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【前回のお話】

(1025字・この記事を読む所要時間:約3分 ※1分あたり400字で計算)

 気付くと、Iさんはもう車を降り、エレベーターへと向かっていた。
 「ありがとうございます」と軽くHさんにお礼を言い、私も急いでIさんについていく。

 ガタガタとエレベーターが動き出す。

 「ここが我が社よーーとは言っても、最上階の一室だけだけどね。しかもお隣は普通の住宅だから、廊下に出る際はうるさくしないよう気を遣ってねーーさぁ、着いたわよ」

 会社の入り口はエレベーターを降りたすぐ目の前にあった。
 その隣は......確かに、Iさんの言う通りアパートの一室が見えた。ドア付近に子供用の自転車が傾いて置かれてある。

 どんな人が住んでいるのだろうとぼんやり考えていると、「どうぞ」とHさんに言われ、はっと我に返る。

 社会人になっての、始めての出社ーー

 「し......失礼します!」


==========


 「Iさん、Hさん、お帰りなさい。それと、えーっと......」
 迎えてくれたのは、物腰が柔らかで、穏やかそうな男性だ。

 「新入りの子だっけ?初めまして」
 「た......竹子と申します、これからよろしくお願いします」
 「僕はY、デザイナーだよ。よろしくね!それとこちらはMさん」

 ひょこっと小柄な女性がYさんの後ろから出てきた。
 「経理をやっています、Mです。よろしくお願いします」 
 「あ、よろしくお願いします!」

 社員は何と、たった4名だった。


 事務室はこぢんまりとしていて、玄関から入るやいなやいきなり応接室になっていた。それを囲むように、立派な本棚がいくつも置いてあった。

 応接と作業スペースの間には仕切も無かった。
 狭い通路を覗くと、パソコンやらカラーペンやら設計図やらでごちゃごちゃになっているデスクが並べてあった。

 想像していた「会社」とは全然違っていた。
 でも、なんだか不思議と落ち着く空間でもあった。


 その夜は歓迎会だった。

 応接テーブルの上にコンビニのお菓子と飲み物を広げ、軽く飲んで済ましただけの簡単なものだった。それには出張で遅く帰ってきた社長も合流した。

 一日のうちにあまりにもたくさんのことが起こったので、飲み会時はもうクタクタだった。
 不思議な程にエネルギーがまだたっぷり有り余っている社長が楽しそうにスピーチを始めたところまでは記憶があるが、その後のことについてはあまり覚えていない。

 ただ、これで自分も社会人の仲間入りだということ。
 期待と不安で胸いっぱいだったということ。
 妙に寂しくて、家族に会いたくなったということ。

 あの心細くて、でももう逃げられず覚悟を決めた気持ちは今でも忘れられない。


 そして次の日、いよいよ私の初仕事が始まるーー

(つづく)

📚初めて入社した日のこと、覚えていますか?


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