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「火の鳥エデンの花」感想、果たしてこれは「望郷編」と言えるのか?

観てきましたよ!11月3日公開の劇場版「火の鳥エデンの花」

すでに9月13日に先行でディズニープラスにて配信され賛否両論の話題となっておりました待望の「火の鳥望郷編」のリメイク作。
「火の鳥ファン」にとっても「手塚ファン」にとっても巷をザワつかせている一作。今回は思いのたけを語り散らかそうかと思っております。

その前に、
今回の感想はあくまでもボク個人の感想であり製作者や特定の組織を肯定、否定するものではありません。完全個人主観のコメントとなります。
そして、なるべくネタバレなしでいきますが所々にやっぱりポロリと出ちゃう可能性も大いにあるのでまだ見ていない方はここで引き返してください。
問題ないよという方のみここからお進みください。


さてさて…まず、何から行きましょうか。
話したいことが山ほどありすぎて困っちゃうんですが
まずは冒頭一発目としては、
「窪塚やべーぞ」はやっぱり言っておかないといけないでしょ。

あれはかなりの伝説級をぶちかましたんじゃないですか。
映画史に名を刻むレベルの吹き替えだったと思います。
あまりの出来の悪さにマジでストーリー頭に入ってこなかったので
ジョージが早々にフェードアウトしたのは良かったんじゃないでしょうか

…はい、というわけでジャブはこれくらいにして本編いきましょう。

本編を語る前に色んな人の感想をネットで見させてもらいました。
予想通リ面白いほどに賛否両論真っ二つに分かれていましたね。

…傾向として原作「読んだ派」の方々には不満多し。
原作をあまり「知らない人」には面白いと言った傾向が見て取れました。

これはやっぱり
原作派の人はご存じ「あそこのアレどうすんの?」という問題でしょうね。
「望郷編」の破壊力は火の鳥シリーズの中でもトップ3に入るくらい倫理的に付け抜けた描写ですから
原作派の焦点がそこに集中するのはしょうがないです。

そして大方の予想通り「そこカットする?」「それが大事なんじゃない!」という声が大多数を占めており
ほぼほぼ大半の批判がこの部分に充てられていました。

あとは「望郷編」を90分で収めるなんてかなり無茶ぶりなんじゃね?
ってところですが、これもやっぱりキレイにまとまっていたとはいえ原作派の人には納得いかない内容になっていたと思います。

ボクの映画の感想、結論も
最初に申し上げておきますと、、、

微妙でした。

本当に「微妙」の一言がしっくり来てしまう作品でありました。

本作を語るにあたって
原作をいじくり倒すという事についてはボクは全く問題ありません。
むしろアレンジ肯定派であります。
監督、製作者それぞれの想いもあるでしょうしクリエイターとして独自性を出したいという気持ちもめちゃくちゃ分かるので
原作と異なるアレンジになることについてはかなり許容できる方です。

ただし、原作の名前を拝借する以上、なぜその冠を使ったのかについては
きっちり作品の中で示してもらわないと思っています。
これは「火の鳥」や手塚作品に限らず、すべての作品についてそう思います。最近だと「ゴジラ」とか「仮面ライダー」のようにストーリーや描き方に監督の独自性を出すのは全然OKですし、むしろ○○版ゴジラのように個性を出した方が好きな場合もあるくらいです。

だから「火の鳥」もどんなアレンジであれ
「火の鳥」してれば全く問題ありません。

…なのでこの作品が「火の鳥」してるかってことが
最大の焦点になってきます。

…「火の鳥」してるか?を論じる前に
映画をすべて見終わった後の消化不良感がハンパなくて
一体どんな人が監督でプロデューサーなんだ?
と気になって調べました。
そしたら
プロデューサーの田中栄子さんとは、なんとSTUDIO4℃の代表取締役社長だったんですね。
「はは~ん。なるほどね」と思いました。

STUDIO4℃の代表取締役社長 田中栄子さん

田中さんとは過去にスタジオジブリに所属しており「となりのトトロ」や「魔女の宅急便」の制作責任者を務めた経歴があるかなりの実力者だったそうで、その後、独立してSTUDIO4℃を設立、その時からご自身で「火の鳥」の製作をしたかったそうで、この時よりすでに積年の思い入れのある作品であったことが分かります。
製作期間に7年も費やしたのも頷けますね。

どうりで内容がゴチャ、ゴチャしてんなって思ったんですよ。
とにかくあのボリューム感はガチの「火の鳥好き」が作成したニオイがぷんぷん漂っていました。
好きすぎるが故に情報がパンパンに詰めこまれていて
場面が次々と移り変わるのでリラックスして見れない(笑)

正直、ファミリーでゆっくり観るようなエンタメにはなっていません。
とても「となりのトトロ」の制作責任者が手がけた作品とは思えない出来でした。

…ということはそもそもファミリーで観る映画じゃないんですから
冒頭の子孫繁栄の禁断の荒業もR指定にでもしてやれば良かったんじゃないのかなと思います。

ここは明らかにジブリの経験が邪魔をしてしまったかなと…。
ソフトに見せようとした結果、フニャチンになっちゃったみたいな。
そりゃあジブリが「火の鳥」を作成したら毒抜かれますわな。

でもリスペクトはめちゃくちゃ感じましたよ。
この人、ガチで火の鳥好きなんだろうなと。

実際インタビューを見ると
「『火の鳥』については描きたいことが、まだまだある。
『火の鳥』は、私の永遠の課題になるのかもしれない」

と話しておられこれでもまだまだ足りないって言ってました。

あのボリュームで足りないってどゆこと(笑)
これは完全に好きすぎるが故の弊害ですね。

アレもコレも、それも入れたいって分かるけれども入れすぎてぐちゃぐちゃになっていたしカットするところは望郷編のキモの部分カットしちゃったし
非常にバランスの悪い作品になってしまったという印象です。
元々、原作が長編ですからもっと大胆にソリッドに削ぎ落してバランス取ったほうが良かったんじゃないかと思います。

ファンもきっと「どうなるんだ?」ってその辺りが気になっていたところでこのカットする所と、してはいけない所がやはり焦点になるわけです。

さて、長くなりましたが
この作品が「火の鳥」なのかと、、、
「火の鳥望郷編」を名乗っているが果たしてどうなの?
…って件についてですが、、、

作品としては火の鳥感、手塚治虫感はわずかながら感じますが
尺の関係や倫理的な関係があるとはいえ「火の鳥」のテーマ
「望郷編」のテーマをカットしてしまったのはいただけません。

ここ一応申し上げておきますけど
「負の部分が少ないのが良かった」「重くない」「ライト」「フレンチ」という声もあるので今回のバージョンが良くない、毒抜きのすべてが悪いと言ってるわけではありません。

実際に「火の鳥」は読者を置き去りにしたり、読者を奈落の底に突き落とすほど深く心の傷を与える可能性を持ち合わせているマンガです。

それは認めます。
だからそれを嫌う読者もいるでしょう。

だからといって、そっちにベクトルを合わす必要ってあるんですかね?

合わせるなら「火の鳥」である必要はないし
それが描けないなら手塚作品でもないし、
わざわざ「火の鳥」謳う意味が分かりません。


そもそも本家、手塚治虫の無常観、絶望ってもう容赦ないですからね。
もうありえないくらいめちゃくちゃにします(笑)
あっけなく死ぬし、不条理だし、作者はド変態だし
人の力では到底抗えない絶望を叩きこまれます。
でもその絶望感があるから物語に深み、厚みが出るんです。
それこそが手塚作品の真骨頂なんです。

つまり絶望感の薄い手塚作品、火の鳥ってあり得ないんです。

手塚先生はその絶望感を演出するひとつの手法として
対比表現を多用するんですが
もちろん「火の鳥」も例に漏れずゴリゴリの対比表現を使っております。

破壊と再生、創造と破滅、繁栄と滅亡、生と死のように
対比することで作品のテーマをより浮き彫りにする手法です。
単に生きる素晴らしさを伝えるのではなく理不尽なまでの死を描くことで
生きている喜び「生きることへの執着」を表現しています。

だから絶望的な表現をソフトにするとか優しくする表現って
味噌ラーメンの味噌抜き頼んでいるようなもんで、
そりゃあ厨房も「え?マジで」って言っちゃいますよ。

「それ抜くんすか?」みたいな。
それ抜いてラーメンって言えますか?ってな感じです。

ズダーバンによるエデンの崩壊も
栄華を極めた後に、道徳的・人種的に堕落していく様が必要で
ただ単に、欲望を与えたから滅亡しましたよって表現されても絶望感が薄いんですよね。

ただの街の破壊ならゴジラと一緒です。
秩序のある世界が一気に国家破滅へと向かうのが怖いのであって
無情にも衰えて廃れていく、くずれ去っていくという儚さがない破壊は
全く感情に響きません。
だから絶望を描くにもその対比が必要なのです。
絶望と葛藤ですよ。

それこそが火の鳥の醍醐味ですから
その絶望を描けていないのであればそれは「火の鳥」と言えないんですよね

あの毒抜きされたと言われている近親相姦と食人の件も
倫理的な問題で描けないって言いますけど
もちろんその側面はあると思います。
見せないようにする文化も大事だと思います。
だからといって生物として子孫を繁栄させるテーマを描けないのは残念。

この地球上35億年にも渡って様々な生命がその摂理を、
その本能を全うしてきたにも関わらず
そのドラマを描けないってどうなんでしょう。
子孫を残す宿命、生物の根源的本能に蓋をするって過保護過ぎません?

その行為が人道的にあり得ない行為だということは読者なら全員分かってます。小学生の頃、性行為が何なのか分かんない時期に読んでも
これはヤバイやつていうのは分かりました。

原作でも、ロミは「人として恥じる選択」と言っているように
あくまで極限状態で命を繋ぎ続ける手段として非人道的な選択をしたわけで
イタズラに興味本位でそういう描写をしているわけでないことは誰にでも分かります。

まさに絶望的な状況にあって、
それでも強く生きていこうとする人間のたくましさを通して
「人はなぜ生まれ、なぜ死ぬのか」を問うているわけですよ。

だから1300年眠っただけのコールドスリープ設定にはこの問いに辿り着けないんですよ。
上手くまとまってはいたと思いますが
そこは別の視点でもいいので描いて欲しかったと思います。

あとカットされていた雌雄単体種族のノルヴァ
このノルヴァのセリフもカットされたのは痛い

「あなたは子供も産まずに死ぬ気なんですか?なんのために生きているんですか?」

これですよ。
これぞまさに望郷編のテーマです。
雌雄同体のノルヴァの登場自体がこの摂理を際立たせるために手塚先生は描いているわけでここもサラリとカットされていたのは痛恨の極みでしたね。

「なぜ全ての生き物には子孫繁栄させるという本能」を宿しているのか

どんな生物も教わったわけでもないのに
子孫を残そうとする「種の存続」という根本的な本能を持っているのかというここを描けなければ「望郷編」である必要性はないんですよね。

そして後半のテーマでもある「望郷」
ここも非常にあいまいな感じがしました。
これはロミが生まれ故郷の「地球」と、第二の故郷「エデン」に望郷の念を抱く設定なんですが
1300年眠っているうちに勝手に発展していた都市に望郷の念って沸きます?

原作では何度も、何度も、近親相姦を重ねてやっと新しい都市を創り上げていったからこそ望郷の念が募るんですが1300年寝てたら都市ができちゃった街に愛着持てますかね(笑)

ここら辺の設定の甘さもちょっと頂けないですよね。

そもそも「望郷編」というだけあってこの望郷という感情はとても大切で
人類の繁栄に大切だったもの…、それは
子孫を残す本能と、望郷という故郷を想う本能として本作では位置付けています。

ラストの牧村のセリフ

「夕日なんて子供のころに見たおぼえはないはずなのに 
たまらなくなつかしいのはなぜだろう? 
おれの遠い遠い祖先が夕日を毎日ながめてくらした記憶がおれの心につたわっているのかなあ……」

これこそ、誰が教えたわけでもない帰属本能ともいうべき望郷の念。
生物の繁殖に必要な原始的であり根源的な本能なのではないでしょうか。
これも丸ごとカットされていたんですよね。

ここは個人的にめちゃくちゃ大事で望郷編を象徴するセリフだとも思っています。

どんなちっぽけな生物も生き抜いて子孫を残すことを最重要課題として捉えていること
あらゆる生物が生まれながらにしてもっていながら
いまだに良く解明されていない帰巣本能、

この2つの本能こそ「望郷編」最大のテーマであり、
「なぜ生きるのか」を問うメッセージになっているのだと思います。

よってこれらのテーマをぶった切るようなカットは「望郷編」とは言えないし「火の鳥」である必要はないというこというのがボクの結論になります。


ここまでボクの一方的な思いを述べてきましたが是非下記の動画をご覧頂きたいと思います。

田中プロデューサーと宇宙飛行士の野口聡一さん

田中プロデューサーと宇宙飛行士の野口聡一さんとの対談動画であります。

野口さんが宇宙飛行士の立場からこの映画の事と、原作「火の鳥」の事をプロデューサーの田中さんと語っているのですが驚いたのは野口さんが火の鳥について結構詳しいってことです。
映画プロモーションのための社交辞令ではなくガチで読んでるガチ派でした。そしてこの映画の感想についても「原作を置いといて」と前置きした上で「美しくまとまっている、ロマンチック」と表現しており
素晴らしく収まりのいい感想でさすがだなぁと思いました。

対談の中では、田中さん自身が原作の2大タブーについても触れているのが興味深くて「どう表現するか」についてはやはり非常に頭を悩ませたと語っておられます。
「望郷編」がなぜ誰も手を出せなかったことや「望郷編」を映画化する意義についても言及しており、この動画を見てるとこの映画の着地点はこれで良かったのかも…なんて思ったりもしました。

でも
やはりボクも一手塚ファンとして正直な感想を配信するならば
今回のこういう感想になってしまうんですよね。

ただこういう制作の情熱や経緯、思いを知れたのはとても良かったですし
何よりやっぱり皆さん思いが熱いんです。
ボクもそうですしボクの記事を読んで下さっている人も熱い。
手塚ファンって基本ウザいんですよ(笑)

動画後半の感想戦なんか2人共マジで火の鳥好きなんだなと思うくらい語ってます。
本気の宇宙論とか手塚先生が示した近未来のこととかガンダムも出てきたりして非常に面白い対談になっておりますので是非見て欲しいです。


ちょっと色々とディスったところもあったかと思いますが
まずは純粋に製作者に感謝です。
内容はともかくこうして手塚作品を取り上げて頂いたこと。
それにより話題になり注目されたことが何より嬉しいことです。
我々ファンからするともう何十年前の作品でキッカケすらない状態なので
こうして、ああだこうだ言えるだけでもう感謝であります。
本当に感謝しております。
また続編でも結構ですし話題を提供していただければ
しっかり応援させていただきますのでよろしくお願いいたします。

そしてまだ原作を読んでおられない方。
ぜひともトラウマ必至の原作の凄まじさを体験して欲しいと思います。
今回また改めて原作読み返しましたが
昭和の倫理観がそうさせていたのかも知れませんけど
これを小学生で読んでいたのかと思うと膝が震えましたね。

今もなおやっぱり面白い。すでに読んだことのある方も
今一度読み返してみてください。
そして読む場合は必ずアサヒソノラマ版おすすめします。


『角川版』文庫版は手軽に読める利点もありますが
通常の単行本版と比べ100ページ近く削除されているので、
もはや望郷編ではありません。
しっかりと望郷編の世界を堪能するにはアサヒソノラマ版を以上のものを推奨です。
詳しくは解説記事ありますのでご覧になって観てください。

最後に今なら『火の鳥 エデンの花』劇場版を見に行きますと数量限定のビックリマン風シールが入場者特典として配布されております。
これは実際に「ビックリマン」のキャラクターデザイン等を長年手掛けてきた方による特別デザインですのでぜひゲットしてみてはいかがでしょうか。

さぁ
次は庵野監督に「シン火の鳥」をぜひ撮って頂きたいと思います。

では!


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