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金融機関による土地の積算評価

(全裸不動産 全裸幡随院)
金融機関が不動産を評価する際に用いる方法は、金融機関ごとに微妙に異なります。主として積算評価を重視つつ、そこに収益還元の考え方を加味して算定する金融機関もあれば、その逆という金融機関もあります。


更に、積算評価を重視するといっても、金融機関独自の補正をかけて適正な評価を下そうとしますので、積算重視だからといって積算価格を出しておしまいというわけには行きません。


いずれにせよ、全ての金融機関で統一的に用いられている評価方法は存在しない。とはいえ、だからといって、てんでばらばらというわけでもなく、緩やかな枠組みはあると見ていいでしょう。今回は、金融機関の積算評価に伴う補正のかけ方について触れてみます。


積算評価の出し方については、その金融機関独自の評価フォームが用意されていることもあれば、一定程度、不動産鑑定士の鑑定評価を利用するすることもあります。あるいは、“TAS-MAP”といった不動産評価サービスである汎用評価ソフトを利用することもあります。


というように、金融機関ごとに何を重視し、何をその評価に際して利用しているかは異なりますが、様々な金融機関の話から総合して共通点を探るとすれば、土地に関しては相続税路線価を元にして、個別の土地条件ごとに幾つかの項目にわたって補正をかけていくという方式をとっているという点が、共通している点と言えるでしょう。


詳細については後に個別の規定ごとに触れるとして、今回は大雑把にどういう補正がかけられているのかを見て行きます。


路線価は、国税庁HPから全国市町村のものを閲覧できます。道路に接している標準的な区画の土地は“㎡あたりいくらの金額か”という表現で記されています。例えば、“150D”となっていれば、“㎡あたり150千円(150,000円)の評価で借地権割合は60%”ということになります(後ろのアルファベットは借地権割合を意味し、A…90%、B…80%、C…70%、D…60、E…50%、F…40%、G…30%のこと)。


ちなみに、路線価は公示価格の80%とされていますし、取得税や登録免許税、固定資産税の計算をする際に基準となる課税標準額は、公示価格の70%程度とされています。


さて、その補正項目についてですが、概ね以下のような項目は最低限チェックされ、該当チェック項目にしたがって補正がかけられることになります。


①     接道する間口の広さ⇒狭いと、評価は下がる。

②     道路自体の幅⇒建築基準法上の“道路”に該当するには最低4mの幅員が必要なので、幅員4m以上であるかは重要です。

③     道路が敷地のどちら側にあるか。⇒北側道路が標準と考えてください。

④     法地(土地のうちの斜面部分)やセットバック(道路幅が4m未満の場合、道路の中心から2mまでの部分を建築基準法上、「敷地」として計算できないので)などの面積と利用の可否

⑤     道路との高低差が大きすぎないか、あるいは道路より低い位置になっていないかどうか。

⑥     私道などで道路の持分を持っていないが、使用承諾を得て使っているのかどうか。⇒使用承諾がとれなければ、そもそも融資不可になります。

⑦     袋地になっていないかどうか。もし、袋地であれば、通路の長さや幅や有効面積はどのくらいなのか。⇒袋地になっているからといって、直ちに融資不可となるわけではないが、通路の長さや幅や有効面積いかんによっては融資不可。

⑧     騒音や臭気などを発生する施設が近隣にないかどうか。

⑨     他人の通行に関する地役権が設定されていないかどうか。

⑩     地形は、長方形になっているか、それとも正方形か、あるいは変形になっているか⇒高い評価が出がちなのは、1:2の長方形のパターン。逆に、変形地は評価が下がる傾向に。

⑪     路線価があるのか倍率地域なのか

などといった項目ごとにチェックを入れ、その結果、


●標準的な土地…路線価の1.2倍

●良い条件の土地…路線価の1.3倍

●悪い条件の土地…路線価の1.1倍

と補正をかける金融機関があります。


もっとも、これは、あくまでその金融機関の内部評価であって、一般には、市場で売買される場合には、これ以上の差が付くことが多いです。北側道路面の標準的な宅地が坪単価100万円の場合、東南角地が110万円のはずはなく、もっと高い値がつくでしょうし、逆に変形敷地で道路から下がっているような敷地であれば、90万円どころか、更に安値がつけられるでしょう。この他にも、立地条件や敷地形状やその規模が大小など要因によっても変わってきます。


よく言われるように、路線価と実勢価格のギャップは、都心部になるほど激しくなる傾向があります。逆に、地方の過疎地の土地だと、路線価をかなり下回る価格ではないと売れないところもあります。


要は、市場価値の高い物件は、その価値が直ちに金融機関の担保評価には反映されにくいために思ったほどの評価が出づらく、市場価値の低い物件ほどその価値の低さが金融機関の担保評価に反映されにくいので、意外に評価が出やすいといったギャップがあります。


もちろん、金融機関の側も路線価と実勢価格のギャップが発生することは認識しており、だからこそ、そこに補正をかけるなどして若干の修正を施すわけですし、場合によっては収益還元の考えを反映させた評価を加味することもあります。


但し、金融機関の見方は、その不動産から収益を得る投資が最終的に成功するか否かということに眼目を置くのではなく、利息による収益を確保しつつ、万一の場合でも融資した金額が最終的に回収可能であるのかどうかに着目します。事実、金融機関は融資の際、

(1)      万一、融資が焦げついた時に、回収可能かどうかを見るためのLTV(借入比率)の規定

(2)      焦げつかないような財務状況にしておくための返済比率の基準

を設けています。


金融機関の評価が出たからといって、その投資にお墨付きが与えられたと考えるのは早計だという当然のことを踏まえながら、慎重に判断する眼力が投資家一人一人にも求められます。

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