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映画感想『ロストケア』

◆あらすじ◆
ある日、老人と訪問介護センターの所長の死体が発見され、捜査線上にセンターで働く介護士の斯波宗典が浮上する。献身的な介護で介護家族にも慕われていた斯波だったが、検事の大友秀美は、彼が勤務する事務所だけ老人の死亡率が異常に高いことに気づく。斯波への疑惑はますます深まり、真実を明らかにするべく斯波と対峙する大友だったが…。




【貧困と介護の実態】この難題への問い掛けは誰も無視出来ない事象であり【理屈と事実の乖離】と言う対峙の本質だ。

人の営みでは善悪で説明のつかない繊細な心の機微がある。

人を殺める行為を肯定するものではないがこの主人公・斯波の言動を全面的には否定出来ない。

何から手を付ければ良いのかさえ判らない政治や社会に対する最大の問題提起だ。

ひとりの検事と優秀な介護士である男の対峙を長澤まさみと松山ケンイチが丁寧に演じ彼等の背景が克明に描かれる事でこのサスペンスの深みが更なる深淵を映す。

現場を知らない上っ面な言葉、法を盾に切り捨てられる貧困層。
それでも生きていかなければならない人々を誰が守るのか?


この作品がそう思わせる要因の1つにギリギリで生活する側を演じた俳優陣の描写がある。
長年介護職に就いている介護士の観察眼、自分の幸せを置き去りにして親の介護と幼い子供の世話をするシングルマザー、そのシングルマザーに好意を寄せる男性、貧困から刑務所生活で逃れようとする老女、介護の現実を目の当たりにする若き検事事務官・・・等々。

その中でも柄本明演じる認知症の老人のシーンは迫り来るものがあった。

ただ、今作ではっきり見せているのは介護する側の限界や“ギリギリさ”は他人が決めるものではないという事。
自分の親が命を全うしたのではなく【殺された】と知る事でその理由が何であれ苦しみから解放されたと思うのか否か?と言う疑問提起もなされる。

だが、人は【月日を経る】と言う良薬を持ち合わせている。
肉体的にも精神的にも【限界を超えなかった】という事に対してどう捉えるか?という事。

学生の頃、父が私にこう言った「オレに何かあった時絶対に管には繋ぐな」と。
結局彼はその数十年後に管に繋ぐ間もなく突然脳出血でぽっくり亡くなるのだが、もしそれが違う形だったら私たちの現状はかなり違うものになっていたはずだ。


老々介護、ヤングケアラーなど問題が集積する日本の福祉制度。肉親での殺人が後を絶たない昨今、尊厳死や死刑制度と言うテーマにも繋がる非常に重厚な秀作。


親にしても自分にしても明日元気で居られるとは限らないという事は父の突然の死で身に染みたがもしかしたら死より苦しい【身体の働きを取り上げられてしまった時】にどう向き合うかを真剣に考えるのに早過ぎることは無い。
密かに身体の自由を蝕む病気も様々だと言うことを記憶の何処かに置いておく必要もあるのだ。

このテーマ、我が家も老老介護が確実なだけに身につまされて胸が苦しい。

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