トラックドライバー怪談5『求める手』
※星野しづくさんのYou TubeCH『不思議の館』にて紹介した、トラックにまつわる怪談をまとめました。実体験やドライバー仲間から聞いた話がメインです。
又聞きしたりもするので真意不明な話もありますがご了承ください。
『求める手』
※
トラックドライバーは、荷物を運んで日本全国各地を走る。
原さんは当時30代後半の若手ドライバーだった。
トラック業界は人手不足であり、年々高年齢化が進んでいる。
今、主力で走っているのは50代の男性が多い、そんな中で30代は、若手と呼ばれておかしくない年齢なのだ。
ある日、原さんは、荷物を積んで中央道を走っていた。
時間は深夜の1時か2時。
中央道を走る車もまばらだ。
仮眠を取りたかった原さんは、とあるパーキングエリアにトラックを止めた。
駐車枠ではなかったが、他の車の通りを邪魔するような場所ではなかったので、そこで4時間ほど仮眠を取ろうと思ったのだ。
キャビンのカーテンを閉め、眠気でふらふらしながら寝台に潜り込むと、室内灯を消して毛布を被る。
これでやっと寝れる…
そう思った原さんはゆっくりと目を閉じた。
暗くなったキャビンに響く、トラックのエンジン音と振動。
隣に止まっている冷凍冷蔵車のファンが、時折大きな音を立てる。
だが、そんな音ぐらいで眠れなかったら、長距離トラックドライバーの仕事は勤まらないのだ。
ウトウトとした原さんが、まもなく眠りに落ちそうになった…その時だった。
バンッ!
フロントガラスを叩くような大きな音がキャビンに響き、原さんはハッと目を覚ます。
「な、なんだ?」
原さんは運転席に身を乗り出してカーテンを開けた。
自分がトラックを停めているために、他のトラックが通れず、怒ったドライバーがガラスを叩いたのかと思った。
だが、窓を開けて周りを見回すが、通行しようとしてるトラックも車もどこにもいない。
ただ高速を走る車が数台あるだけだ。
いったい何の音だったのか?
原さんはそんなこと思ったが、眠気の方が勝ったので、また寝台に潜り込んだ。
そして目を閉じたら、またすぐに眠りがやってくる。
トラックの運転手は寝ないと走り切ることができない。
長距離ドライバーにとって仮眠というのものは、とても大事な仕事の一環なのだ。
原さんが、再び眠りに落ちそうになった時だった。
不意に、何やら遠くで、ざわざわと人が話す声が聞こえてきたのだ。
遠くの方でパトカーなのか、救急車なのか、けたたましいサイレンの音も聞こえている。
ん?事故でもあったかな?
そんなことを思ったが、眠気の方が勝っている。
キャビンの外の音には構うこともなく、原さんは寝台で毛布にくるまり、ウトウトしていた。
しばらくすると、遠くの方で聞こえていた声が大きくなってくる。
ザワザワとしていただけの複数人の声が、次第にはっきりと助けを呼ぶ声に変わる。
「助けて!早く!熱い!助けて!」
「熱い!熱い!早く来てくれ!!」
「早く!早く!」
やがて遠くにあったサイレンの音も大きくなって、次に原さんの耳に聞こえてきたのは、助けを求める人たちに声をかけているだろう、レスキュー隊員とおぼしき人たちの声だった。
「大丈夫か!?頑張れ!!」
「今行きますから!!頑張って!」
「早くホースを!早く!!」
トラックの外が、にわかに騒々しくなった。
やっぱり大事故でも起きたのか?
そう思った原さんは、眠い目をこすりながら体を起こすと、再びキャビンのカーテンを開けたのだった。
しかし…
「え…??」
フロントガラスの向こう側をいくら見回しても、緊急車両なんか1台も止まっていない。
それどころか、だいぶ大勢の人の声が聞こえがしていたのに、パーキングエリアの駐車場には人の姿など全くなかった。
そこには、先ほど確認した時と同じような駐車場の風景が横たわるだけだった。
「な、なんだ…?」
仕事の疲れで幻聴でも聞いたのだろうか…?
原さんはそんなことを思って、キャビンのカーテンを閉めようとした…その次の瞬間。
暗闇の中からぬっと、焼け爛れた無数の手が、トラックのフロントガラスごしに現れたのだ。
それらは、何かを訴えるかけるように、何かを求めるかのように、フロントガラスを激しく叩く。
バンっ、バンっ、バンっ、バンっ、バンっバンっ!!
あまりにも不気味なその光景に、カーテンすら閉められないまま、原さんは寝台に駆け込んで頭から毛布を被ってガタガタと震えたそうだ。
そして、原さんはあることに気づいたのである。
『そういえばここのパーキングエリア、全国ニュースにもなった、でかいトンネル事故のすぐ近くのパーキングエリアだ…』
それを思い出した原さん、は更にぞっとして、震えながら夜明けを待ったのだそうだ。
あまりにも悲惨すぎた事故。
そのパーキングエリアには、その時の記憶や、念が残っているのだろうか?
あるいは、まだあの事故から救い出されない死者が、迷い出てしまったのだろうか…
その真相は誰も知ることはない。
【END】
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