トラックドライバー怪談11『憑き纏う者(5)』
[5、キーホルダー]
気持ち悪い現象は、指跡事件の後も原因不明のまま続いていく。
俺には霊感なんてないし、そもそもが疎いし、仕事も忙しいから、怪奇現象なんかにびびってもいられなかった。
日々の喧騒は、恐怖心すらも忘れさせてしまう。
とにかく、俺の毎日は忙しいの一言に尽きるのだ。
そんな折、遠方の友達が地元に戻ると言うので、その日は珍しく早く仕事が終わったため、帰りにその友達と会うことになった。
友達の名前を仮に滝口とする。
滝口とは車庫近くのファミレスで待ち合わせて、久々に飯を食うことにした。
口の上手い滝口はその日も饒舌で、馬鹿話をしながら時間が過ぎて行った。
ひとしきり話た後で、俺はふと思いたって、滝口に一連の怪奇現象の事を話てみることにした。
実は滝口の叔父貴と言う人は、とある都市で占い師をしていて、評判がよかったんだそうだ。
人よりも感が強い所があり、その遺伝子が滝口にも受け継がれていて、滝口は時折、神妙に妙なことを言うことがあった。
そんな滝口なら、何かわかるかなと思って、夏から続く変な現象を一通り話してみたのだ。
いつもニコニコ明るい滝口の顔が、俺の話を聞くにしたがって、どんどん神妙な面持ちに変わっていく。
話終わる頃には、やけに恐い顔をして、じっと俺を見つめ返すと、滝口はおもむろに言ったのだった。
「それ…多分、かなりヤバいと思うぞ…俺もそんな詳しい訳じゃないし、叔父貴みたいに、なんでもわかる訳じゃないけど…話だけで寒気止まらんわ
何が憑いてるとはわからんし、見えんけど…お前、誰かに恨まれてるんじゃないか?
女と変な別れ方とかしてないか?」
「女と変な別れ方…??
多分、してない、はず…いつもフラれてるし」
俺がきょとんとしてそう応えると、滝口は何かもの言いたげな顔をしたが、頭振って言葉を続けた。
「おまえさ、もしかして、別れた女にもらった物とか、未だに持ってないか?」
「別れた女にもらったもの???
うーん…思いあたる物は、ないな…」
俺はしばらく考えこんで、ピンとこないからそう答えた。
しかし、滝口の視線が、テーブルの端に置いてあった車のキー向く。
そして、怪訝そうに眉根を潜めると滝口は言った。
「それなに?車のキーに着いてる、そのプレートみたいなやつ?」
その言葉に、俺は車のキーに手を伸ばしてハッとした。
「あ…これ…もらったやつだ…
今の今まで忘れてた」
俺は滝口の鼻先に、車のキーを差し出した。
それは、すっかり黒ずんでしまっているが、シルバープレートに幾つかのルーン文字が刻まれたキーホルダーだった。
それを見たとたん、滝口はうわっと声をあげる。
「それ…それヤバいわ!そのプレートからなんか訳分からん黒いの出てるわ!」
「え?」
俺はきょとんとしたまま、まじまじとルーンのキーホルダーを眺めた。
それは、10年以上前に、ある女性からもらった『俺のためだけの』キーホルダーだった…
<ToBeContinue>
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