第135回MMS(2016/08/11対談)「商品コンセプトと技術力のあるメーカーを結び、ユニークな新商品をつくる共創プラットフォームサービスWemakeを提供」後編 株式会社A(エイス) 代表取締役 山田歩さん
前編より続く
●まず話し合って思考のフレームを決める
enmono三木 後半も引き続きWemakeの仕組みについて伺っていきたいんですが、実は僕らも最近オープン・イノベーションの文脈で色々イベントにお呼ばれすることが多く、イノベーション担当部署とか新規事業部の方とお会いするのも多いんですけど、皆さん非常にストレスフルな方が多く見受けられ、なにが原因なのかなと思っていて。
三木 今まで「余計なことやるな」とか「言われた通りにしろ」とか「コンプライアンスがどうの」とかギチギチに詰められた中で育ってきた人が、いきなり檻を外されて「なんでもやっていいよ」と言われたってなにをやったらいいのか、逆にそれ自体がストレスになってるというパターンが多かったりして、大企業のオープン・イノベーションも色々難しいところがあるのかなぁと感じているんですけども。山田さんがお付き合いされている新規事業部というかR&Dの方が多いんでしょうか。
山田 R&Dとか新規事業部とか商品開発とか同じくらいの割合かなと思います。
三木 そういう方たちとお話しして感じている課題とか、なにかあれば。
山田 色んなところでお話ししているんですけど、一概に大手メーカーが同じ課題で悩んでいるとはなかなか言えないんですけど、よくあるのとしては、オープン・イノベーションといってもなにをオープンにするかというのと、どういうリソースと提携すればいいのかがなかなかわからないよねという。
山田 あるいはわかったとしても探すのが大変だよねという。リソース集めの話のケースもありますし。あとはリスクにも限界があってオープン・イノベーションといいつつも保守的なオープン・イノベーションをやらざるを得ない。
enmono宇都宮 尻すぼみな(笑)。
三木 よくあるのは突然メールが来て、ウチはこういうリソースがありますから勝手に提案してくださいみたいな超上からのメッセージが来て。
山田 ありますね。
三木 見るとたくさん書いてあるんです。あまりにもありすぎて、よくわからない会社のリソースになっていて、なにを提案してもらいたいんだろうというのがあるんですよね。
山田 メーカーさんの中にたくさん素晴らしいものがあるのは僕らも外から見ていて重々承知なんですけど、それがどう素晴らしいのかというのをメーカーの中の人の視点ではなくて、外から見た人の視点で翻訳してあげないと、「こういう技術があるんだよ」と言われても、「それによって人間の生活をどう変えられる可能性があるんだよ」という言葉に替えてもらわないと、なかなかそれを使いにくかったりするんじゃないかというのは、ギャップとしてよく感じることですね。
宇都宮 原材料しかなくて、素材になってないんですね。
三木 少なくとも大まかな方向性を示してくれないと、この会社なにをやりたい会社なんだろうと。それがわからないとなにを提案していいのかもわからない。
宇都宮 提案するのも結局コストじゃないですか。提案する側からすると。そこを乗り越えてもらうっていう。
山田 逆にそこはある程度割り切っているところがあって、最初に僕らはメーカーさんとお話しする時に「なにがゴールですか?」「そのゴールを実現するための期待成果はなんですか?」とまずお話しして、加えて「社内的な制約ってなんですか?」「絶対に動かせない制約ってなんですか?」と聞いて、まず思考のフレームを決めます。
山田 そのフレームの中で、我々としてできるプランをいくつか提案するということはもうしょうがないと思ってやっているんですよ。何回にもわたって提案に行くこともありますし、ひたすら「いや、これはできないよね」と議論を繰り返しつつ、「じゃあここを落としどころとしてやってみようか」という形でやってきました。
宇都宮 導入のメーカーさんとの対話って結構時間かかりますよね。その間って費用は発生しないんですか?
山田 発生しません。そこは最終的にWemakeで事業・プロジェクトをやってくださればいいかなっていう。結構最近では増えてきてるんですけど、最初3ヶ月のプロジェクトだったのが、1年とか年間通してやりましょうと言ってくださるメーカーも増えてきて、そうなると期待収益自体も上がるので、初期に色々提案するのも問題ないよねと。
三木 1年かけて……年間契約みたいな形?
山田 毎月ずっとオープンしてる感じで。
宇都宮 ハードウェアって1年じゃ足りない場合も多くないですか?
山田 そうですね。
宇都宮 ちょっとしたガジェットとかソフト系とかアプリ系とかなら1年で充分成果物になりそうですけど、ハードウェアだと1年じゃ試作で終わってしまう。
山田 そこに対するギャップ。コミュニティに対して収益分配する仕組みが我々にはあるんですけど、収益を分配するのがやっぱり1年先、1年半先になってしまうのはやっぱりネックだとは思っていて。
山田 ちょっと話は逸れますけど、プラットフォームなのであくまでリードタイムが長いメーカーさんだけじゃなくて、例えばもっと衣服系? 服飾系だとか出版系だとか、今後多分飲食系も始まるんですけど、そういうものは基本的にリードタイムが短いので、そこで収益をバックしてあげてバランスを取ろうかなという感じですね。
三木 それは賞金みたいなものなのか、それとも売上に応じて戻すというものなのか、色んなパターンがあるんですか?
山田 色んなパターンがあって、メーカーさんによってはロイヤリティが無理っていうケースもあるので、固定報酬で払っていただくケースもあります。
山田 そろそろ始まるプロジェクトなんですけど、それは完全にロイヤリティで、商品の売上から収益分配するという。結構下代ベースで5パーセントとかなので。
三木 すごい、いいですね。
山田 結構いいパーセンテージですね。
宇都宮 ロイヤリティが増えても売上が把握できないとロイヤリティが……(正確な数字を算出できない)。
山田 そこは……。
宇都宮 紳士協定ですか?
山田 はい、紳士協定です。
三木 なるほどね。
山田 本当はそれをきっちり把握する仕組みとかを作らなきゃいけないと思うんですけど、そこまで言うのもなという。
山田 我々もプロジェクト運営費だけじゃなくて、ロイヤリティからもらえる、かつコミュニティに対しても利益から分配するということができつつあるプロジェクトもあります。
山田 そういう形で収益的にはバランスをとっているという感じですね。
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●新規事業開発にあたっては事前の社内体制構築が不可欠
宇都宮 (Aの)社員さんが三人?
山田 三人です。
宇都宮 そうすると大企業1社くらいでパンパンになったりしません?
山田 今だと、まだ公募開始していない会社含めて5社くらい回してて。なので、かなりの部分をオペレーションを自動化するための機能開発というのに投資してて、我々がこれまでずっと手作業でやっていたところというのを、なるべくメーカーのスタッフさんが自動でできるように、というのを今機能として作っていて、それで段々手離れしていくというのをプラットフォームとしては目指しています。
三木 これは我々の問題意識でもあるんですけど、事業としてなにか新しいことをやる時にひとつアイデアというのは重要なんですね。アイデアで事業になるかというと、それは難しくて。アイデアと技術。で、アイデアと技術で事業になるかというと、これもまた難しくて。最後にその事業を引っ張る人の情熱。ここが最も重要だと思ってるんですね。
山田 仰るとおりです。
三木 色々アイデアが集まってくるんですけど、精査して商品作りましたと。それを事業化するかどうかのプロセスが難しいというかハードルが高そうに思うんですけど。その辺を情熱を持った担当にどのようにアドバイスしたらいいと思いますか?
山田 本当にいいパスを投げてくださってありがたいです。我々は結構そこにこだわっていて、結局オープン・イノベーションって取り組んだだけではなにも意味がなくて、成果として売れるなり何なり結果が出ないと意味がないんです。
山田 結局メーカー側でそれをドリブンする人の情熱とか能力とかにすべてかかってくるので、我々としては最初にお話しする時に、新商品開発の場合は社内に体制がすでにあるのでいいんですけど、新規事業開発の場合には、既存の部署で扱えない事業が出てきた時にどうしますか? その体制を構築しないとやらないですよという話をしていて。
山田 まず賑やかしのためのプロジェクトはウチはやらないですという話をして、必ず事業化できるプロセスが引いてある状態でないとやらないです。だからそこは引いてくださいと、組織体制を構築してくださいと。で、「こういうケースにはどうする」というのを予め全部作って、一緒に議論しましょうと。それができてからじゃないとやらない方がいいですよという話をしてて。
三木 そういう体制づくりをしてもらうとか、事業プランを考えるというのを僕らのzenschoolではやるので、そこを一緒に組むと役割分担がうまくできるのではないかと思います。
山田 Wemake、今はメーカーありきのモデルになってるんですけど、元々はコミュニティから出てきたアイデアをメーカーにマッチングしにいくというものだったんです。リニューアル前までは。それが全部、基本的に大失敗して、なぜかといえば外から持ちこまれたアイデアって(メーカーにとっては)他人事なんですよ。
山田 なので最初の段階から巻きこむことが本当に重要で、それはメーカーの中での新規事業構築っていうことにも完全に言える話で、例えば関係ない役員の方とかはいきなり新しい事業できたのでやってください、投資してください、リスク取ってくださいって言われたら絶対やらないじゃないですか?
山田 なので最初の新規事業開発のチームを構築する段階で、そういう役員の方とかも全部巻きこむんですよ。なのでFUJI XEROXなんかは半年かけて社内体制構築して、結局最終的には30事業部、役員が4人、メンバーとしては50名という体制を構築した上でやっているんですよ。
enmono すごいですね。
三木 コンサルじゃないですか。もう組織コンサルというか。
山田 そこまで大層なことをしている意識はないんですけど(笑)。
enmono してるしてる。
三木 ほかの外資系コンサルの10倍くらい取れますよ。
山田 それはそうだと思います。そういうことをやりつつ、出てきた時にちゃんと事業化できそうだなという目処が立った時にやるという形で。ただ、今は新規事業開発って意外と多くなくて、新商品開発の方が多いので、割と穏当に始まることが多いです。
山田 メーカーありきのモデルに変えた後も2回失敗してるんですね。オフレコ……かもしれないんですけど、
宇都宮 これ、公開されちゃいますよ?
山田 社名非公開でやらせていただいた、某大手メーカーのプロジェクトは、納品したものの、ほとんど全部社内でボツになるか商品化されなかったんですね。なぜかといったら、納品したものがメーカーの社内ですでに検討されたものとバッティングしたりとか、やっぱり他人事だったという話で後回しにされたりとか。
山田 そういう反省を活かして、今やってるのがさっきの投稿された初期段階からメーカーの担当者をつける。優秀なコンセプトにはもうチームとして入ってもらう。最終的に「俺のコンセプトだ」って思ってもらえるように、ずっと併走していくんですね。
山田 投稿者とコミュニティメンバーとメーカーの担当者が、ずっと併走していくので、KOKUYOさんもFUJI XEROXさんもプロジェクト終わった段階では、「これは俺のコンセプトだから」って一緒に発表するような形で、上長にもプレゼンするので。上長も部下の提案となると無碍にできないというので、今KOKUYOさんもFUJI XEROXさんも事業化に向けてきっちり動いているというのがあって、ようやくまともになってきたなというのがあります。
三木 素晴らしいですね。
山田 大体、新規事業開発か、新商品開発のプロセス革新か、新商品開発かでパターンがあります。
宇都宮 すごいノウハウが貯まってますよね。
山田 ようやくここまで来たという感じですよね。
三木 なんか本当に一緒にできるんじゃないですかね。
山田 やりたいですね。
三木 可能性を感じます。
●マイクロモノづくりの考え方がオープン・イノベーションに繋がる
三木 ちょっとまた話題を変えますけども、我々がやっているマイクロモノづくりの考えなんですけど、「自分で商品を企画して、自分で作って、自分で売る」――中小企業と個人がちっちゃいメーカーになるみたいな。
三木 さっきもう一つのプロジェクトで中小企業さんと一緒にやるというのがありましたけども、こういう考え方にご意見とかもしあれば。
山田 非常に賛成しかないなと思っていて。
三木 ありがとうございます。
山田 そもそもやられているマイクロモノづくりの考え方。まず自分の中でなにを作りたいのか考えようという、その情熱を形にするところから始めようという考え方だと理解しているんですけど、それは一番最初にあるべきだと思っていて、その上でオープン・イノベーションって初めて意味を持ってくるんですよ。
三木 はい、そうです。その通りです!
山田 自分の視野がどこかというがわからない限りは自分の視角がわからない。
三木 さっきの話に戻りますけど、大企業の多くが情熱が足りない。そうなると納品したけども「僕のアレじゃないですからね」となっちゃうんですけど。
山田 やっぱりメーカーの中にいる人って基本的にモノづくりが嫌いじゃないから入ってるはずなんで、中に秘めたるなにかはあるはずなんですね。結構僕もよくメーカーの人と話してて、「あなたはなにやりたいんですか?」って話をよくするんですよ。
山田 結局プロジェクトメンバーとしてお互いのやりたいことをちゃんとすり合わせられないとダメだと思っていて、そこにパッと答えられる人って意外と少ないなと思いますね。
三木 なかなかいないですよね。
宇都宮 やりたいことや作りたいものがあっても、本当にやりたいかどうかってことはちょっと別だったり。
山田 そうですね。そこも建前とかを全部取っ払って
宇都宮 作るまでは好きだけど、そこからもエネルギー使うので。気づいてないじゃないですか。エネルギーかかるってことに。作ったら大体ピーク終わってて。そこをどうクリアしていくか。
山田 ひとつの試みとして京都大学の教授と一緒にやっているワークショップがあって、中小企業に対して分散オープンモノづくりという、やってることはこれと同じなんですけど、オープン・イノベーションというものをもっと簡単に分散モノづくりと言ってるんですけど、それを体感するっていう場所を作って、半日くらいの期間の中で、自社で自社商品開発をするという時に販売まで行くためにはどういうプロセスがあるのかを体験してもらうというショップをやっていて。
山田 その中で「あ、これって自社でできなかったね。でも必要なんだね」と気づいてもらって、「じゃあ社内でそれを雇うリソースがないんだったらオープン・イノベーションするしかないじゃん」という結論に至ってもらうというのを2~3回やってきていて、
三木 へぇ~、その先生紹介してください。
山田 普通にご存じかもしれないですけど塩瀬先生っていう。
三木 塩瀬先生?
山田 水野さんは結構親友みたいな感じで。
三木 ああ、そうなんですか。
山田 MESHとかあるじゃないですか、SONYの。あのワークショップとかやってるのも全部、塩瀬さんだと思いますし。
山田 なのでマイクロモノづくりは本当にありがたい話だなというか。コーチングじゃないですか、言ったら。コーチングとコンサルティングが……。
宇都宮 あと、カウンセリング。
三木 心のケアもやってます。
宇都宮 実はzenschoolって4日間なんですけど、その後の1年間のフォローアップが結構効くんですよね。
三木 この間お会いしたとあるメーカーの新規事業の方が、ものすごい顔が暗いんですよ。「もうどうしたらいいかわからない」という感じで。それで色々話を聞くと、いくつかアイデアを出さなきゃいけないんだけど、出しても出しても全部潰されて、もうメンタル的にヤバイ感じで。
三木 僕らのzenschoolに来て、たまたまある企画を出して、直属上司とかの評判はよろしくなかったんだけど、社内の展示会があってほかの部署からやろうよみたいな感じになってきて、この間その人とお話ししたら急にニコニコしてて、なんかもうメンタル的にも回復してきていて、なんかモノづくりをご支援してるんだけど半分精神科みたいなメンタルコーチングみたいにもなっていて。
山田 めっちゃ重要ですよね。中にいたからこそわかるっていうこともあると思いますし。なので、大賛成ですね。基本的には。
三木 ありがとうございます。
山田 いえいえ、とんでもないです。
●日本のモノづくりの未来
三木 皆さんにいつも最後に同じ質問をしているんですけども、山田さんの考える日本のモノづくりの未来、どういう
山田 理想として掲げているのが、このミッションのところに書いているんですけど、「組織や国籍、個人や企業、職種などの壁を越えてコラボレーションしあい、それぞれが出来ることを持ち寄って価値創造できる場所をつくる」っていう風に言っていて、この中で特に重要なのができることを持ち寄るっていうことだと思っていて。
三木 バーベキューですね。
山田 そう、バーベキューモデルで(笑)。自分が不得意なことを補完するための投資ってオープン・イノベーションが前提にあれば、あんまり効率がよくないと思っていて、できれば出来ること同士、得意なこと同士を持ち寄って価値が創造できるようになればいいのかなというのが、モノづくりの未来としては考えていて。
山田 なんでもかんでも自社でやりますという形を捨てて、自社でやりたいことはなんだっけ? 自社でやるべきはなんだっけ? というところをもう一回考え直した上で、頼るところは頼る、自社でやるところはやる。きっちり線を引いて、一緒に共存できるといいんじゃないかなというのを思っています。
三木 この世界を実現するために超えていかなければならないハードルはどんなものが?
山田 今Wemakeというプラットフォームをやっていて、冗談ではなくてこのWemakeというプラットフォームを発展させることで達成できると思っているんですけど、例えば今Wemakeというプラットフォームに集まっていないリソースっていうとバイヤーさんとか消費者。
山田 投稿者じゃなくて消費する人というのがパイとしてあんまり集まっていないので、買い手がプラットフォームを作っていくことが、中小企業の商品開発をする時には非常に重要だったりするんじゃないかなというのがあったりはしますね。
三木 消費者側も巻きこんでいくという。どこかのプラットフォームと連携をしたり。
宇都宮 zenmonoと。
山田 ぜひぜひ。
三木 あるいは大手の通販サイトさんとか。
山田 そうですね。
宇都宮 amazonがいいんじゃないですか?
山田 食われそうです。
一同 (笑)。
三木 お話はまだ尽きないんですが、そろそろお時間です。今日は話題がすごく近くて、感じている課題も本当に近かったので。
山田 本当にありがとうございます。
宇都宮 そんなに色々やっているとは知らなかったので。
三木 そう、知らなかったので、ぜひもっとPRして。
宇都宮 これ、見ている方も知らない方もいると思いますので、ぜひ。
山田 はい。
宇都宮 PRに協力したいという人を募集したらいいんじゃないですか?
山田 ぜひ。クライアントに対する提供価値の切り出しなどを一緒にやってくれる人いたら嬉しいです!
三木 本日は貴重な時間をありがとうございました。
山田 ありがとうございました。
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