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【映画所感】 ミセス・ハリス、パリへ行く ※ネタバレ注意

おとなのおとぎ話、やさしくてエレガントな寓話

昨年の公開当初から、映画好きのあいだで高評価を獲得していた本作。 2023年に入り、ようやく鑑賞できた。しかも、行きつけの映画館での上映最終日に。

はっきり言って、うわさ以上。

劇場公開に間に合って本当に良かった。

昨年のうちに観ていたら、確実に自身の「2022年トップ10」の上位に食い込んでいたはず。

とにかく、主演のレスリー・マンヴィルがチャーミングでたまらない。

2021年公開の『すべてが変わった日』では、好々爺のケビン・コスナーを恐怖に陥れる、最凶の毒婦を演じていたレスリー・マンヴィル。

同一人物だと、俄には信じがたい。

本作『ミセス・ハリス、パリへ行く』では、“コミュニケーション能力絶大”な老婦人を熱演。冒頭から良い人オーラ全開で、周囲の人々を巻き込み、次々と幸せにしていく。

舞台は1950年代のロンドン。家政婦として生計を立てるエイダ・ハリス(レスリー・マンヴィル)は、戦争未亡人でひとり暮らし。

夫の戦死を知り、絶望に打ちひしがれていたとき、エイダは仕事先の富豪宅で、クリスチャン・ディオールのドレスと運命の出会いを果たす。

この瞬間から、エイダの人生の目標は、「パリに行って、クリスチャン・ディオールのオートクチュール(一点物の最高級仕立て服)を買うこと」に定められた。

ドレス購入資金と旅費の工面から、ひと波乱、ふた波乱。やっとの思いで、パリに到着。しかしそこは、建物や行き交う人はおしゃれでも、道端にはゴミが散乱する少々がっかりな街並み。

このストライキによるゴミ問題。終盤に溜飲を下げる展開が用意され、見事に回収されていく…ゴミだけに…。

爽快なシナリオに小躍りしてしまう。

ディオール本店に潜入? してからエイダが引き起こす騒動の数々が実に小気味良い。

経理担当のアンドレと専属モデルのナターシャの恋を後押ししたり、エイダ自身にも気になる紳士が現れたりと、パリでの生活はなにかと慌ただしくて忙しい。

ドレス購入どころか、ついにはディオールの働き方改革までやってのけ、ビジネスのスタイルをも変えてしまうエイダ。

可憐で優雅だ。

しかし、良いことばかりはつづかない。ロンドンに持ち帰ったドレスを、溢れんばかりの親切心で、他人に貸してしまったところ…。

もしも自分に置き換えるなら、オーダーメイドのエレキギターを友人に貸したら、後日ネックが折れた状態で返されたようなものだ(実際、ギターを借りパクされた経験あり)。

まさに発狂レベルの事態。

物語もゴール間近、どんな不幸が襲ってきても、エイダのバイタリティは意気軒昂のまま。パリで出会った人々が支えとなり、新たな幸運をもたらす。

もはや奇跡というより、魔法にかけられているようだ。

新年早々、映画から元気をたくさんもらった。

落ち込んだときに鑑賞したら、確実にドーパミンとアドレナリンを増産してくれるにちがいない。

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