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嘘の日記

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妄想の出来事を本当にあったかのように書いていきたいです。全て気分次第
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記事一覧

嘘の日記「佇む」

中学一年の夏のこと。知人の別荘へ何泊か遊びに行った。標高が高く、多湿で、真夏でも肌寒い別荘地だった。針葉樹が天を刺すように立ち並び、私有地を囲う深緑に苔むした石塀やその奥の小径を様々なキノコや植物が控えめに彩っていた。近所には古い教会なども建っており、私はこの地が大好きだった。

そこを訪れて二日目の朝方、私は借りた赤い自転車のかごにカメラを入れて、ひぐらしの鳴き始めた別荘地をゆっくりと巡っていた

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嘘の日記「スカート」

初めてスカートを佩いたとき、私は風になった

中学生までずっと佩けなかったスカート
この街ではスカートは似合わないから、私は17で家を出た

白いリネンのスカートと、海の見えるこの街
あの人の顔は寂しいけど、海街での生活に憧れていた

生糸とミシンとアイロンをスーツケースに詰め込んで、この街でスカートを作る

君のかわいさを知らせたくて、風の心地を知らせたくて
夏を生きる君のために今日も白いスカー

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嘘の日記「感情、創作、ピカチュウ」

朝はもつ鍋のあまり。昼はセブンイレブンのリングビスケット。食べすぎていると思う。
同僚から「聴くと元気が出る音楽なんてありますか?」
とチャットが飛んできた。
「気晴らしにしかならないかも」
と返した。音楽を聴いて元気が出る、と思うのは、それは気のせいなんじゃないかという気がする。
それからちょっとして、私から「創作物って感情で遊ぶためのものだけど、そうやって遊んで感情を増幅させたら生きていくうえ

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嘘の日記「スクランブル」

処方された薬のせいなのか性欲の減退を感じていた。ただの杞憂か。
服用後に酒とたばこをやると目の前が揺らめいているようになった。しかし、こういった初めての経験は有意義ではある。

性的な感度が低下していた。恋人との行為の最中に状態が悪化し、中断をせざるを得なくなっていた。胃が荒れている。
翌朝、逃げ出しように恋人の部屋から出て、土曜の日暮れを迎えつつある渋谷スクランブル交差点の灰皿が設置された場所に

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嘘の日記「CD」

またやってしまった。また、また、やってしまった。

それは私を別世界に連れてってくれる気がする。
それは私に寄り添ってくれる気がする。
それは私の思い出そのものな気がする。
しかし、もう駄目だ。

もう、もう、部屋にCDの置き場所がない!
世界をつなげすぎて崩壊してしまう。
売る...…?捨てる...…?できない!
そんなの残酷すぎる!

家族や友人にはやくサブスクに変えろだの言われるけど、CDが

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嘘の日記「変な夢」

彼からLINEが来た。
「今から飲まね?」
あまりにも唐突すぎる誘いだが私も暇で暇でしかたないから行くことにした。

集合場所の間取りが送られてきた。おかしくない?
場所は…コメダ?おかしくない?まぁ、行ってみるか。
指定された新宿・靖国通りのコメダ。だった気がする。店内の間取りがそうだった。

彼は6月だというのにトレンチコートを着ていた。頭おかしくなっちゃったのかな……不安要素たっぷりだが帰る

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嘘の日記「Ollie」

『ご自由にお書きください』
『いまどうしてる?』
俺が毎日見る文字だ。
今日も今日とて、ネットに引きこもる。
ネトフリとYouTubeの毎日。未来は見えない。何も起こらない。

しかし、今日は月に一度の一大イベント!
雑誌『Ollie』の発売日なのだ!
俺の本棚にギッシリ詰まったOllieの数々を見よ。引きこもりなのにこんな雑誌を読んでるの?なんてナンセンスな質問はやめてくれよ。

何年も着てダル

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嘘の日記「断絶」

今日もディスカバリーチャンネルを見るだけの日だった。
やたら存在感のあるテレビで見る世界各地は最高なのだ。

秘境でサバイバル生活をする番組を見て、私だったらすぐに音を上げてスタッフに泣きつくだろなぁなんてことを考えていた。
綺麗な海岸、巨大な砂漠や深い樹林を見て、都会に適した進化(動物としてなら退化)をしている私には到底生き抜けないと考えてしまう。
でも、いつかは自分の目で見てみたいな。

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嘘の日記「母の鮭」

みかんとデカデカと書かれたダンボールが届いた。実家の母からの仕送りだ。
頑丈に閉じられたダンボールを開けると懐かしい畳の匂いとパンパンに詰められた食べ物がでてきた。

その中の一つに保冷パックがあった。私の大好きな鮭が入っていた。
学生時代からこうやって定期的に母から鮭が送られてきた。あのころも実家や懐かしい風景を思い出していたな。

調理らしい調理を全くしてこなかった学生時代に比べたら多少包丁や

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偽の日記「喫茶ロッソ」

土曜日
快速か各停かどっちに乗ろうと迷っていたら電車を3本逃した。
彼女も僕が時間にルーズだと分かりきってるし、別にいいや。こんなことばっかりしてるから時間の浪費がやめられないんだと思う。

結局快速に乗った僕は町田駅に着いたところで約束のキャンセルのメールに気づいた。時間にルーズすぎたか?
ただ、彼女がめんどくさくなっただけだった。彼女も彼女でかなり雑な性格。だから、こうやって気楽に付き合えるの

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