「よくさ、『今日最高に楽しかった〜! 明日からまたがんばれる!』とか、『来週のライブが楽しみすぎて今週仕事乗り切れる!』とか言うじゃないですか」 ぼくは珍しく、…
ぼくが新宿駅に着いたのは22時半を回った頃だった。 NewDaysの横にみゆきさんはいた。 待たせてごめん、と声をかけて気付く。 この前の彼女とはどこか違う。 髪を結んで…
0時を回った頃、彼女は口を開いた。 「一本、ちょうだい」 部内にはぼくと彼女のふたりだけ。 だいぶ前にも同じようなことがあり、 その時彼女は人知れず煙草を吸ってい…
「折れろ!」 僕の手から矢が離れるのを見計らって、 彼はふざけた語調で小さく叫んだ。 果たして、矢は1に入った。 ぼくは笑いながら矢を取りに行く。 どれもいいとこ…
「あ、ども」 タンクトップから肩を出し、片脚に重心を寄せて立っている彼女のきめ細かい素肌には、真っ直ぐな長い髪がふわりと載っていた。 ショートパンツからすらりと…
人差し指が熱い。 ぼくたちは新宿駅東口の喫煙所で待ち合わせた。 前に怖い思いをしたらしく、人気の多い場所が良いらしかった。 電話で確認をさせてくれよと思ったが、…
ホテルを出たら、雨は止んでいた。 「おれ歩くの早い?」 ちがうの、とみゆきさんはこたえた。 「わたし、歩幅が小さくて。しかも今日ヒールだから小走りに見えるの」 終…
ぜろと
2019年9月6日 10:07
「よくさ、『今日最高に楽しかった〜! 明日からまたがんばれる!』とか、『来週のライブが楽しみすぎて今週仕事乗り切れる!』とか言うじゃないですか」ぼくは珍しく、話し手に回っていた。「わかります! わかります!」「そう。おれはそれって本気で言ってるのかな、と不思議に思ってしまうんですよ」ぼくは本当にこういった気持ちが理解できない。何か楽しいことがあっても、その時にそれは楽しみきってし
2019年8月26日 23:23
ぼくが新宿駅に着いたのは22時半を回った頃だった。NewDaysの横にみゆきさんはいた。待たせてごめん、と声をかけて気付く。この前の彼女とはどこか違う。髪を結んでいることや、服の雰囲気が柔らかく変わったことに触れてみると、「確かにね。アイシャドウとかも変えたの」彼女は少し気恥ずかしそうに笑った。階段を登り、ぼくたちは歌舞伎町を少し右にそれながら歩いていく。「あのいつもの
2019年8月14日 08:45
0時を回った頃、彼女は口を開いた。「一本、ちょうだい」部内にはぼくと彼女のふたりだけ。だいぶ前にも同じようなことがあり、その時彼女は人知れず煙草を吸っていることを打ち明けてくれた。終電まであと16分くらいだったけれど、ぼくは彼女の誘いに応じて、フロアの端にある喫煙所まで一緒に歩いていった。冷房の止まった社内は、空気が湿って重い。「何してんだろ、あたし」ぼくも最近仕事
2019年8月12日 10:49
「折れろ!」僕の手から矢が離れるのを見計らって、彼はふざけた語調で小さく叫んだ。果たして、矢は1に入った。ぼくは笑いながら矢を取りに行く。どれもいいところに入らなかった。3本持ってソファに座る。「君の不幸を一番望んでいるからね。僕は」おさむはいつもぼくにこう言う。けれど不思議と嫌な気はしない。おさむとぼくは、かつて高校の同級生だった。彼は高校一年の夏休み明けから一
2019年7月30日 00:44
「あ、ども」タンクトップから肩を出し、片脚に重心を寄せて立っている彼女のきめ細かい素肌には、真っ直ぐな長い髪がふわりと載っていた。ショートパンツからすらりと伸びた脚の先には灰がいくつか落ちている。日曜日、ぼくらはたまにここで会う。ぼくはその日の格好でここに来ることが多いが、彼女はいつもグレーのタンクトップにショートパンツだ。「家じゃ吸えないの?」「うん。あかねさんも?」う
2019年7月24日 20:54
人差し指が熱い。ぼくたちは新宿駅東口の喫煙所で待ち合わせた。 前に怖い思いをしたらしく、人気の多い場所が良いらしかった。電話で確認をさせてくれよと思ったが、こういうのも悪くないと思った。水色のヘッドフォンの女性を探すと、彼女はすぐに見つかった。けれど、彼女が2本目に火を点けたばかりだったので、ぼくは短くなったタバコをもうひと吸いした。「こんばんは」3本目に火を点ける前に
2019年7月23日 00:52
ホテルを出たら、雨は止んでいた。「おれ歩くの早い?」ちがうの、とみゆきさんはこたえた。「わたし、歩幅が小さくて。しかも今日ヒールだから小走りに見えるの」終電を逃すまいという気持ちもあったぼくは、少し安心した。みゆきさんは、来週滋賀に発つ。「セミナーに行くの。詐欺とかじゃないのよ」ヒールを鳴らしながら、みゆきさんは明るい髪を揺らしている。最近やめた建築関係の仕事仲間から教わっ