マガジンのカバー画像

短文

378
創作 随想 回想 コラム その他 短文を集めています
運営しているクリエイター

2020年12月の記事一覧

月を撮る

月を撮る リコーGRはとてもいいカメラだと私は思う。気に入っている。玄人の視点ではどういう評価か知らない。しかし、素人としては簡単で自分が気に入る写真が、高確率で撮れるのがいいカメラだ。ただ望遠が効かない。近くの物を撮る専用になっている。 望遠撮りたい。ということで先般、光学三十倍のコンデジを手に入れた。月を撮りたい。そして、撮れた。 珍しく、比較的からりと晴れた日の夜、月が出ていないかと窓の外を見たら出ていた。窓から少し、乗り出すようにして、窓枠で体と手を支えて、月に

今川焼き

今川焼き 風呂が付かなくなり焦った。何とかだましすかしてその日は凌いだ。 翌日、見てもらうと給湯器が寿命だという。取り替え時。なんとか業者を選定し急いで工事をしてもらった。もう何年も前のことだ。 幼少の頃も同じようなことがあった。子供なので焦りもなく、当然のこととして銭湯に向かった。 当時、住んでいた町には銭湯が三つあった。一番大きな銭湯が一番先になくなった。今は一つ、一番小さい銭湯が残るだけだが、その銭湯には行ったことがない。 その日は家族でタオルを持って、少し離

たまっている人

たまっている人 世の中には、いろいろ、たまっている人がいる。 マイルが貯まっている。カードポイントが貯まっている。この辺はいいですね。航空会社のラウンジでカレーの儀式というのをよく見るのだが、あれば実においしそうなカレーだ。私ならはしたなく大盛りのたぷたぷにしそう。 お金が貯まっている。これは一番いいですね、うらやましい。あればあるだけいいですねお金。はじめから貯まっている家に生まれたならばどうだったろう。別にお金が貯まっている人をうらやましいと思わないのかもしれない。

もらいもの

もらいもの ここのところ、風呂上がりに裸で、扇風機に当たりながら文字を打ち込むというサイクルが出来ている。リラックスタイムに打ち込む文字列はテーマを決めていないことが多い。いわゆる、よしなしごとだ。いろいろな出来事や過去に出会った人たちを思い出す。 たまには、私を思いだして話題にしてくれる人もいるのだろうか。とくに誘いもないし、人に会う予定もない。 山梨にいた一年、いろいろとよくしてくれた人がいた。不思議な関係だった。私はその人の期待に応えることはほとんど出来なかった。

心に残る言葉

心に残る言葉 言われて心に残っている言葉は誰にでもあるだろう。 心に残る言葉をどのようなシチュエーションで言われたか。それにより、その言葉の印象もだいぶ変わっていく。 たとえ、人生の真理めいた核心を突くような言葉(それはどんな言葉だろう)を聞くことが出来たとしても、何らかの関係性の中で激昂したときに言われたのであれば、その言葉は心に残ったとしても、そのときの気まずい雰囲気や反発心とともに苦々しく思い出されることとなるのではないだろうか。 人を怒る、人に怒りをぶつけると

夢の逆算

夢の逆算 夢を追いかける人生は素敵だと思う。そう教えられもする。夢を追う、どんな。大抵はスポーツ選手、芸能関係、華やかでちやほやされて、当たれば金銭的にも大きな夢。あるいは政治家になって人々の暮らしをよりよくするために人生を捧げたい、大きな会社を動かす人物となって、暮らしの発展に貢献したい。または、医療の道で、より多くの人の命を救いたい。 夢にもいろいろ。夢を追い続けて年をとってしまった。夢なんて忘れてしまった。そんなことを夢見たこともあった。そういう人も沢山いる。その夢

離婚

離婚 既婚者は誰もが離婚の危機にさらされている。たとえ、盤石な絆を誇っている夫婦も、何らかの理由で突如別れる。人間に感情があって、忘れたり、嫌ったり、好きになったり、それらすべてが結婚生活に突然牙をむくことだってあり得る。 それは人生においてもっとも面倒でつらい業務の一つらしい。離婚を機に貧困に向かう女性、アルコール付けになる男性、あるいはそれぞれ逆となる場合、いずれにせよ今まで通りに人生が行かなくなる確率が凄く高いのが離婚というライフイベント。 そこで、いったん生活を

猫尊犬卑

猫尊犬卑 例えるなら猫が女性で犬が男、逆でもいい。 猫ばかりが厚遇され、犬は野良を行っておけ。主として力仕事のほう任せたからな。 何で犬ばかり、犬だって半分は雌だのに。そこはなんとか、巧くやれ。 これからは猫様を中心に据えた社会で行くから。もう決めたから。勝手かもしれないが、そう言っていたじゃない。長年控えに回ったのだからいよいよメインを行ってもらいます。 声が響かない。関係ないね。十分機敏でしなやかだから。これからは別にそれほど、身体を張る世ではなくなるから。匍匐

年末年始

年末年始 年末年始になると、だいたい誰がどのあたりにいるのか、想像がつくところがおかしい。たいてい、実家へみんな帰る。 実家のない人は今の住居にそのまま居るか、または実家があろうが無かろうが、大きな神社に初詣に行ったり、海に初日の出を見に行ったり、あるいは、海外の観光地に居たり。 私も自分と妻の実家へ行く。以前は妻の実家で少し昼酒を呑んで酔った。今年は、飲むのをやめにしよう。三月まで飲まなければ禁酒一年だ。 それ以降は、利がでたときだけ、少しだけ呑むかもしれない。とに

客としての関係性

客としての関係性 味覚も年を取るのか、ここのところ妻と味覚の食い違うことが多い。薄味に感じて食べた気がしない。さらに、胃の不調も加わり何を食べていいのかわからなくなる。 そうしていると、外食の味を思い出し、時折昼食を食べに行くのだが、そうすると今度は、リーズナブルで満足のできる店を探し出すのはそう簡単なことではなく、行く店も自ずと絞られる。 それは勤め人の時も同じで、いくつかの店をローテーションしていると店の人と顔見知りになる。何となくいつもの人がこちらの担当になってい

おはよう

おはよう おはよう、と言う挨拶が恥ずかしくて言えなかった時期が続いた。何で、おはよう、が恥ずかしかったのか、理由はよくわからない。ある時、何でもなく言えるようになった。 うちの妻はおはよう、が言えない。おはようございます、なら言える。きっとおはよう恥ずかしシンドロームから抜け出せていないのだろう。私も、ずっと、おはようございます、と言っていた。 学校時代、おはよう、と言われると身がよじれるような気分になった。うう、とか、うえす、とか返したような気がする。 少し逸れるが

サンドイッチ

サンドイッチ 食欲がなくて、ご飯とおかずの組み合わせで食事がとれなくなったとき、サンドイッチなら食べられた。なんか、サンドウィッチ、というのが気はずかしい。ラジオをレディオと言うようで。 ハムとチーズときゅうり、そこにマヨネーズ。バターまたはマーガリンを実家では塗っていたがしつこくなるので今はやらない。 ラップをかけて、しばらくおいておくとチーズが溶ける。パンが湿る。かといってそのまま放置しておくとパンが乾く。 立食で、小さく切られたサンドイッチの、端が乾いて、中のト

許さぬ構え

許さぬ構え、見たことが。 ふわりとあたりに漂っていた雑多な嫌気が、緩い渦になって回っているうちにどこかへ消し飛んでしまったり、ふるい落とされていくうちに寄せ集まり固まって、緩い渦はいつの間にかかなりの速度で回転し、気がつけば怒気と固まり焼き鉄のような黒光りを見せ、ついには星団の高速をもって周りを破壊して回る。 これが私の、言語化しえた許さぬ構えだ。 かつてただ、一度だけ、断固として許さぬ構えを表明したとき、私の中では憤怒が均一に溶けて同位し、むしろ単純に悲しかった。

小机を買った

小机を買った いまポメラを置いて打っている。古物。三千円で手に入れた。かなり汚れているかと思ったが少し磨き粉をかけて拭いたら表面に艶が出た。ニスかなにかが塗ってあるのだろう。木目がでている。 一枚板だが全面をとっているわけではなく二枚を付けてある。若干のそりがあるが特に問題はない。小さい。どのような用途に使われたのか。 丁稚どんが板の間で一汁一菜を食べるのに使ったのか。年代は? たぶん昭和だろうがよく知らない。ニスが手にべたつくような気がするがちょうどいい滑り止めになる