物理・化学の学習方針
<どの科目にも共通する:基本方針>
紹介する講義テキスト、参考書、問題集に書いてあることはなるべく全部覚え、各用語の説明や仕組みそのものの説明が自力でできるように、日常に必要な知識原理の暗記のプロセスを入れ込むこと。参考書や問題集はレベル別に提案しているので、不要なことが書いてあるようなものは一切ない。
例外として、総合英語・化学の新研究・社会科の史料集など、私の方から「辞書的に使おう=必要に応じて一部のみを読み込もう」というものもある。ただし最上位レベルを志向するなら、辞書的なものでも、ある程度の時間を割いて全体を通して読み込む必要がある。
<理科社会共通:インプットする手段を、自分の言語能力・認知能力に合わせたものにする>
理科社会は、英数国と比べた時に「(科目)全体に通じるルールを把握して、それをどこででも適用する」といった「全体を通じた基本ルール」が、言語の運用能力以外はほぼない。逆に言えば、言語能力や認知の差が如実に出る科目である。そのため、自分にあった手段でインプットすることが大切であり、また、それができているか確認するための、基本的なアウトプットができる教材も同時に進めていく必要がある。
また、1つ1つの単元を理解するための手間は、英文法・古典文法・数学と比べると難易度が高いため、自分の言語能力・認知能力に合わせた「インプット=内容理解」の手段を手に入れることが最も重要であると言える。本が最速であるが、対面受講など体験的な刺激が強い方が覚えやすく効率が良い場合もある。こうしたインプット手段の選定に関しては「本屋で見比べて決めろ」「講座ならば体験授業を受けろ」ぐらいのことしか言えない。もちろん、難易度別にかつある程度多くの人に勧めやすいものは多いため、まずは相談してほしい。
<理科社会共通:アウトプットには2段階あることを理解する>
最終的なアウトプット先は「入試問題」であることは間違いない。ただし、それは最終段階のアウトプットであり、最初から入試問題を解くわけにはいかない。いきなり入試問題を解いて、解ければ嬉しいが、大抵の場合は解けない問題があり、その原因を明確にするためには、単元別・分野別の基本的な内容のアウトプットが必要である。そこが不十分では、入試問題演習の効果(=本番での得点を最大化する)は得られない。
この2段階のアウトプットを意識し、まずはアウトプット①をなるべく完璧にした上で、アウトプット②に本格的に入っていくことを徹底してほしい。繰り返すが、「入試問題が解けない原因を明らかにする」ためには、それぞれの単元・分野の基本的内容が頭に入っていなければ判断できないから、この順番でやってほしい。
=ここから物理・化学独自内容=
<なぜ2科目一緒に説明するのか?>
単純な話で、理系は専門科目2つで受験することが多いからである。ただし、本記事でも片方ごとの学習方針がわかるようには書かれているため、物理だけ、化学だけの人も該当箇所だけ読めば良い。
<大方針>
物理・化学の学習は、それぞれの科目差を意識せずに同じようにやってはいけない。
物理=自然現象の把握が目的。そのための考え方(自然現象の捉え方)、そこから導き出される原理を学ぶ。その原理で考えた場合に問題設定の中で起こりうる現象を導き、問題の要求に応じて考えて解答する。「運動」はほとんどすべての分野に関わってくるが、基本的には力学・熱力学・波動・電磁気・原子の分野ごとに考えることができる。そのため、分野ごとに入試問題を解く練習ができるため、学校の授業で習ったところから演習を進めるなど、学習の進め方に応用が利きやすい。ただし、運動に関する内容は全分野で共通して問われるため、力学全体をやることが最優先になる。
化学=物理同様に自然現象の把握が目的だが、物理と比べると、その原理部分は目に見えない小さい世界での話が多い。ただし、影響範囲は液体・気体まで及ぶうえ、物質ごとに反応がさまざまに変わるため、理論・無機・有機の分野の中身でも、扱う物質やスケールがさまざまである。問題を読んでも、大きな分野の話は区別できる(理論・無機・有機)が、「それぞれの分野の、どの単元の話をしているのか?」がわからない、という場合が多い。そのため、物理以上に「問題の読解とそれに必要な知識の習得」が重要になってくる。インプット&アウトプット①の時点で「この話が聞かれるとき、どんな状況設定がされるのか?何が問われるのか?」を意識しながらそれぞれの知識を覚えていく必要がある。
いずれの科目も、最終的な「アウトプット②=本番形式に合わせた演習」を効果的に行うために必要なインプット&アウトプット①が最も重要である。
<現役生の進め方:物理>
物理においてインプットは非常に重要である。ところが、物理選択者はあまりそうは思ってないのが実情のようだ。「理屈」を理解しなければ、入試問題を読んだときにそれを再現することはできない。公式を単純に覚えていくだけでは、読み解くことは叶わない。そのため、「物理の単元ごとの理屈」を正確に理解していく必要がある。教科書の記述で大丈夫、という人は教科書で良いが、そうでない場合には「宇宙一わかりやすい物理」などの、初学者のための物理参考書(問題集ではない)を用意しておこう。
高2生:力学を優先して行い、力学の範囲で入試問題が解けるところまで達成しておくと後が楽だが、そこまで行かなくても、力学の基本事項が全項目で網羅できている(アウトプット①まで完了)ことを目指してほしい。授業も高2生が終わるまでだと、力学・熱力学・波動ぐらいまでの進度だ。まずは力学全範囲を入試レベル(自分の志望レベルに合わせてOK)まで高めてほしい。
高3生:学校では電磁気等を進める段階だと思うので、授業と並行しながら力学の復習をしていく形になる。高2の段階で力学が入試レベルまでやれているなら、波動・熱力学を引き続き行い、電磁気を自習時間でも予習していくような格好にする。そうでないなら、慌てずに、力学を優先して入試問題レベルまで引き上げてほしい。その後、熱力学、波動と続いていけばよい。
現役生で特に身につきづらいのが、問題に取り組む際の「原理の使い方」である。原理そのものの説明は、正直、どの本でも似たようなものであるが、「解く」時に、<問題の記述のどこに目をつけるか=どんな記述に反応するべきか><誘導にどう乗っていくか>などは、いくら基本を徹底、と言っても身につきづらい。
この要因はおそらく、ほとんどの受験生は、物理という科目を、数学と同じく(実際にはこれも間違っているのだが)、公式や記号の暗記をし、それを覚えた通りに適用してやること(が本質)、だと思っているからであろう。上で説明した通り「原理で考えるとどのよう現象が起こっているか」を読み解くのが物理であるため、公式は「意味」を理解していないと使い物にならない。問題に設定されている現象を読み解いた上で、必要なら公式を使っていくのである。
数学ができるなら物理もできる、というのは、どちらの科目も「書いてあることを抽象化して他のことにも応用できる」という頭の使い方を要求していることを言い換えているに過ぎず、数学の点数が取れていても頭がそう働いてない=問題のパターン暗記で乗り切っている人は、物理についてはそこまではできないだろう。
問題をどう読み解くか、が重要で、読み解くための知識・考え方を身につけるためのインプット・アウトプット①になっていないと、点数には反映されない。「公式を覚えました、点数が取れません」よく聞く悲鳴であるが、丸暗記で頭を使っていない、問題文を読んで設定を読み解く発想がそもそもない、のが原因である。基本問題ほど、何も考えずに近くの公式を当てはめるだけで解けてしまうのがよくないが、学習の初期段階で、科目の学習の意義を理解するのは難しいためしかたがない。
この「入試問題へのアプローチ」を身につけるため、予備校の講習会(個人的には、こちらがおすすめ。高2生でも力学など分野単位で受講できるから)や、単に「こう解けます」だけでなく、設問のどこに目をつけるのかといったアプローチを説明している問題集(少し古いが為近の物理ノートなど)を選び、自力で入試問題を読み解くところまで到達する必要がある。
講習会を利用する場合は、大手のものを直接受けにいくのもいいし、夏や冬まで待たなくとも、代ゼミサテライン等で、前年度収録済(速習、と呼ばれているようだ)の夏期講習・冬期講習を今すぐにでも受講できる。ぜひ活用してほしい。
整理すると以下の通りだ。
秋以降の直前期になると、現役生は電磁気の学習がまだ済んでいないまま他分野の入試問題を解いていく必要がある。このため電磁気はどうしても「インプット」をおそろかにしがちだが、このせいで電磁気を苦手とする人は後を絶たない。このことを踏まえて、電磁気のインプットとアウトプット①は直前期でも徹底して行ってほしい。
標準レベルの大学と、難関レベルの大学で異なるのは「問題文を読み解く難易度」である。使う知識は大差ないため、解説を読んで仕舞えば理解できることは多いが、そもそも問題文へのアプローチの難易度が違うので、「できる」と勘違いしてはいけない。自分で読んで分からなければならない。ここは化学とは違う。化学は難易度が上がれば上がるほど、問われる知識が増えていく。
そのため、アウトプット②で使う参考書については、難関を目指す人はいきなり難関の参考書を使ってOKだ。ただし流石に、医学科や東大志望だからといって「難問題の系統とその対策」をいきなりやることは推奨しない。名問の森や標準問題精講などでまずは標準的な難問を網羅することが必要だ。
もちろん、標準レベルや、共通テストのみ、という人の場合はそのレベル・形式に応じた問題集を最終アウトプットの場として使うべきである。
<現役生の進め方:化学>
まず覚えるべき内容が物理よりも圧倒的に多い。多いのだが、なぜか、まともに暗記してくれないのが化学だ。理系科目という印象で「コツさえ掴めばできるやろ」「暗記じゃなく要領」というマインドが邪魔をしている。
まず強調すべきは、化学は「コテコテの暗記科目」「理屈を理解して覚えて適用する」の2つの性質を持つことだ。そのため、暗記する要領の良さも必要で、問題文を要領よく読み解いていく要領の良さも必要である。
ただし、これは「目標とするレベル」にもよる。共通テストが難しくなっている一方で、理系私大の化学だと単なる暗記でいける部分も大きい。そのため、目標レベルが「有名私立大学まで」の場合には、そこまで細かい暗記は必要としないし、問題文も比較的単純である。実質、インプット+アウトプット①までで済んでしまうこともある。一方で、難関大を目指したい、ということであれば、最終的には圧倒的な知識量で制圧していく必要があるし、問題文の読解でも差がついてくる。
とにかく、インプットとアウトプット①を徹底して、暗記を進めていくことが必要不可欠だ、ということを強調しておく。ただし、理系科目全般に言えるが、アウトプット①の教材は、入試問題を含む場合がある。
学校の授業では、理論→無機→有機と進んでいくことが多い。そのため、単元ごとに勉強すれば良い…となるはずだが、理論化学で学んだ内容を無機化学・有機化学でも使う、ということが多い。結局、理論化学が最優先、その後、無機化学と有機化学を並行して暗記を行う、という形になる。
インプットに使う教材は、教科書で良いなら教科書だが、物理と同様でわかりやすい参考書を使うことを推奨しておく。Doシリーズなど、長く定評のある参考書もあれば、新進気鋭の参考書もあるため、自分が読みやすいもの、覚えやすいと思うものを使ってほしい。ただし、志望校のレベルに合わせておいてほしい。具体例として、「化学の新研究」などを、医学科以外の地方国公立までの人が使う必要はほとんどない。初学者なら「宇宙一わかりやすい化学」が無難だが、自分の判断で選べば良いが、背伸びしすぎるのは厳禁である。
高2生:「宇宙一わかりやすい化学」と「リードlightノート(化学基礎・化学の両方)」で理論分野の習得を目指してほしい。高3生の4月に入った段階で、有機化学・無機化学の暗記が取り組めると良い。暗記を進めつつ、入試問題演習をしていく余裕もできるだろう。
高3生:3年生から学習を始める場合、インプットに時間をかけたいがかけられないため、理論優先でまずは通読→基礎の問題集で演習、をやってほしい。リードαなど学校系の教材でも良いが、時間がかかりそうなら基礎問題精講などの基礎レベルの入試問題集を利用するのがよい。
無機化学に関しては、覚える方向性が有機化学と比べて単純なため(内容が少ないとは言ってない)、予備校の講義でも短めで設定されており、講習会を利用すれば、自力でやるよりも効果的に進められることが多い。そのため、夏休みで講習会で一気に補う、といった計画も立てられる。
理論化学・有機化学は、それだけを受講で済まそうと思っても、数コマの講習会では済まず、20コマ以上かかる場合もある。参考書で行う方が早い場合が多い。
学校の授業が最後が有機で、大体高3の夏頃に終わる、というペースのため、高3の夏休みまでで「理論分野の標準的な内容」「無機化学の標準的なレベルでの暗記」「授業で進んだところまでの有機化学範囲」のアウトプット①が済んでいれば及第点だと言える。追いついてない場合はそれからでもやるしかない。
9月以降のアウトプット②についてだが、標準的なレベルの大学で良い場合には、インプットとアウトプット①を行った後で、標準的な入試問題集を選び、過去問とも並行しながら進めていくことになるだろう。アウトプット①で使った教材を繰り返しする方が効果的な場合もある。共通テストも近年では難しいため、形式対策は怠らないようにしてほしい。
難関大を目指す場合には、入試問題集も最終的にはレベルの高いものをやっていく必要がある。化学は「レベルが高ければ、問われる知識量も増える」ため、標準レベルから始めて、難関レベルに到達していくイメージを持ってほしい。夏までの段階で、標準レベルが終わり、難関レベルを繰り返す準備ができていることが望ましい。
<最後に>
理科専門の学習は、2科目同時で進めることが多いため、とても大変である。その中で、各科目の特徴を押さえて優先度別に分野を勉強していかなければ、演習効率が悪いまま直前期に突入することになる。
「直前期での演習効率を上げる」ために、必要なインプットを夏休みまでになるべく済ませてほしい。物理は最低でも力学、化学は理論分野だ。
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