ぜろと

Zero to Z. ジャンルも幅も問わず、日々の思いや考えを。どこかの「ぼく」とその…

ぜろと

Zero to Z. ジャンルも幅も問わず、日々の思いや考えを。どこかの「ぼく」とその周りの「だれか/どこか/なにか」とのエピソードを書き連ねていきます。ご依頼いただければ「あなた」の話も。

最近の記事

#あかりさん

「よくさ、『今日最高に楽しかった〜! 明日からまたがんばれる!』とか、『来週のライブが楽しみすぎて今週仕事乗り切れる!』とか言うじゃないですか」 ぼくは珍しく、話し手に回っていた。 「わかります! わかります!」 「そう。おれはそれって本気で言ってるのかな、と不思議に思ってしまうんですよ」 ぼくは本当にこういった気持ちが理解できない。 何か楽しいことがあっても、その時にそれは楽しみきってしまう。 楽しみは楽しみで、しあわせはしあわせ。 何かがんばるための糧にするという

    • #みゆきさん2

      ぼくが新宿駅に着いたのは22時半を回った頃だった。 NewDaysの横にみゆきさんはいた。 待たせてごめん、と声をかけて気付く。 この前の彼女とはどこか違う。 髪を結んでいることや、 服の雰囲気が柔らかく変わったことに触れてみると、 「確かにね。アイシャドウとかも変えたの」 彼女は少し気恥ずかしそうに笑った。 階段を登り、ぼくたちは歌舞伎町を少し右にそれながら歩いていく。 「あのいつものところ」 「そう。空いてたらね。お水が軟水のところ」 みゆきさんはコンビニでご

      • #しばちゃん

        0時を回った頃、彼女は口を開いた。 「一本、ちょうだい」 部内にはぼくと彼女のふたりだけ。 だいぶ前にも同じようなことがあり、 その時彼女は人知れず煙草を吸っていることを打ち明けてくれた。 終電まであと16分くらいだったけれど、 ぼくは彼女の誘いに応じて、フロアの端にある喫煙所まで一緒に歩いていった。 冷房の止まった社内は、空気が湿って重い。 「何してんだろ、あたし」 ぼくも最近仕事が詰まっていたから、 同じような気持ちだった。 ぼくはいつもより少し長く火を点

        • #おさむ

          「折れろ!」 僕の手から矢が離れるのを見計らって、 彼はふざけた語調で小さく叫んだ。 果たして、矢は1に入った。 ぼくは笑いながら矢を取りに行く。 どれもいいところに入らなかった。 3本持ってソファに座る。 「君の不幸を一番望んでいるからね。僕は」 おさむはいつもぼくにこう言う。 けれど不思議と嫌な気はしない。 おさむとぼくは、かつて高校の同級生だった。 彼は高校一年の夏休み明けから一週間もすると、ぱたりと学校に来るのをやめてしまった。 彼とぼくの間には密かに共

        #あかりさん

          #あかねさん

          「あ、ども」 タンクトップから肩を出し、片脚に重心を寄せて立っている彼女のきめ細かい素肌には、真っ直ぐな長い髪がふわりと載っていた。 ショートパンツからすらりと伸びた脚の先には灰がいくつか落ちている。 日曜日、ぼくらはたまにここで会う。 ぼくはその日の格好でここに来ることが多いが、 彼女はいつもグレーのタンクトップにショートパンツだ。 「家じゃ吸えないの?」 「うん。あかねさんも?」 うん、と言って、タバコを口に持っていく。 ぼくと同じように、このファミマの近くに

          #あかねさん

          #ふみさん

          人差し指が熱い。 ぼくたちは新宿駅東口の喫煙所で待ち合わせた。 前に怖い思いをしたらしく、人気の多い場所が良いらしかった。 電話で確認をさせてくれよと思ったが、 こういうのも悪くないと思った。 水色のヘッドフォンの女性を探すと、彼女はすぐに見つかった。 けれど、彼女が2本目に火を点けたばかりだったので、ぼくは短くなったタバコをもうひと吸いした。 「こんばんは」 3本目に火を点ける前に声をかけてみた。 「あ、どうも〜」と彼女は結局火を点けながら言った。 綺麗に

          #ふみさん

          #みゆきさん

          ホテルを出たら、雨は止んでいた。 「おれ歩くの早い?」 ちがうの、とみゆきさんはこたえた。 「わたし、歩幅が小さくて。しかも今日ヒールだから小走りに見えるの」 終電を逃すまいという気持ちもあったぼくは、少し安心した。 みゆきさんは、来週滋賀に発つ。 「セミナーに行くの。詐欺とかじゃないのよ」 ヒールを鳴らしながら、みゆきさんは明るい髪を揺らしている。 最近やめた建築関係の仕事仲間から教わった、投資のセミナーだなんて、だいぶうさんくさい話だと思いながらも、ぼくは興味あり

          #みゆきさん