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手塚治虫がストーカー級に惚れ込んだ名作!「ファウスト」の悪魔的魅力を解説!

今回は世界的名作を漫画化したゲーテの「ファウスト」をお届けいたします


実は手塚先生はオリジナルだけではなく原作付きのマンガをいくつか描いておりますが、その中でも憑りつかれたように生涯で三度も漫画化したゲーテの「ファウスト」があります。まさに人生のライフワークとも言える本作に魅せられた魅力とは一体なんだったのか?

今回はその深層を掘り下げてみますのでぜひ最後までお付き合いください

それでは本編行ってみましょう。

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本作は1950年に不二書房より発刊されたいわゆる赤本と呼ばれていた単行本であります。

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手塚先生は若い頃にお父さんの本棚に並んでいる
「世界文学全集」という海外文学に没頭していた時期があったそうで
戦時中の娯楽のない間はこれらの本を引っ張り出してきてむさぼるように読み散らかしていたそうです。

そこに収録されていたのが今回ご紹介するゲーテの「ファウスト」や
ドストエフスキーの「罪と罰」といった名作だったんですね。

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特にこの「ファウスト」には悪魔的な魅力があったと語り
自身の漫画家生活の中で3度も漫画化しているというまさにストーカー的に惚れこんだ作品です。

最初が今回ご紹介する1950年作、原作そのままの「ファウスト」
21年後の1971年に「百物語」というタイトルで時代劇風にアレンジした「ファウスト」を描き
晩年の1988年に「ネオ・ファウスト」というタイトルで現代版「ファウスト」を執筆します。

しかし連載中に病に倒れ、お亡くなりになったことでこちらは未完の絶筆になってしまいました。
実に3度漫画化しておりますが今回は初っ端のファウストのみのご紹介で
改めて別の機会に他の二作品のご紹介したいと思っております。

そもそも手塚治虫をここまで魅了したゲーテの「ファウスト」とは
一体何者なのか?どんな作品なのか?

はっきり言って… 説明できません


そんな一言で語れる代物なら
手塚先生だって三度も描いていないと思います。

ボクも実際全編通して読んだわけではないのであまり詳しくはないのですが
そもそもが膨大な超大作であります。これは後で知った事なのですけど
実はファウストって15世紀末から16世紀までドイツに存在した歴史上の人物で本当にいたってことが断定されているらしいんです。
どうやら悪魔と手を結んで魔法を使えたらしき伝説があって、それが本になってヨーロッパ中で有名になったと。

ファンタジー色が強いのでどこまでが嘘か本当か分からないんですけど
悪魔と契約したというファウスト伝説が語り継がれているというわけです。

…でこの世界の名作文学と呼ばれる「ファウスト」をですね
なぜ手塚先生はマンガ化しようと思ったか、でありますが
そもそもがそう安々とマンガ化できる代物ではないんです。


…というのもまず1950年当時、マンガにそこまでの文化や土壌がなかったし
名作文学を読む環境も整っていなかったし、
読んで理解できる人も少なかった
それを子供にも分かるように楽しい娯楽に変換するなんて無謀そのもの。
というかクレイジーなことですよ(笑)


つまりはこんなもの漫画化するって非常に手ごわい代物だし、
あり得ない事だったんです。
これは若い時から慣れ親しんだ環境と
医学生でありインテリだった手塚先生だったからできた
極めてレベルの高いことだったんです。純粋に持ち得てるポテンシャルが
ケタ外れだって事をこの時点ですでに証明されていますよね

この難解な文学小説を子供向けの作品に仕上げるため、
かなりシンプルな物語にかみ砕いて二次元で表現する。
これを若干21歳の青年が書き上げるんです。
ちょっとにわかには信じられないですよね

見てもらえれば分かりますが、
なんと躍動感に溢れた瑞々しいタッチなんでしょうか。

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後に「アニメ化したかったからいかにもディズニーっぽい」と自身で語っているようにディズニーの影響を感じますがそれにも増して
軽快で鮮やかな生命感漲るツヤツヤなペンタッチ、、

しかもあとがきによると

「ぼくはソ連製のアニメ「せむしの仔馬」を観てしまったのです。
そしてこれにもとり憑かれ、なんと百回近くもくり返し観てしまったのです。」(手塚治虫漫画全集『ファウスト』あとがき より)

とあります。
ディズニーのバンビを100回以上見た話は有名ですが、
この「せむしの仔馬」も100回くらい観てるのはあまり知られていないと思います。

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もう手塚先生この作品が大好きで
本当に狂ったようにこの作品の影響が出てきます。

参考までに本作の脇役の火の鳥があの名作火の鳥のルーツになっていますし
晩年のアニメ「青いブリンク」もこの作品をアレンジしたものであります。

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この「ファウスト」においては原作ではちょっと出てくるだけの黒犬
本編において終始黒犬という設定もこの「せむしの仔馬」の設定をそのまま持ってきていますし
空を飛ぶところなんかも仔馬にまたがって空を飛ぶの再現そのままですね
空を飛ぶシーンが多いというのも人間が生身では叶えられない夢のひとつとして手塚先生が終始持っていた欲望の表れです。

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とにかく
「当時のボクに強烈なパンチを喰らわせるくらいの影響を与えた」
語るほどの作品でもありまして
この多感な時期にはあらゆるものに影響を受け
手塚治虫の基礎となり得る土台が形成していっているのが分かります。


「火の鳥」「ブッダ」などで日本的な哲学を描いたとするなら
この「ファウスト」は手塚治虫が持つ西洋哲学や文化の表れでもあります。
東洋文化も西洋文化も
積極的に取り入れていた無尽蔵の吸収力がマジで凄まじいですね。
やはり生涯15万枚描いたと言われるバイタリティは
強烈なインプットがないと実現できませんからね。
このファウスト一冊から手塚治虫という作家の底知れぬポテンシャルが垣間見ることができるかと思います。


ちなみに手塚先生は東京の北区にあるゲーテ記念館から後日手紙をもらい
この漫画化された「ファウスト」を資料のひとつとして作品を陳列したいと連絡があったそうです。

ショーケースの中には手塚作品のファウストが飾ってあるんですって。
現在は陳列されているのか分かりかねますが本家からお墨付きを得た名作のマンガ化、機会がありましたらぜひお手に取ってみてはいかがでしょうか。


というわけで今回は世界名作「ファウスト」お届けいたしました。


(上記)講談社の手塚治虫漫画全集の「ファウスト」に同時収録されている「赤い雪」という短編ですがこのマンガのペンタッチも凄いですよ。
ずっと眺めて居られるくらい美しい。
当時日本にこんな世界観描けた人いるのかってくらいファンタジックで鮮やかです。ちょっと信じられないくらいクオリティ高いので一度見てみてください。

手塚治虫のデザインセンスに度肝抜かれると思います。

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