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【火の鳥望郷編】読者の想像力を破壊する超絶な刺激作!人間の業欲を問う手塚治虫屈指の名作!「生きる目的とはなんだ!」

今回は「火の鳥望郷編」後半をお届けします。

火の鳥の中でも屈指のヤバい作品
読者の想像力を破壊する超絶な刺激作の後編
息もつかせぬ展開で最後には深い感動を呼ぶ傑作です
どうぞ最後までご覧になってください。


前回はこちら


まずは前編をご覧頂けますとより本編をお楽しみいただけますので
まだご覧になっておられない方はぜひご覧ください

それでは後半戦どうぞ。

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前回は「生命の誕生」「天地創造」についてお話しました。
今回は「種の繁栄」「文明の滅亡」についてのお話です。

簡単に望郷編のあらすじをなぞっておきますと
とある惑星で冷凍睡眠で若さを保ちながら自分の子供と近親相姦で
子孫を残そうとする女性ロミ
やがて故郷地球への望郷の念が募り地球へ戻るのだが…
その先には如何に…

というのが大枠の流れになっております。

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ストーリーを追いながらお話できればいいんんですけど
そうするとめちゃくちゃ長くなるので今回はボクが選ぶ名シーンをご紹介してそれについてお話していこうと思います。


まずはこちら
異星人との常識の違い

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ムーピーであるコムの登場シーン
人間のロミと会うために身支度しているシーンなのですが
彼らは(というか彼かも不明ですが)目が見えません。
というより視覚情報で物事を捉えない種族
テレパシーみたいなもので、
意識でコンタクトを取るので目なんてものは不便だと言います。
だから耳の存在も分かりません。必要ないんです。


宇宙という様々な生物や種族が存在する世界では
自分たちの当たり前が全く通じません。
こういう異星人の立場から見る地球人、
いわゆる人間の姿が珍しいものとして描かれています。
自分たちの常識は立場が変われば非常識になると言わんばかりの名シーン
こういうふとしたことに気づかされるのも火の鳥のならではの特徴ですね。


つづいてこちら
これも先ほどに似ているんですが
自分たちの常識を超えた名シーン

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このノルヴァというキャラ
生まれたときから体が2つあってそれが当たり前なんです。
この種族は雌雄単体種族
生存競争の厳しい世界では男と女が出会うことすら難しい
だから生まれつきくっつきあって生まれてくるというわけ。

どうなってんの?
って思いますけど
向こうにしてみたら「お前らこそそんなんで大丈夫?」ってな感じです。

そして死ぬことを考えるムーピーに対し
「あなたは子供も産まずに死ぬ気なんですか?
なんのために生きているんですか?」
と問うノルヴァ

「正気なのかお前ら!」

生きる目的が「子供を産むため」なので
それを果たすまではなんとしても生き延びる執念を持つ種族なのです。

これは目的こそ違えど「生きる目的とはなんだ」と問う
手塚先生の強烈なメッセージになっています。
先生自身が過酷な戦争を体験して死の直前から助かった経験をして
「生きる」という事がいかに素晴らしいことであり
「生かされていることで何を為すか」ということを深く考えさせられたと言っています。

何度も戦争で死にそうになり、そしてその戦果から生き延び
「あぁボクは生きているのだ」という人生観をも変えてしまった少年時代の体験が手塚先生の作品には色濃く影響されています。

手塚作品の根底にはこの「生きる」ことへの強い思いが込められており
特に火の鳥には全編を通して必ずこのような「生きるとは?」
と問いかけてくるメッセージが入っています。
火の鳥こそ手塚治虫の人生観の象徴、まさにライフワーク的な作品であったか分かるかと思います。


続いては
地球の素晴らしさを物語るシーン

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望郷編だけにこの表現は随所に出てきます。
そして地球の素晴らしさを比較するために
とんでもない惑星が次々と飛び出してきます。

鉱物が進化して意志を持って主権を握っている星であったり
感電させてしまう星であったり
食人星、生物を捕食する生きている星であったり
とにかく常識を遥かに超えた世界観が次々と飛び出してきます。

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地球は住める場所じゃないと飛び出したものの
やはり故郷地球に思いを馳せるわけです。

「失くしたものへの憧れ」

他の凄まじい環境の星を見ることで
今いる世界がまるで天国に感じてしまう。

手塚先生は生前より常々「美しい地球を守ろう」と声を挙げていました。

このままでは「地球もいづれはこうなってしまうぞ」ということを
色んな作品を通して描いています。
手塚先生の描く世界観は数百年、数千年の後の未来なので凡人には想像だにできませんが、これは普段の常識がいかに特殊であるのかという
火の鳥通じて発せられるテーマの一つであると言えます。

このシーンなんてめちゃくちゃいいです。

自然の姿を見て「夢よりキレイ」なんてセリフ
…詩人ですよ手塚先生は

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このセリフなんて秀逸です。

「夕日なんて子供のころに見たおぼえはないはずなのに 
たまらなくなつかしいのはなぜだろう? 
おれの遠い遠い祖先が夕日を毎日ながめてくらした記憶が
おれの心につたわっているのかなあ……」

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最高ですよ。ほんと。

その他、今ある地球環境について考えさせられるシーンがいくつも折り込まれておりますのでぜひとも実際に読んで感じてみて欲しいと思います。


さぁ続いての名シーンはこちら
出ましたズダーバンの名セリフ

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街には人が溢れ活気も満ちて楽しそうに暮らすエデンの姿をみて
ズダーバンはこう言います

「この町は清潔で素朴すぎますて…悪のにおいがちっとも感じられんわい」
「文明国としてごく必要なのは悪徳というやつです」

たとえば黄金、それから酒、さらに麻薬そして兵器や武器をうんとこさ、
それから…バクチの道具」
「こんなものが揃ってこそはじめて文明国として栄えるのですぞ」

というわけですよ。
ボクねこのセリフ初めて見たときゾっとしましたよ。。
手塚治虫って怖ぇ~って。

マンガ上ではそれまで人々が真面目に暮らして平和であったエデン
秩序のある世界だったものが
たったこれらの快楽を与えたがために住民は酒に溺れ互いに殺し合い
一気に国家破滅へと向かいます。

欲望、憎悪、快楽が如何に怖いものであるかを赤裸々に描き切っています。
これらは歴史を見ると確かに文明を活気づけてきたものではありますが
反対に滅ぼしてきたものでもあります。

要は使い方次第「繁栄と破滅は表裏一体」であると
コントロールできない衝動はたちまちダークサイドに堕ちていくというね
ここら辺も火の鳥の一貫したテーマとして描かれていきますが
この望郷編のこのシーンは火の鳥全編の中でも
なかなかに際どい人間心理をついた屈指の名シーンでしょう。


さぁこれらざっと見て参りましたが望郷編をまとめますと
「種の存続」「既成の価値観で考えない」
「今ある幸せ」「欲望に溺れない」

…と、どれだけの要素が盛り込まれているの?って感じで
ほんと盛りだくさんの内容になっています。

とにかく壮大すぎるこの物語を
400ページやそこらで完結させてしまうあたりがもう変態です
これはまさしく手塚治虫にしかできない芸当でしょうね。


そして望郷編では
未来編のロビタ「チヒロ61298号」して登場しますし
宇宙編の牧村も出てきます。
ムーピーの正体も明らかになります。

色んな火の鳥の分岐点、伏線の回収ポイントになっているのも見どころになっています。


火の鳥通してのテーマ「輪廻」「愛」そして「人間の業」
これらも見事に描き切っています。

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そして
人間というものを火の鳥を通してミクロとマクロの視点から改めて
見つめてみると面白いのでぜひこの望郷編読んでみてください。

めちゃくちゃ面白いんでね超絶オススメです!
まだまだ語りたいポイントもあるんですけど
今回はこの辺にしておきます。


最後に(まだ続くんかい!)
この望郷編のいきさつをちょっとだけご説明しておきます。
1971年に最初の望郷編が雑誌COMに連載されました。
このときは前回の羽衣編とは連結した話になっていたのですが
いろんなゴタゴタがありまして連載が中断されます。
手塚先生もいづれ復刊させると名言していましたから
読者も首を長くして待っていました。
そして約1年半後の1973年についに火の鳥の連載が始まります。

しかし驚くべきことに始まったのは望郷編の続きではなく
なんと次回の「乱世編」だったんですね。
この時、手塚先生は
「望郷編を始めるにはあまりにも長く間が空いてしまったので
思い切って一つ飛ばして「乱世編」を描きました」
とあります。

なんで一つ飛ばすん?

このあたりはもう超絶にぶっ飛んでます(笑)

しかしこの乱世編も続くことはありませんでした。
というのもこの時虫プロ商事が倒産したからです。

こうして手塚先生のマンガ文化の発展を理想として手掲げた
雑誌COMが世間の評判も芳しくなく終わりを迎えます。
且つ自身のライフワークでもある火の鳥を描く場を失った憤りは相当なものであったと思います。

このあたりの作品は手塚先生の心情そして精神状態が鬱になっていたものが反映された作品が多いのも事実です。
しかしながらどのような苦境に置かれても決して屈せず
ただひたすらに漫画を描き続け
数年後には掲載誌を「マンガ少年」に変え見事に復活します。
その時の第一弾が今回の「望郷編」になのであります。


当時の手塚先生の様々な思いが込められた文字通り復活の火の鳥
今回ご紹介した内容も参考にしていただき
あらためてこの「望郷編」読んでみて欲しいと思います。

火の鳥 6・望郷編 (単行本版)

火の鳥14 別巻(幻の火の鳥望郷編COM版掲載)


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