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第125回MMS放送 「ヌンチャク系iPhoneケースで話題になり、横浜の町工場が世界42カ国と取引」株式会社ニットー 代表取締役 藤澤秀行さん(2016/04/08対談)

●実は結構長いお付き合い

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enmono(三木) はい、第125回マイクロモノづくりストリーミング、本日も始まりました。本日は株式会社ニットーにお邪魔して藤澤さんに色々お話を伺いたいと思います。司会はいつもの通り株式会社enmono三木でございます。

藤澤 イェイ!(拍手)

enmono あといつもの声の出演で――。

enmono(宇都宮) はい、宇都宮です。

enmono 藤澤さんは今回2回目の登場ということで、来ていただきましてありがとうございます。

前回のご出演

藤澤 ありがとうございます。よろしくお願いします。

enmono 藤澤さんとはいつも、講演会とかも何度もさせていただいて、色々とお話を聞いてるんですけども、このMMSをご覧になる皆様の中にはもしかしたらご存じない方もいらっしゃるかもしれませんので、まず我々と藤澤さんの出会いというところからお話をさせていただければと思います。

藤澤 はい。

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enmono きっかけは「春のおばかモノづくり祭」というwebの企画がありまして、町工場でちょっとおばかなモノを作ってみようということでエイプリールフールにかけてありまして、それで募集をかけていたところ、ミナロの緑川さんという方に「ニットーという会社で面白いことやってる社長がいるよ」とご紹介いただきまして。

藤澤 2012年ですね。緑川さんとは元々結構長い付き合いで。

enmono あ、そうなんですか。

藤澤 緑川さんがミナロを起ちあげる前からですね。

enmono それで、いきなりiPhoneを振り回している方が動画で出てきたので、すっかりびっくりして。

藤澤 そうですね(笑)。

enmono(宇都宮) 会いに行かなきゃと。

enmono(三木) それですぐメッセージ送ったら、すぐ帰ってきたんですよね。

藤澤 そうでしたっけ(笑)。

enmono すごいレスポンスがよくて、そこからのお付き合いということで。もう4年。

藤澤 まだ4年か(笑)、っていうくらい濃いですね。

enmono 4年とは思えないくらいの、16年くらいな感じですね。

enmono 様々なことがありまして、今や我々の手の届かないところへ……。

藤澤 いやいや、そんなことないです。まだ全然。

enmono まだまだ?

藤澤 まだまだ行きますよ(笑)。enmonoさんのおかげで頑張れてます。

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enmono その時に開発したものが、前の方に並んでおりますiPhone Trick Coverという、iPhoneを振り回すという、今大人気の。

藤澤 ちょっと振り回してみましょうか。これが実機なんですけど、このiPhoneとカバーがクルクル回って、電話に出る時、こんな風に(ヌンチャクのような動き)iPhoneを振り回せるケースです。あとは特徴として、このようにスタンドになったり、後ろにSuicaを入れたりと。

enmono(三木) いいですね。

enmono(宇都宮) スタンドになるのはついでですよね(笑)。

藤澤 そうですね(笑)。第一の機能としては「振り回せる」というところがスタート地点です。

enmono 累計でどれくらい出ているんですか?

藤澤 ちゃんと数えてはいないんですけど3万4千台くらいになります。

enmono おおー。iPhone4の時代から?

藤澤 4の時代から累計で。クラウドファンディングの出荷も含めてですね。

enmono クラウドファンディングやりましょうよと僕らの方からお声がけして。


●それ、そんなに振り回しちゃっていいんですか?

藤澤 せっかくなので二人の出会いのきっかけになった最初の動画を見ていただいてもいいですか?

enmono ぜひ、お願いします。

※iPhone Trick Coverのデモ映像を再生。

enmono これがほんとに。

藤澤 すべてのきっかけですね。私にとってもそうですし、会社にとってもそうですし。

enmono これ、開発の時は会社には内緒に。

藤澤 こっそり作ってましたね。こっそり作って、日曜日に動画を撮影して、iPhoneで撮って。

enmono 改めて動画を見たらすごいよくできてるな思いました。その製品の特徴やワクワク感みたいなものがよく出ていて、あとちょっとギャグっぽいのも(※ 動画の中で振り回しているうちに落っことしてしまった)。

藤澤 (笑)。あれは全然わざとじゃなかったんです。たまたま落として。

enmono よかったと思います。傷ついてないかどうか見たりして。

藤澤 iPhoneじゃなくて机を気にするっていう。あれ無垢のアルミだったんで、実は重いんですよ。

enmono ビュンビュン回ってる感じですね。

藤澤 そうなんです、危ない感じなんで。

enmono(宇都宮) モデルチェンジ後の動画の技がすごくシンプルになってました。

藤澤 動画も色んな出し方をしてて、あんまり振り回しすぎて、一時期ドヤ顔を出し過ぎちゃったんで。

enmono ドヤ顔が炎上しちゃったんですか?

藤澤 ドヤ顔バッシングが来たんで(笑)。だから5の動画とかは振り回しとドヤ顔をちょっと抑えてたんですが、やっぱり振り回す方がいいんじゃないかとなったので、6の動画ではガンガン振り回すことにしたんですけど。

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enmono それがアメリカのサイトに掲載されたんですよね。

藤澤 そうですね。ギズモードに掲載されて。

enmono 知らない間に?

藤澤 知らない間ですね。見つけて掲載されて、シェアされ始めたらどんどん広がってった感じで。

enmono 60万回くらい再生……。

藤澤 今65万回くらいですね。

※2019/6/23現在749,856 回

enmono そういうのって向こうはなにも許可取らないで載せるんですね。

藤澤 YouTubeの映像をGIFにしてサイト上で動いてくれてたりとか。

enmono 戦略通りですか?

藤澤 戦略(笑)。ノープランでやってますからね。


●下請仕事のみの状態からの脱却

enmono では、ここで会社のことを少し説明していただけますか?

藤澤 株式会社ニットーです。創業49年で来年50周年を迎えます。横浜にありまして、ちょうど海が目の前でヨットハーバーが見えるところに会社があります。

元々は金型を製造する会社で、お客さんから品物の図面をいただいて、ウチで設計して、作った金型をお客さんに売るというところからスタートして。で、金型だけじゃなくて、プレス部品だとか、金型を作るので色々な機械加工もして、精密機械だとか治工具などもやるという会社であります。

enmono いわゆる典型的な下請の……。

藤澤 そうです。下請の会社です。

enmono その下請の会社さんがなぜ自社商品を開発しようと思ったんでしょうか?

藤澤 ちょうどリーマンショックもありまして、普通の下請だけだとやっぱりちょっと心配だなぁというのがあったり、下請仕事だと大手がどんどん海外へ出て行って価格競争が厳しくなっていって、そこから脱却するにはどうしたらいいかということがあったりで。

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enmono どのくらいの期間、開発しようかなと思ってたんですか?

藤澤 昔から何か自社製品やりたいなとは思っていました。製造業にいると割と皆さん思っていると思うんですけど、本格的にやり出したのが2011年くらいからです。

enmono 震災の……。

藤澤 その影響もありますね。そのくらいから取り組み始めたのですが、何をやったらいいのかわからなくて悶々としていました。その中で「おばかモノづくり祭」があって、そこに出したこのTrick Coverが欲しいという声がネット上にあがってきたので、「じゃ、これを自社製品にしてみよう」ということでスタートしました。

enmono 「おばかモノづくり祭」で「製品化しないんですか?」と聞いた時に、あんまりそういう感じはなかったと思うのですが。

藤澤 はははっ(笑)。精密機械を振り回すというのが製品になるとは元々思ってないんで。自分はこれ、作りたくて作ったんですけど、ほかの人が欲しいとは夢にも思わないというか。

enmono マーケティングとかしてないですよね。

藤澤 全然。ただ自分が作ったら面白いなというネタとして作っただけなんです。

enmono 会うたびに話が製品化の方へ少しずつ変わっていきましたよね。デザフェスの頃には8月に発売を決めると。

※デザインフェスタvol.35出展(2012/5/12-13開催)

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藤澤 決めるというプレスリリースも打ってですね。

※2012/5/9プレスリリース

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enmono そして「クラウドファンディングしようか?」と悪魔の声が囁いて。

藤澤 そうですねクラウドファンディングを全然知らなかったですけど、enmonoさんに。

enmono 私たちも(当時)あんまり知りませんでした。情報としては知っていましたが、実際にやったことはなかったんですね。

藤澤 自社製品をやるには、色んなことをやっていかなきゃいけないので、とりあえずやってみようと。勉強になれば失敗してもいいやということで、プレスリリース打ったりイベント出たり、チャレンジの一環としてクラウドファンディングにもチャレンジしたんですね。

enmono(三木) クラウドファンディングがスタートした日は覚えてます? 「今日何時からスタートです」ってメッセージがFacebookで来て、ちょっと大げさなことを書いてみたんです。「製造業の歴史がこの日で大きく変わる最初の日です」って大げさなメッセージを書いたら、「なんですかそれは」って返事が来て。

enmono(宇都宮) 本当に変えましたよね。

藤澤 その時はワケもわからずやってましたけど、大きなターニングポイントでした。

enmono あの日あの時やっていたから今がある、みたいなね。

藤澤 ほんとそうですね。

enmono(宇都宮) 極端に言うとやらなくてもいいじゃないですか。本業があるわけだから。そこを踏み切った決意というか。

藤澤 なんか面白そうだなと思ったからですね。直感というか。お客さんとの取引もそうなんですけど、いいなと思えばどんどん進みますし、「ん?」と思ったら考える。そこら辺の直感を大事にしています。まぁでも直感も自分なりに勉強したり、人にアドバイスもらったり、経験を積んだりした中で、最終的にそこに委ねるというか、そこら辺をアンテナにして判断してます。


●三つの会社が一つになって……

藤澤 で、色々やっていく中で自社製品の前に、自社で一貫生産というのをやりだして。今までは試作は試作、量産は量産だけで受注してたんですけども、どうしてもそれだと単発の仕事になって価格勝負になってしまうので、そんな中で設計・試作・金型・量産みたいのを一貫でやろうと決めたんですね。

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藤澤 そうするとお客さんの位置づけとして、パートナーとして長く製品の取引ができる。あとはウチが持っているノウハウなんかをお客さんにどんどん提供していくことによって、いい付き合いができるようになるという思いの中で自社で一貫生産をやって。その中でお客さんから依頼を受けて、色んな製品を作っていきました。

enmono それはいつ頃になるんですか?

藤澤 2010年くらいですね。ちょうど工場を引っ越した時期なんです。

enmono 2009年までは純下請で?

藤澤 純下請で、会社をプロモーションすること自体していなかったですね。ホームページは一応自分なりに作って出してたんですけど、位置づけとしては既存のお客さんに向けた最新の会社案内として作っていただけで、新規の人に見てもらうとか、そこにSEOとかの考えも全然なくやっていました。

enmono その頃は通常のルート営業に行ってやっていたんでしょうか。

藤澤 そんなイメージでやっていて、リーマンがあって、自分の会社を自分でアピールしないといけないなと。ウチが「金型やるよープレス加工やるよー」とか技術的に色んなことをやれても、プレスの仕事をもらっているお客さんに対して金型もやってるよという話をしないと、お客さんにとってはウチには金型の技術がないことになってしまうというか。要は知らせていかないとお客さんにとっては技術すら持っていないということになってしまう。

藤澤 敷衍すると、会社自体をアピールしないと、知らない人にとっては当然、ニットーという会社は「無い」に等しいということになってしまうわけですね。情報を伝えるとか、自分たちの技術とか、自分たちの会社がこんなことやってるよとか、ここにニットーがあるんだよと伝えていくのが大事だなということで、一貫生産をアピールの方法として選びました。

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enmono 藤澤さんの会社は三つの会社が一つになったと聞きますが、それはいつぐらいの話なんでしょうか?

藤澤 11年前ですから、2005年くらいですね。製造業によくある問題で後継者がいない。若者の製造業離れじゃないですけども、その中で伏見製作所という会社が一社目の合併した会社なんですけども、どんどん高齢化が進むが後継者がいない。お客さんがいて、従業員の方がいる。やめざるを得ないけどもという状況でウチに話が来て、「引き継いでくれないか」という話が来て。その時私は専務という立ち位置で父が社長でいたんですけど、私は最初反対したんですね。

enmono 論理的に考えればそうですよね。

藤澤 ウチとほぼ同じ規模の会社だったんですね。その頃10名ちょっとの会社だったので、10名ちょっとの会社が10名ちょっとの会社を買うと。

enmono それはすごい決断だな……。

藤澤 で、借金も結構あったんですよね。

enmono(宇都宮) それはいったん精算してもらわないと困りますよね。

藤澤 でも、そのまま借金も含めて引き継ごうという話になって。

enmono お父様がお付き合いのあった会社なんですね。

藤澤 そうですね。ウチが金型を作ったお客さんで、向こうはプレス工場だったんです。で、実際M&Aして一緒になると非常にいいことがあって、当然従業員にとってみれば雇用が確保される、リタイアするオーナーさんは安心してリタイアできる。あとお客さんもウチが引き継ぐことによって、安心して部品供給がされるので「いいな」と言ってくれたり。自社にとっても非常にメリットがあって、短期間に技術が倍になって、取引先も倍になった。会社規模が一気に倍になったんですね。

enmono 重なっているということはなかったんですね。

藤澤 お客さんとしては重なっているところもありました。

enmono 金型屋さんとプレス屋さんって同じモノづくりでも一品物を作ってる領域と量産の領域で現場の生産管理の質がちょっと違うと思いますが。

藤澤 確かに違いますね。ニットーとしてはその頃もうプレス加工とか色んなことを幅広くやっていたので、幅広さが枝を伸ばしていった時の太い枝がゴンッと急についたような感じですね。枝を伸ばそうかなと思ってた時に太いのが来てくれたので、すごく心強かったですね。技術があって、伸ばしていく先にはお客さんがいてくれて、ビジネスとしても広がりを見せてくれました。

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enmono もう一つの会社も?

藤澤 翌年にもやはり後継者がいない会社。そちらはアルミの板金加工を得意としている会社で。ウチとしてはアルミの板金とか溶接の技術がなかったので、でも割かし近い業界ではあったので非常にいい繋がりになりました。

enmono 三つの会社って従業員の方もそれぞれ別々の環境の中で育ってきたから、それを一つに統合するのって相当大変な作業だったんじゃないですか。

藤澤 工場がそのまま分かれている時はよかったんですね。ニットーという会社、伏見製作所という会社、田辺製作所という会社、代表が替わっても基本的にはやっている仕事は変わらないのでそんなに環境の変化はなかったんですけども、(分かれていると)非常に効率が悪いので一ヶ所にしたいということで、2009年に大きな工場――ここ(横浜市金沢区鳥浜町)に三社の工場を集約しました。

enmono 集約したその年にリーマンショックが……。

藤澤 そうなんですよ。その直後に。

enmono 社長としてはすごくガクーンと。

藤澤 なったんですけど、いい面と悪い面があって、新しい工場を買うってすごく大きな決断でお金もかかるんですけど、でもリーマンショックだったので想定していたよりも安く買えたんです。そういう意味ではよかったんですけど、先行きが見えない中で大きな買い物をしたのでどうにかしなければならないなと。三社それぞれ文化が違うので……。

※編注:対談の中では三つの会社が一つにとなっているが、伏見・田辺両製作所から期間をおいてもう一社、小池慎一製作所の業務も引き継いでいる。2004年に伏見製作所、2005年に田辺製作所。2008年に小池慎一製作所という順で資本業務提携やグループ会社化を進め、2010年に新本社工場へ集約を完了した。集約が順次進められたことで2009年という認識になっているのだと思われる。

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enmono その統合はどういう風にやっていったんですか?

藤澤 それぞれを見ていると、意見として間違ったことは言っていないんですけど、ベクトルが違っていました。それを一つのベクトルにまとめるために企業理念をもう一回作り直しました。その時新しくできたニットーの企業理念は「お客様にとって頼りになるパートナー企業として満足と信頼を提供し続ける」「働く一人一人がやり甲斐と幸せを実感できる企業を目指す」「より高いレベルの技術を目指し、常に新しいことにチャレンジし続ける」という三つになります。

enmono まさに三番目が今花開いて。新しいことにずーっとチャレンジし続けていますね。

藤澤 この企業理念も社長とか経営者が作るんじゃなくて、そこに集まった社員のみんなで作り直したんです。

enmono それはいいですね。

藤澤 ウチの会社はなんのためにあるのか、なんのためにニットーで働くんだという目的を企業理念に籠めるという意味では自分たちで決めたものの方がいい。

enmono それは嬉しいですね。社員が作ってくれたというところが。

藤澤 半年かけてこの企業理念を作って、社員の一人がせっかく作ったので毎朝唱和しましょうと、朝礼の一番始めにみんながこれを口に出して唱和してから始まるんです。だから社員誰に尋ねても企業理念は言えます。そういう風にしてベクトルを一つに向けていきました。

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●最新の自社商品作り:医療現場のニーズから生まれたウェアラブルチェア「archelis」(アルケリス)

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enmono 先程iPhone Trick Coverで自社商品開発のお話を聞きましたけど、その後、最新の自社商品作りはどうなっているんでしょうか?

藤澤 最新はこちらに!

enmono おお、かっこいい。

藤澤 これは医療現場のニーズから生まれたウェアラブルチェア「archelis」(アルケリス)といいます。

enmono どういう機能があるんですか?

藤澤 じゃあ、ちょっと動画を見ていただく形でよろしいでしょうか?

※「archelis」デモ動画を再生

enmono これはいわゆるお医者さんとかが手術中に脚に装着するものですか。

藤澤 そうです。元々は千葉大学のフロンティア医工学センターという、医療向けのモノづくりをやっていこうという部門がありまして、そこの川平先生というお医者さんの先生とお話ししていく中で、医療が非常に高度化し、立ったままで手術をする時間が非常に長くなってきている。患者さんの負担は減っていくんですけども逆にお医者さんの負担はどんどん大変になっていって……。

enmono 長時間になるから。

藤澤 長時間になるのもそうだし、非常に細かい手術が増えてくる。細かな手術を長時間立ってやるというのはやっぱりすごく大変な作業になるわけですね。

enmono(宇都宮) 脚もそうですけど、手のところもあるじゃないですか。「テケリス」みたいなのは……。

藤澤 テケリス(笑)。それも今後ということで。それで立ち仕事を楽にできないかと先生から話があって、じゃあ何かいいモノを作ってみようということで、最初は椅子……座れば楽なんじゃないかと思ったんですが、医療現場って足下にいっぱい工具があったり人が何人もいるので、椅子に座っている状態なら用を成すんですけど、一度立ってしまうと椅子は邪魔以外の何物でもないんですよね。何の機能も満たさない。座りたい時は座れて、立ったら消えちゃう椅子はないかなというところからスタートして、「じゃあ椅子を身につけちゃおう」という発想で。

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enmono 藤澤さんと先生で話し合ったのですか? ほかにも何人か?

藤澤 ほかにもフロンティア医工学センターの中村先生という工学部の先生がいて、その方とも一緒に話しました。基本的にはまず「立って楽にしたい」というニーズをいただいて、私の方でスケッチをして、「こんなのどうでしょうか」と見せて、「いいですね」「じゃあ試作を作りましょう」とウチの工場で試作を作って、また見せてみたいな形で製品になっていきました。


●2015年、怒濤の年末

enmono それはいつ頃なんですか?

藤澤 やり出したのは2014年の10月くらいです。1年半くらいですね。

enmono 早いですね。

藤澤 でも特に納期が決まっていなかったので、まぁダラダラとやったんですよね。

enmono それが確定的になったのは……?

藤澤 テレビの取材が来るということになって、それまではゆっくり、ある意味自分のペースでやってたんですけど、年末のテレビ(2015年12月31日 フジテレビ「景気満開テレビ」)で石破大臣がこのアルケリスを着けるという企画があって、「じゃあちょっと……ちゃんと作らないとダメだな」と番組に向けてじゃないですけど、製品をブラッシュアップして試作を……。

紹介

enmono 納期が決まっちゃったわけですね。

藤澤 無理矢理おっつけた感じではありますけども。

enmono これ非常に洗練されたデザインになってますけど。

藤澤 最初は全然こんなにかっこよくなかったんですけど、2015年の末くらいにテレビの取材が入るよと決まって、これを頼むなら前々から一緒にお仕事したいと思っていた西村拓紀デザイン株式会社の西村さんだなぁとお願いしたら「面白そうだね」と引き受けてくれて。

enmono(宇都宮) 納期がタイトじゃないですか?

藤澤 タイトなんですよ(笑)。二ヶ月くらいで何もないところからこのデザインをして……これは3Dプリンタで作っているデザインモデルなんですけど、これも西村さんのところで作っていただいたんです。すごかったですね。過酷でした。なおかつ特許を出したりとか、知財も押さえなきゃいけないとか。意匠は出してないですね。

藤澤 特許や商標なんかは弁理士さんに「こんな短期間でやらない」って言われたんですけど、テレビに出るからと知財も押さえて、試作を作りながら、テレビに出るということでホームページも作らないといけない。それなら動画も作らなきゃいけないと、また動画も作って。12月31日の番組だったんですけど、ホームページや動画ができたのが1日前とか。撮影自体も年末の3日前、普通の人が仕事終わった後に動画とかスチールを撮って。

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藤澤 西村さんも同席してくれて。スチールのカメラは吉田さん(zenschool第7期生吉田貴洋さん)。

吉田さんすごいですね。このホームページの写真も吉田さんです。吉田さんはスチール用の写真撮ってて、その横で私は邪魔しないようにムービーを撮ってました。

enmono(三木) じゃあ、ライティングは全部吉田さんがセッティングして……。

enmono(宇都宮) enmono祭みたいな。

藤澤 そうですね。enmonoさん繋がりでこの製品ができてます。

enmono で、いよいよ「ガイアの夜明け」なんですね。

藤澤 年が明けて1月にはenmonoさんが「ガイアの夜明け」に取り上げられるという。

enmono 一所懸命押し込んだんですよ。(笑)

藤澤 ありがとうございます。

enmono 実際に江口洋介さんが……?

藤澤 はい。江口洋介さんがこのアルケリスを装着してくれて。着けた時に江口さんは「あれ? 全然楽じゃないじゃないか」と仰って、よくよく見たら江口さん脚が長すぎて規格外だったんです(笑)。メンズノンノのモデル出身なんで、日本人の脚の長さの規格外というくらい足が長かったんです。これ、身につける製品なので、その機能を果たすためにはサイズが合っていないといけないんです。

enmono それは改善の余地が。

藤澤 はい。こんなに人って違うんだと気づけました。そこから社内の従業員全員の脚の長さを測って、どのくらい人ってバラついてるんだろうって。身長が同じでも脚の長さが違ってたりするんです。

enmono(三木) 僕もここがめちゃくちゃ短いですよ(笑)。いつも足が短いって言われてるんです。奥さんに。

enmono(宇都宮) そんな告白いらない(笑)。

藤澤 (笑)。今まで開発をやってきましたけど、人が身につけると全然違うなと思って、どうやってフィットさせるかというのが今の課題です。


●さらに世界から注目される「archelis」(アルケリス)

enmono 今、世界中から引き合いがめちゃめちゃ来てるんでしょう?

藤澤 海外のwebでも結構。日本よりも海外のサイトで多く取り上げられて。国数で言うと20ヶ国以上ですね。言語で14ヶ国です。

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enmono プレスリリースを出したんですか?

藤澤 プレスリリースは国内だけですね。それで海外にどんどん広がっていって。

enmono 誰が翻訳したんだろう。海外からの取材はいかがですか?

藤澤 取材は来てないですね。動画を使わせてくれっていうことで。YouTubeの動画を普通にサイトに載せる場合は連絡来ないですけど、テレビで使う場合は来ますね。

enmono(三木) じゃあ来年SXSW(サウスバイサウスウエスト)へ行ってこれをPRすればいいじゃないですか。

enmono(宇都宮) ミラノサローネに行かれるんですよね。

藤澤 そうですね。ミラノサローネは2017年に出展をする予定です。

enmono アルケリスを?

藤澤 アルケリスではなく、また別の横浜の製造業のグループ(YOKOHAMA MAKERS VILLAGE)でデザインに特化した製品をやろうということで今やっていて。

enmono(宇都宮) 色々されてますね。

enmono(三木) これは海外に出さないですか?

藤澤 出していくんですけども、色んなメンテのこととか保証の問題もあるので、まずは日本でしっかりとした製品販売をして問題ないというのを確認してから海外展開をしていこうと。無理しないように、段階を踏んでやっていこうかなと思っています。

enmono サウスバイはいいかもしれないですね。来年くらい、ご検討ください。

藤澤 はい。ありがとうございます。


●自社商品開発をしたいという町工場へ向けて

enmono 普通に見て、ここまでの自社商品開発はウチの会社じゃちょっと無理だと挫けちゃう町工場がたくさんあると思うんですけど、多分一番最初はiPhone Trick Coverから。本当に自分で端材を加工するようなところから始められて、自社商品開発で小さい成功があって、また次の小さい開発があって成功に終わってという段階を踏んでここまで来ている。

藤澤 多分最初からこの製品(アルケリス)を……思いついたとしても製品にしようとはまず思わないですね。でもTrick Coverとか自社製品をやってきた積み重ねがあったので、段々階段を上っていったので今これやるにしても、「ああ、じゃあこうやればいいんだな」とか「こんな風に伝えればいいんだな」とかわかってきたので、まず自分のできることから自社製品としてやる。

enmono まさにマイクロに生みだしてマイクロに成功していく、それをなるべくスピーディに、しっかり成功体験を重ねていくことが、結果に繋がるということですね。放送をご覧になっている町工場の方に、「私も自社商品開発したいんだ」という方がいらっしゃると思うので、なにかアドバイスがあれば。

藤澤 まずやっぱりzenschoolの考え方、マイクロモノづくりの考え方でもある「楽しいことをやる」というのが、私自身も大事だなと思います。

enmono(宇都宮) やっているうちにツラいことも生じるじゃないですか。やめても誰も文句言わないじゃないですか。自社商品って。でもやるための原動力が……。

藤澤 自分が楽しいって思えないと大変な時期を乗り越えられないので。

enmono(宇都宮) 多分、身近な人から反対が来るじゃないですか。その時になにかないと乗り越えられないんでしょうね。

藤澤 「自分が楽しむ」はすごい大事だなと思います。


●今後は社員発の自社商品開発を

enmono 社員さんからも自社商品開発の声は出てるんでしょうか?

藤澤 はい、やっぱり元々は作りたいものを作るというところから始まっているので、製造業の会社なので私だけじゃなくて社員の人たちもモノづくりが好きな人が多いんですね。そんな中で社員の中からも自社商品のアイデアを集めて、もしかしたらまたそこからキラッと光る製品が生まれるんじゃないかと取り組んでいます。

enmono 今は社長がメインでやっているけども、いずれは社内から商品の企画ができるように。

藤澤 ぜひそういう風にやっていきたいですね。

enmono 社員が社内設備をある程度自由に使える制度とかはあるんですか?

藤澤 オープンファクトリー制度というものがあって、それは15年以上前からやり出して、元々は多能工といって、一人の人が一つの技術じゃなくて色々な技術を身につけましょうということで。でも仕事でやれることは限られるので、休みの日とか仕事終わってから、会社の設備とか端材を使って自分で好きなものを作っていいですよということを言ったんです。
藤澤 それで実際釣りの道具とか自転車の部品を作ったりして、自分の好きなものを作るんですけど、それは例えば溶接ができなかったら溶接の人に言って教えてもらいながら自分で溶接するとか、板金の人に教えてもらいながら自分で作るとか。自分で作れば楽しいし、愛着も湧くし、自分で作るものなので極端に言うと失敗してもいいわけです。

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藤澤 それをやって社員同士が交流したりとか、さっきのM&Aで集まった技術を攪拌していければいいなということでオープンファクトリー制度をやったんです。私のTrick Coverも自分の好きなものを作ろうということで、会社が終わったあとに自分で作ったんです。それまでは作って終わってたんですけど、それをネットに上げたら作って欲しいという人が他にもいた――という反応が見られて、それがヒット商品に繋がっているんですね。
藤澤 だから自転車の部品とか釣りの道具なんかも、自分の好きなものを作っただけなんだけど、それがヒット商品になるかもしれない。可能性があるということだと思うんですね。

enmono 社内で自社商品展示会みたいなことはやらないんですか? こういうのを作りましたって。

藤澤 それいいですね~。

enmono(三木) お互いに褒め合うというか。

enmono(宇都宮) zenschoolの発表会を持ってくるとか。

enmono(三木) 社員さんも連れて、そういう雰囲気を味わってもらえれば。そしたらそれに刺激を受けて、会社に戻ってまた作ったりするかもしれない。


●日本の町工場の未来・若者の未来

enmono お話は尽きないんですが、そろそろお時間の方が迫ってまいりました。いつも皆様に質問していることがありまして、藤澤さんの考える日本の○○の未来。この○○はご自身で入れていただければなと思うので、モノづくりでも町工場でもなんでもいいのですが、なにか思いがあれば語っていただきたいと思います。

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藤澤 一つは日本の町工場の未来ですね。ウチ自信も町工場からスタートして、横浜にあるので横浜の製造業の仲間と話す機会があるんですけど、やっぱり非常に厳しいなぁとか大変だなぁという話は出るんですね。そんな時に自社製品をやってウチはだいぶ変わったんです。いいことがあって。

藤澤 最初はなにかやりたいねと言ってて、自分なりにやっていて、知り合いの工場に大変だねって話をしていた時に、アドバイスといったら烏滸がましいですけど「こういうことやるといいんじゃない?」というのを話すんですけど、でもやっぱり一歩踏み出せなかったりするんですね。そういう意味では新しいことを一緒にやっていくことで、今の負の状態を脱却できる、楽しんでやれると思うので、そこを一緒にやれたらなと。

enmono やっぱり現状の町工場を見ていて厳しいですか。

藤澤 まだまだ厳しい状態ですし、若者にとっては魅力的ではない。昔の3K職場ほどではないですけど、もっと夢のある会社、夢のある職業にしたいと思うんです。そういった意味で面白い商品を出すとか、私含めて自分で色んなことをやって、それを見てもらった時に、「ああ、ああいう風になりたいな」みたいなことを思ってもらえるようなことをやっていきたいと思います。

enmono(三木) 素晴らしい。

enmono(宇都宮) 若い人たちから声がかかることってあります?

藤澤 最近だと地域の学生さんと交流することがあって、金沢区だと関東学院、大学生とか高校生ですね。割かしですね、「Trick Cover知ってるよ」と知っててくれるので今までの製造現場なんか見たことない人がほとんどなので、「面白いですよね」とか「テレビで知ってる知ってるコレ」とか、学生さんもこれ見ると「なにこれヤベェ」って。

藤澤 ヤバイって褒め言葉をいただくと私嬉しいんですけどね(笑)。「ヤベェぞ」って言って触ってくれるんで。そうやって作ったものが若い人にとって楽しみに繋がってくれたら、本当にそれは嬉しいなと思いますね。

enmono 貴重なお話をいただき、ありがとうございました。本日は株式会社ニットーの藤澤社長にご出演いただきました。どうもありがとうございました。

藤澤 はい、ありがとうございました。

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対談動画

▼藤澤秀行さん

▼株式会社ニットーWEBSITE

▼ウェアラブルチェア「archelis(アルケリス)」

藤澤さんにもご登壇いただいたイベントレポート

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