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『黒い司法 0%からの奇跡』

原題「Just Mercy」

◆あらすじ◆
正義感に燃える若手弁護士は、アラバマ州で証拠もないのに死刑判決を受けた黒人男性の弁護を買って出る。そんな彼の前に、地域の根強い差別意識と司法制度の闇が立ちはだかる。


原題の意味は「正当な赦免」「公正な慈悲」って感じかな?

差別と偏見によって歪められた正義。しかし絶望や諦めは更にそれを助長する。
この映画はアメリカの死刑囚の赦免について30年間に渡って活動する弁護士が書いたノンフィクション本「Just Mercy (死刑囚の赦免)」を元にその不当と闘った若き弁護士と死刑囚の実話。現代の『アラバマ物語』と言ったところか。

この主人公が無実で釈放されたのが確か1990年代だったからホントについ最近の話だと言っても過言では無い。奴隷船の昔から今に至るまで酷い黒人差別が止まないアラバマ州。公民権運動、バス・ボイコット事件を経てもまるで進歩が無いように感じる。

ブライアンがハーバード大学の在るマサチューセッツ州からアラバマ州へ移り住み最初にウォルターと面会した時「お前はアラバマの現実を知らない!」と突っぱねられる。これは最もで、元々南部に住んでる相手ならそこまでは言わなかったかもしれない。南部と北部の違いは明らかでそんなアマちゃんに俺に出た判決をひっくり返せるわけがねぇと思われても仕方がない。ましてや経験0の若い弁護士・・・下手すれば司法からもっと反感を買う事になるかもだ。

でもその彼がその後30年にも渡ってそのアラバマ州で赦免に尽力するんだからこの物語には物凄く意味がある。

鑑賞中何度も涙してしまう場面がある。そして何度も怒りに震える場面もある。感情のベクトルがあちこちに飛び回ってかなり揺さぶられてしまった。

マイケル・B・ジョーダンの様子がとてもこの役に適切だったし久々に観たジェイミー・フォックスはやっぱり素晴らしかった。ご本人の画像を見たけど二人ともかなり酷似していてビックリだよ。


過去に描かれた人種差別と闘う作品とは違い彼等は反対運動のリーダーや首謀者でも無く大勢がデモで戦うなどと言う規模もモノでも無い。実に身近で家族を愛する極極平凡な一市民であると言う事。大きな力に頼るのではなく地道に一つ一つ不当に対する訴えを取り付け証言者を説得し続け不条理な差別に少しでも理解のある住民に呼びかけ自分達に力を貸してくれる人達を探す・・・そんなホントにコツコツした小さい事実を集める作業をし続ける姿を見せる作品なのだ。
数々の嫌がらせや圧力を凌ぎ、ようやく冤罪の証拠に辿り着いても裁判所自体がそれを捻じ伏せる・・・すでに法は無いも同然。
それでも道を見つけて行こうとするその姿勢がこの作品のテーマとするところなんだと思えた。

絶対に権力に屈しちゃいけない!不当な権力を野放しにする事は自分もそれに加担している事と同じだ。ブライアンの心情は多分そこに在ったんだと思う。
彼は北部出身でハーバード大を出てる。アラバマじゃそんな奴は天然記念物に等しい。
彼自身が或る意味アラバマの黒人に差別を受けるのが興味深い。
だがいくら北部出身と言ってもアメリカの黒人が白人と同等の生活が送れたわけでも無くブライアンもスラムで生活していた経験があり「育った場所は一緒だ」とアラバマの黒人達に理解を得る。

そしてこの映画で注目のもう一つの伏線はブライアンが立ち上げた非営利団体『Equal Justice Initiative』が始めは3人だったのが少しずつ支援者が増え成長していくところだ。
ブリー・ラーソンがアメリカ南部の一般女性的位置で好演しているが、アタシは観ていて凄く注目したのが面接で合格した電話番のおばちゃんがとても素晴らしい人材だったと言う事。こういう人が大事なんだって思ってさぁ・・・大活躍だよね!
そういうちゃんと自分のやるべき事が解ってて要所要所できちんと仕事してくれる人が集まればこういう団体が成立するって言う見本みたいな場所だった。

ホントにこういう活動をしている人達には頭が下がるよ。


劇中ね、白人達がいちいち「アラバマ物語の博物館には行ったか?」と訊くのがものすごく気持ち悪くて「お前がどんなに懸命に取り組んだって無駄だぞこの町に差別なんて無いんだからなとでも言いたいのか?」と怒鳴りたくなった。差別を差別と思っていない洗脳された白人たちの目がまるで狂人なのが恐ろしい。
それをテイト保安官役のマイケル・ハーディングや弁護士役のレイフ・スポールが上手く演じてたね。

マイケル・ハーディング
レイフ・スポール


1986年のこの実話は数多ある冤罪事例の一つ。
彼らは今現在だっていつでも不当に逮捕される恐怖と闘っているのだ。

そして一度でも収監されたらもう二度と以前の人生には戻れない。
あの収監されてる囚人達の人柄がホントに善良な人達で胸が痛かった。それと偽証するラルフ・メイヤーズを演じたティム・ブレイク・ネルソンが素晴らしかった!

ただ、この作品の救いは差別側の白人の中にも自分の【罪】に気付きその誤った意識を解放させる向きがある事。あの若き警官もその1人だろう。

全体を通してただの黒人差別だけでは無いアメリカの抱える貧困問題やそこから波及する暴力や抑圧そして『リチャード・ジュエル』でも描いてた様に冤罪の裏に真犯人が野放しになっていると言う事。そういう様々な描写が見える秀作。


グレゴリー・ペック主演の『アラバマ物語』が作られたのが1962年。それから60年経った今、まさか同じ内容の作品が作られる現実・・・悲し過ぎるな。

こんな詩がある

Dear white fella
Couple things you should know
When I born, I black
When I grow up, I black
When I go in sun, I black
When I cold, I black
When I scared, I black
When I sick, I black
And when I die, I still black.

You white fella
When you born, you pink
When you grow up, you white
When you go in sun, you red
When you cold, you blue
When you scared, you yellow
When you sick, you green
And when you die, you grey.
And you have the cheek to call me colored?

【訳】
白人よ知っておくべきだ。
生まれた時から成長期も病気の時だって太陽の下でもそして死ぬ時も私の肌は黒いけれど、アナタは生まれた時はピンク、成長期は白、寒い時や病気の時はブルーで死ぬ時はきっと灰色になる。それでもアナタ達は私を【カラード(有色人種)】と呼ぶ。


この文章を初めて読んだ時涙が出たのを思い出す。


余談だが『スキャンダル』に続き本作の邦題もいかがなものか?
『黒い司法』・・・って!確かに原題は日本じゃ馴染まないし意味解んないだろうけどなんだかちょっとなぁ・・・。前向きな意味で捉えればあの傍聴したい黒人達が席を白人に奪われ最後列で起立したまま傍聴する姿が毅然としてて圧巻だった事しか思い浮かばない。まぁ、日本でこのタイトル付けた所で誰も気にしないっちゃあ気にしないだろうけど余り良いイメージではないな。はい、ワタシの考え過ぎでしょうね。


2020/03/03

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