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なぜ社会起業? ~Heimat賞受賞、シカ起業家に 聞いた"課題"の重要性~

ー自己紹介をお願いします。

渡辺くん:シカ起業家の渡辺洋平です。北海道出身で、現在は横浜国立大学の3年生です。野生の鹿のレザー製品を製造しオンラインショップで販売しています。

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ー"シカ起業"とは主にどのような事業なのでしょうか。

日本では野生の鹿がたくさんいてそれらは害獣扱いされており、ある程度捕獲する必要があります。
その中でもともと食用やレザー製品として利用されていた鹿をもっと利用していきたい、命を無駄にしたくない、という想いのもと事業をしています。
具体的には、レザー業者さんからレザーを買い取ってデザインし、大阪の老舗の工場にOEMで形にしてもらい、販売しています。

ー鹿が捕獲されなければいけない理由とは?

農林業の妨げになってしまう、つまり農林業の方の生活を壊してしまうこと、生態系の被害、そして鹿による交通事故などが理由として挙げられます。

ー“スタートアップ”、ではなく“社会起業”を選んだ理由は何ですか。

もともとはスタートアップでゴリゴリに稼いでいきたいという想いがありました。大学1年生の夏に3社ほどインターンシップをした後に、自分でやっていこうと思い、旅行代理店やピラティスのポータルサイトの形だけ作ってみたりしました。さらに飲食店向けに顔認識するAIカメラの顧客管理システムなんかも作ってみたりしかけたのですが、どれも途中で「なんのためにやっているんだろう」となってしまいました。
その業界は大手が入ってくるような業界でしたし、パッションがないと勝てないと感じてしまって…。

ーそこで自分の中の「Why」を見つめ直した結果、今の事業にたどり着いたのですね。

そうですね。社会のために何かすることで自分のモチベーションが続くのではないかと考えました。
最初は宇宙に行きたいとかもっと壮大なことを考えていました。でも自分の器はそこまで広くないなと思い(笑)
そして僕が貢献できるところってどこだろうと考えた時、地元の北海道が浮かびました。そして「北海道」という自分のアイデンティティの一部でもある場所の課題を解決したいと考えるようになりました。

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ー渡辺さんの考えた「課題」について教えてください。

鹿の利用率が10%にも満たないことを知って、まずそこでショックを受けました。
そこで殺された鹿の命を無駄にしたくないと思うようになりました。
スタートアップの課題というと「顧客課題」の場合が多いと思うのですが、僕の見つけた課題は社会全体の少し曖昧な課題かなと思っていて…。最初は両者とも「社会をよくする」という面でそんなに変わりがないと感じていましたが、深掘りしていくと少し違うことがわかりました。社会課題は、顧客は曖昧ですが、必要性や緊急性があると感じています。

ー社会起業、なおかつニッチな市場でマネタイズは大丈夫なのでしょうか。

「鹿」って市場ではなく、どちらかといえば供給の方だと思っていて、やりようによってはマネタイズができると考えています。例えば鹿肉、レザー製品などを市場にうまく乗せることができれば必然的にマネタイズが可能になります。ただ、そこで課題となるのが供給システムだと思っています。鹿はとてもたくさん捕獲されているにも関わらず、解体処理施設が追いついていないんです。そのため、解体処理施設に向けて何か施策を打つ必要があると考えており、現在は解体処理施設に向けたトレーサビリティのためのソフトウェアの開発/提供なども考えています。なので、ニッチな分野ではあるものの、市場ではなく供給というふうに考え、供給システムを普及/安定させることで、ある程度指数関数的な伸びが期待でき、市場の横展開も可能なのではないかと考えています。
先ほども少し触れましたが、社会起業はビジネスとして成り立たせるのは難しいかもしれないですが、どこかが求めているというのは事実だと思います。具体的には行政とか。地域によっては鹿による経済被害などもありますし、そういった被害があるということは需要もあるのだと感じます。

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ーつまり、鹿の供給システムや流通の部分に課題を見つけたということですか?

現時点ではそう思っています。最初は販売の部分に課題があると考えていました。しかしその課題を深ぼっていくと供給システムや流通の方に課題があるのではないかと考えるようになりました。そしてその根幹にある解体処理施設というのが約95%が赤字経営と言われているのを知って…
なのでその解体残滓の買い取り体制やトレーサビリティを高めていけるように施策を考えています。

ー「社会や北海道の課題」というところから「解体処理施設の課題」に行き着いたのですね。

はい。より具体的な課題に近づいていけている気がします。
この業界は課題がたくさんあるのでやっていて楽しいです。
「あ、ここにも課題がある!」みたいな。
ほとんどのことに当てはまると思うんですが、合理性を軸にして優先順位をつけていくことが大事だと感じています。

ー今後、ご自身の事業をどのようにしていきたいですか?

まず、僕の目標は鹿の利用率を100%に近づけることです。それを達成するために、解体処理施設の課題を解決したいと考えています。もっと解体処理施設を増やして、解体の分業化を進めたりすることで、安定した鹿の供給システムを確保したいです。そして、解体業の分業化や供給量の増加によって、解体業者の方にもちゃんとお金が入っていく循環を作りたいと考えています。
あとは「シカ起業家」としてより多くの人に知ってもらえるように頑張ります。

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ー起業家シェアハウスに入った動機はどのようなものだったのでしょうか。また、入ってみた印象はどうでしたか。

色んな人と話してみたいというのが動機でした。
入ってみて、やはり色んな人と色んな話ができるなと思ったのと、いつ起きても共有スペースなどで作業している人がいたりして、それをみると自分も感化されてとても刺激的だと感じています。
色んな人がいますが、みんな「起業」という共通言語的なものがあるので分かり合える部分も多く、話していてとても面白いです。
自分と近いけど、それよりも深い思考をしている人がたくさんいます。

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ー起業家シェアハウスでの1日の流れを教えてください。

9時ごろ起床して、12時または13時くらいから外に行ってミーティングをしたりイベントに出席したりしています。
基本的に午前中には仕事をいれません。
帰ってくるのが夕方、時々夜遅い時もあります。
そこからシェアハウスの人たちとと話したりアイデア出し合ったりして思考を広げたり深めたりしながら過ごしています。

ー起業家シェアハウスで得られたことはありますか?

起業家シェアハウスのプログラムの一環である、MVPを作るデザインスプリントはものすごく良かったです。そこで顧客や自分の考える課題にひたすら向き合ったことによって、「解体処理施設の課題」に振り切れたのだと思います。
あとは様々なメンターの方に相談しながら進めていけたことで、自分の事業の構想も一気に進んでいったと感じます。
事業以外で得られたことというか気づいた点であったのが、「自分は意外と周りの人とうまくやっていける」ということです。(笑)
まあ、起業家シェアハウスに住む人たちがみんないい人だからだと思いますが(笑)

ー先月Heimat賞を受賞された際、プレゼンについての評価が高かった印象ですが、その時気をつけたことなどありますか?

実は準備はそんなに時間をかけられなかったんです。カンファレンス前日に提出していた事業アイデアをカンファレンス当日の朝に新しいアイデアへと全て書き換えました。
というのも、カンファレンスの前々日に行ったヒアリングで解体処理施設の課題を改めて実感する機会があり、「絶対その課題だな」と考えたからです。
なので準備は時間がなかったものの、「シンプルに伝える」ということを徹底して、自分が最後まで向き合った課題とその解決手段をプレゼンしました。
僕は「顧客」を決めきれていないと感じでいて、レザー製品販売はある程度うまくいっていたものの、誰が顧客なのかという部分が曖昧でした。でも最近少しずつその顧客の解像度が上がってきたと思います。それもデザインスプリントのMVP作成を通して、「誰のどんな課題」という部分に向き合った結果だと思っています。

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ーあなたにとってスタートアップとは。

「僕の価値観とめちゃめちゃ合う取り組み」です。(笑)
僕の中で重要な価値観が「オリジナリティ」、「成長」、「仲間」なんですよ。
この自分自身の大切にしている価値観とスタートアップの本質的な部分が似ているなと感じています。
だからこそこの活動は苦ではなく、趣味みたいな形でできているのだと思います。


ーあなたにとって起業家シェアハウスとは。

「自分の幅が広がる場所」です。
出会いがあり、その出会いの分だけ考えていることやそれぞれ活動していることがあり、だからこそ自分では得られなかった視点がたくさんあると思います。
あと、僕は結構習慣を大事に過ごしたいタイプなんですが、意外とフレキシブルに環境に適応していけるんだなという自分自身に対する発見もある場所でした。(笑)

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