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中古マンション投資の注意点

(全裸不動産 全裸幡随院)
国土交通省が年間30万件の不動産取引をもとにして不動産価格の動向を指数化した“不動産価格指数”があります。2010年平均を100とした上で、指数の推移を見ると、2021年の時点で、住宅は総合で125の数値を示しています。

これを細かく分けて見ると、戸建住宅の価格が109、住宅地の価格が106となっているのに対して、区分所有マンションの価格は173という驚異的な伸びを示していることがわかります。2013年から一貫して右肩上がりに上昇しているのです。

地域別に見ると、最も強い上昇ぶりを示したのは、253の数値を示している北海道です(ちなみに、関東地方は166です)。近畿地方も中国・四国地方も九州地方も北陸地方も沖縄も、いずれもが上昇しています。築年数別に分けて見ると、当然築年数が古くなるほど売却価格が低くなっていますが、築0~5年と築31年以上だと、後者は前者の3分の1ほどの価格で取引されています。築20年以上になった段階でがくんと下がり、築25年以上になるとさらにがくんと下がります。

今後も、この上昇基調が続くかどうかは不透明ですが、仮に調整局面に入って多少の下落が生じたとしても、暴落という程の価格下落が起きるとは今のところ考えられていません。但し、いつか日本銀行による量的緩和が解除されるようなことにでもなれば、金利上昇による不透明感が市場全体に漂い、勢い不動産市況に影響を及ぼす可能性はあり得ますので、金融政策の動向には注視しておかねばなりません。

それはそれとして、不動産投資で失敗しないためには、収益物件を購入する前のデューデリジェンスすなわち詳細調査が不可欠となります。まず、①物件の市場調査で賃料・空室率変動を予測し、②建物の状況調査報告書でキャッシュフロー計算に影響を与える緊急の修繕費や中・長期での周期的支出となる大規模修繕計画を立て、③出口戦略として売却価格を予測しておく必要があります。

収益物件の立地は、①にとって重要な市場分析する際の基本的な点です。ここ数年の地価上昇と建築資材の高騰が、これから供給される新築マンションや中古マンションの価格の上昇を引き起こしています。マンションの販売価格は、立地により用地費用や建設費用の割合は変動しますが、概ね利益が10%、諸経費が15%で、用地費用と建設費用が75%を占めています。そのため、この部分の高騰は、マンション価格上昇の大きな原因を構成しています(もっとも、新築マンションが販売されるまで2年ほどかかるため、用地費用などの上昇が販売価格に転嫁されるにはタイムラグがあるという点に注意)。

くどいようですが、収益目的のマンション投資を効果的に行うには、市場調査は不可欠です。市場調査の内容は色々ありますが、周辺エリアの地域特性や周辺競合マンションの賃料水準と履歴、空室率の推移、売出・成約価格事例など様々なデータが必要です。地域特性ならば、駅前の状況、スーパー、コンビニエンスストア、病院、ターゲットとなる住人層に応じた施設の分布密度、都市計画や都市整備の将来動向、エリア内の居住者の人口・世帯数動向、年齢別人口構成比、職業別、収入別構成比などを調査することによって、将来における地域の発展・衰退具合がある程度まで予測できるはずです。まさか、「供給がそれ自身の需要を生み出す」といった“法則”など、少なくとも小規模の収益物件に当てはまることはありません。

次に重要な点としては、不動産価格に直結した動向予測です。これを行うには、エリア内の地価公示価格や地価調査基準地価格、不動産流通市場の売出・成約価格の動向を時系列で調査して、過去のトレンドや相場価格を掴むことが重要です。中古マンションの価格は、敷地利用権価格と区分所有建物価格で構成されており、土地価格に加え、建物部分がRCやSRCの場合、建物部分の価格構成比が大きくなる場合もあります。他の中古マンション取引事例から対象となっている物件の価格を求めるには、検討対象となっている物件と条件が類似の建物の売出・成約価格などのデータから数値を把握できるようにすることです。

最近では、インターネットを利用したデータベースサービスが充実してきているので、それを利用するのもいいでしょう。業者向けのみならず、一般のユーザーも登録することで様々なデータを閲覧することができ、投資行動の一助とすることができるはずです(東京カンテイによる「マンション履歴情報サービス」など便利なものがあります)。

そうすることによって、例えば、購入を検討しているマンションの価格と賃貸に出した場合の相場賃料、あるいはオーナーチェンジで現行賃料が妥当かなどを当該マンションの販売履歴や賃料履歴を通して調べることもできるでしょう。数年間にわたる価格や賃料の時系列データを取得することでトレンドが一目で理解できるため、DCF(ディスカウントキャッシュフロー)法を利用して収益価格やIRR(内部収益率)を計算する際の賃料変動、出口での売却予測に有益なトラックレコードを得られます。一般に、区分所有マンション投資をする場合、今までは年々のリターンに値下がり分のキャピタルロスを考えてIRRを計算して投資決定するはずです。

後日改めて詳しく説明することを予定していますが、金利の動向と不動産投資とは切っても切れない関係であるので、最後に、区分所有マンション投資と金利上昇の点について一言しておきます。

用地取得費用や建築費用の高騰も手伝って、マンション価格の上昇期待熱は一時ほどではないにせよ、まだあります。この上昇期待熱に冷水を浴びせることになるのが、金利上昇によるマイナス作用だろうと思われます。金利上昇は、収益不動産の需要のみならず、購入者自らが居住する目的のいわゆる“実需”をも減少させる効果を持ちます。

そこで、金利上昇局面となると、これまでの区分所有中古マンション投資はどのような影響を受けることになるでしょうか。先だっての黒田東彦日本銀行総裁の記者会見でもはっきりしたように、当面は日銀の金融政策は継続される見通しなので、量的緩和解除と金融引き締めによる金利上昇が今すぐに起こる可能性は著しく小さいですが、今の段階からそうなった場合のことを考えておくに越したことはありません。

あくまで漠然とした予測でしかありませんが、投資期待利回りと金利差が縮小するため、現行でも投資利回りが低い新築の収益用ワンルームマンションは、金利上昇局面ではこれまでの収益モデルが崩れることになるかもしれません。新築に比べると利回りが高い同タイプの中古マンションも投資妙味は薄れるでしょう。収益が悪化するだけではなく、金利が上昇するとキャップレートも上昇するので、出口でのマンションの売却価格に対する下落圧力も強まるかもしれません。

例えば、200万円のNOI(営業純利益)を得られるマンションで、3年後に売却する計画だとします。現在のキャップレートが4%で、借入金利が2%としましょう。これがもし、借入金利が4%になり、リスクフリーの10年物国債の利回りも4%になれば、その時点の購入者が、不動産投資のリスクプレミアムを2%上乗せした6%でないと買えないと考え、キャップレートを2%上げることによって、3年後の売却価格は5000万円から3333万円に33%下がることになります。

金利が上昇していくと元利返済分の対収入比率が大きくなるため、ローン負担が過重となります。この場合は融資も下りず、購入を断念せざるを得ない人々も増えます。こういう人々は通常、購入予算のギリギリまでエリアや物件の広さなど条件を下げて妥協するか、購入する代わりに人気エリアでの賃貸物件を借りるという選択肢をとるでしょう。

この点は賃貸需要の増加に寄与する側面もあり、それによって家賃上昇を可能にすることになれば、金利上昇による利回り低下に歯止めをかけることもありえますが、住居系不動産の賃料上昇は労働者の雇用状況と所得に依存するので、結局は景気次第ということになりますので、この点も要注意。

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