたので、公共の場で突然パニックになっても比較的冷静に対処出来るようになった。


 それにしても、すぐに環境改善が出来たのは大きかった。

 あのまま放置していたら、予期不安(パニック発作が再発することに対する不安)や、広場恐怖症(パニック発作が怖くて、公共交通機関や広い場所、閉ざされた場所といった逃げられない環境を怖がること)にまで発展していたに違いない。

 逃げずに戦うのが大事とされている世の中だが、時には逃げないとかえって戦えなくなることもある。

 それを忘れてはいけないと思った。


📚逃げていい時がある、逃げなきゃいけない時がある


記事は気に入っていただけましたでしょうか? もしよろしかったら、サポートお願いします!(◡‿◡✿) 不求多,真心便知足~!(量より真心!) よろしくお願いします~请多指教!✿