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『あの頃。』

◆あらすじ◆
バイトに明け暮れ、バンド活動もうまくいかず、彼女もお金もない冴えない日々を送っていた劔樹人。彼はある日、心配した友人から元気を出せと1枚のDVDを渡される。そこに映っていたのはハロプロ所属のアイドル、松浦亜弥だった。その圧倒的な輝きにすっかり心を奪われた劔は、この瞬間を境にアイドルオタクの道を突き進んでいくことに。やがてハロプロオタクのトークイベントに参加した劔はそこで、プライドが高くてひねくれ者のコズミンはじめハロプロを愛してやまない個性豊かな"ハロプロあべの支部"の面々と出会い、彼らの仲間に加わり、一層ドルヲタ活動に邁進していくのだったが…。




【究極の片思い】を描いたこの作品。
原作は未読である。

初っ端の『サルビアの花』に先ずやられた。
この曲は元ジャックスと言うバンドの早川義夫氏が1969年にリリースした異端の名盤『かっこいいことはなんてかっこ悪いんだろう』に収められたものだ。

バンドを首になった主人公が、1人寂しく爪弾きながら歌ってる。
でも、何でこの歌?
彼女も居ないって紹介だけどきっと好きな子が居るんだろうなって思ってみたりさ。
いや、歌詞にある様に(他の男に行ってしまった彼女に対して)「僕の愛の方がステキだ」とか「うそっぱち」「偽り」なんてワードが出て来るあたり、もしかしたらバンドを首になったけど自分の方がいいとか自分の音楽に対する思いの方が本物だみたいな事なのかな?って。

・・・でも『サルビアの花』だよ?・・・早川義男の名曲よ・・・そしてワタシが大好きな曲。この曲を使っちゃうセンスが最高だよ!

映画最後まで観たらこの曲を起用した意味が結構深いんじゃないか?って思えてね・・・。
冒頭に使われるのと実は物語の中盤にも一度使われてるんだよね。


結局さ。この映画最初に書いたけどアイドルに夢中になってしまう【究極の片思い】なんだけど、でも全力で応援して、全力でグッズ買って、全力で分かりあえる仲間と生きた本当の意味での【青春】なんだよね。
実らない恋だけどなんか温かいんだよなぁ。


【推しに出会って仲間ができた】ってサブタイトル。
誰もが経験あると思うけど全力で情熱を注いだ時の仲間って離れても会えば直ぐにその頃に戻れる。
死ぬ時に思い出すのはそんな時代の事なのかもしれない。
ずっとそのままその場所(時代)に留まっていられるわけじゃないけど、脳裏の何処かにずっといつでも蘇らせられるその時の歓喜や充実感。それを一緒に分かち合えた事がいつまでも消えない。
そこに存在する共通の価値観みたいなものが嬉しいんだよな。

この作品はそこを経てそれぞれの未来へ旅立つ仲間達を描いてる。
同じ場所に居ても状況は変化する。
だから決してノスタルジックなだけじゃないストーリーになってる。
非常に現実味がある。

だから『あの頃。』なんだよね。

『サルビアの花』が一緒に過ごした良い時期もあったが別々になってしまった恋人を唄ったのだとしたら、まさしくこの自分が持てる全時間を注いだ仲間が散り散りになってしまう寂しさやそれでも絶対に忘れない想いの強さを『キミ』と『ボク』に例えられるんではないか?と思えたわけだ。

「あの頃は良かった」じゃなくてそれを糧に『今が最高!』と言い続ける主人公。
ここに価値があるんではなかろうか?

今が、未来が最高である為に色んな事を経験しなくちゃならない。

仲野太賀演じるコズミンが嫌われキャラながらも何処か憎めず、尚且つ停滞を好まない、絶えず一歩を前に出すような人物だからこそ皆離れず一緒に居たんだろうな。

途中から仲間に入りたい欲求に駆られる感じがあったなぁ。
皆の行く末を見たいな・・・なんて思ったりした。

自分がもう人の寿命の大分後半に来ちゃうと「大人ってもっと大人じゃないのか?」なんて思うわけで。20歳の頃となんも変わってないじゃないか!ってね。そりゃ多少経験値が増えるからそこの部分で問題の解決策の選択肢が増えるくらいでさ。

でも好きな事も変わらないし、こうやって映画ばっかり観てるのも全然変わらない。
そして映画で知り合った友人達と感想を言い合ったりする時間は本当に楽しいし一生大事にしたいって思うもんね。


この映画、俳優陣のなりきり振りもかなりだし男同士の世界だから下ネタも満載(笑)なんだけど、台詞のリアル感がどこまで台本?みたいな所が魅力なんだと思うわけ。
桃李の口から「シコってた…」とか、ちょっとアドリブっぽかったんだよね(笑)
時々台詞がグダグダってなる場面があってそう言う時ちょっと作り物だっての忘れちゃってたわ。

そういう細部に監督の拘りが見え隠れしてるから面白いんだろうな。


ハロプロヲタクじゃなくても当時の熱狂ぶりとかヒットソングとか普通に耳に入って来てたから知ってるし、アイドルヲタク文化をアングラから地上に引き上げたのも彼等のチカラだと思える。

それにしてもアヤヤを演じた山﨑夢羽がソックリでビックリした。
まさか顔を映すとは思わなかった。でも違和感無く事は進んでめでたしめでたしだったね。


実は思ってたのとはちょっと違う展開だったんで、やっぱり人生はやりたい事をやらずに過ごすなんて出来ないって思ったな。


2021/02/25


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