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【初心者向け】デザイン思考・アート思考の概要と必要性

ここ数年、デザイン思考やアート思考が熱い

2020年3月、東京大学にて生産技術研究所が手がける「デザイン思考」の人材育成を2020年度から全学展開するという記事が掲載されていた。

なぜ東京大学でデザイン思考を取り入れているか、その背景は新たな価値創出に寄与すると考えているからである。

東大生研は産業に近い研究を行う伝統があり、ここ数年はデザインとテクノロジーを融合させ、新たな価値を生み出すデザイン思考に注力している。「価値創造デザイン(DLX)推進基盤」を立ち上げ、デザイナーを多く抱える英国ロイヤル・カレッジ・オブ・アート(RCA)との連携や、ビジネスパーソンのデザイン思考を育てる「デザインアカデミー」の実施など手がけている。

また、企業においては、日本国内では日立製作所や富士フィルム、日本国外ではSAPやP&G等、様々な企業においてデザイン思考やアート思考を活用した新規価値創出に向けた取り組みが行われている。

コンサルティングファームでもデザイン思考に注力

このようなデザイン思考・アート思考の注目度の高まりを受けて、コンサルティングファームにおいてもデザインやアートを取り入れた活動が進んでいる。例えば、アクセンチュアでは、デザイン×コンサルティングのアプローチを体系化してサービスを提供している。

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(中略)では、実際に顧客起点の変革を実行するにあたり、具体的にどのような課題と対策があるのか。具体的な取り組みとして、アクセンチュア・インタラクティブでは、「Design × Consulting」のアプローチにて顧客起点の変革に取り組んでいるが、このアプローチには4つのステップがある。「DISCOVER(チャンスを見つける)」、「DESCRIBE(コンセプトを描く)」、「DESIGN(息を吹き込む)」、そして「ROADMAP(道筋を描く)」の4つだ。

一方で、デザイン思考を強みに企業課題を解決する専門ファームも増加している。例えば、IDEOやBIOTOPE等の企業である。特にIDEOはシリコンバレーに本社を置くデザインファームで過去にはアップルの初代マウスを開発し、日本国内では三菱電機や資生堂、明治や三菱UFJ銀行等の大手企業にサービス提供している。

コンサルティングファームと言えば、論理的に物事を整理し、そこから抽出した示唆を基に企業へ提言を行うというイメージが強いと思う。しかし、そんな”左脳”的思考が中心のコンサルティングファームにおいて、”右脳”的思考であるデザイン思考やアート思考を取り入れたコンサルティングが行われているのは不思議な一面もある。

デザイン思考・アート思考が現代に必要な理由

では、なぜ昨今こんなにもデザイン思考やアート思考が注目されているのか。よく考えられる答えとして、「デザイン思考の方が新しいアイデアを効率的に考えられる」といった意見を聞くことがある。私も当初デザイン思考を知った時、そのような考えを持っていた。しかし、一方で、これまでのコンサルティングファームは、”左脳”的な思考(=論理的な思考)においてクライアント企業の事業戦略や新規事業立案を支援していたことを鑑みると、従来の”左脳”的思考では何がいけないのか?が腹落ちしない。

デザイン思考・アート思考が現代に必要な理由は、山口周さんが「世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?」内において答えを示していると僕は考える。

グローバル企業が世界的に著名なアートスクールに幹部候補を送り込む、あるいはニューヨークやロンドンの知的専門職が、早朝のギャラリートークに参加するのは、虚仮威しの教養を身につけるためではありません。彼らは極めて功利的な目的のために「美意識」を鍛えている。なぜなら、これまでのような「分析」「論理」「理性」に軸足をおいた経営、いわば「サイエンス重視の意思決定」では、今日のように複雑で不安定な世界においてビジネスの舵取りをすることはできない、ということをよくわかっているからです。

また、もう少し具体的にこのようにも述べられています。

1.論理的・理性的な情報処理スキルの限界が露呈しつつある
最も多く指摘されたのが「論理的・理性的な情報処理スキルの限界」という問題です。この問題の発生については、大きく二つの要因が絡んでいます。一つ目は、多くの人が分析的・論理的な情報処理のスキルを身につけた結果、世界中の市場で発生している「正解のコモディティ化」という問題です。
(中略)二つ目は、分析的・論理的な情報処理スキルの「方法論としての限界」です。

つまり、従来多くの企業やコンサルティングファームで用いられていた”左脳”的思考における方法論がコモディティ化や「VUCA」等の不確実性の高い事業環境という要因により、限界がきている。そこで、”右脳”的な思考を高めることでその状況を補おうとしているわけです。

デザイン思考・アート思考の棲み分け

デザイン思考やアート思考の必要性は分かったものの、デザイン思考やアート思考、またはこれまでの”左脳”的思考は如何なる棲み分けになるのでしょうか。僕が一番理解しやすかった整理は、増村岳史さんの「ビジネスの限界はアートで超えろ!」で整理されていた4象限です。

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ここでは「ロジック/感性」×「問題提起・価値の創造/課題解決」の2軸でアート、デザイン、サイエンス、テクノロジーが分類されています。これを見ると、アートもデザインも感性に基づく取組ですが、アートは「感性による問題提起・価値の創造」デザインは「感性による課題解決」と言えます。

確かに、デザイナー等は、誰かが抱える課題に対して、感性的アプローチを基にその課題を解決すると言えそうです。例えば、インテリアデザイナーは、「屋内の空間をおしゃれに演出したい」という課題に対して、「家具は○○、壁紙は○○、照明は○○」といった具合に課題を解決していきます。

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一方、アーティストは課題を解決するというよりは、従来の常識に対する新たな問いの提起やそこから価値を生み出す活動を行っていると言えそうです。例えば、この作品。

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これは、マルセル・デュシャンが1917年に制作した「泉」という作品です。作品といっても、見ての通り、男性便器にサインを記載したのみの作品です。しかし、この作品は現代では「芸術の概念や制度自体を問い直す作品として、現代アートの出発点」として評価されています。このように、アートとは従来常識と思われていた事に、新たな問いを投げかけ、そこから新しい価値を創出する活動と言えそうです。

デザイン思考とは?

では、そもそもデザイン思考やアート思考とは何か。まず、デザイン思考ですが、大きく5つのステップで構成されています。
1.Empathize(共感)
2.Define(問題定義)
3.Ideate(アイデア創出)
4.Prototype(プロトタイプ)
5.Test(テスト)

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「1.Empathize」は、ユーザーの観察やユーザー体験を自分でも体験する事で、ユーザーへの理解を深め、そこから現在ユーザー自身も気づいていないニーズや課題を発見し、定義していきます。(「2.Define」)

ユーザーのニーズや課題を発見・定義した後は、課題解決のアイデア想起を行います(3.Ideate)。その後、想起したアイデアを素早く可視化していきます(4.Prototype)。この時には、アイデアを素早く可視化するために、ポストイットやストーリーボード等のツールを用いて実施することが多いです。

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そして、作成したプロトタイプを実際のユーザーがいる日常で試し、プロトタイプの評価及び改善を行います(5.Test)。この流れを繰り返す事で感性的に既存の課題を解決していきます。

アート思考とは?

一方でアート思考は具体的にどのような手法でしょうか。実はデザイン思考ほど体系的な手法は一般化されていません。しかし、末永幸歩さんの「「自分だけの答え」が見つかる 13歳からのアート思考」にそのヒントが記載されています。

アート思考とは、一言でいうと「興味・好奇心に基づく常識への問い」です。では、常識への問いを行うために何をすべきか、それは、Output鑑賞にあると僕は考えています。Output鑑賞とは、次のように説明されています。

やり方は至って簡単。作品を見て、気がついたことや感じたことを声に出したり、紙に書き出したりして「アウトプット」すればいいのです。

しかし、ポイントは、ただ「アウトプット」するのではなく、2つの問いかけを繰り返し行うことです。「①どこからそう思う?」と「②そこからどう思う?」この2つの問いです。「①どこからそう思う?」は、主観的に感じた意見の根拠となる「事実」を問う。「②そこからどう思う?」は、「事実」から主観的に感じた「意見」を問う。

この2つの問いを繰り返す事で、物事に対する理解や共感、従来気が付かなかった観点が生まれ、常識への問いが生み出される土台になります。

加えて、このOutput鑑賞を定常的に行う事で、仕事においても、興味・好奇心を基に既存の常識への疑問から、新たな問いの生産活動に役立つと思っています。

本記事のまとめ

これまで、論理的思考やロジカルシンキングが記事や書籍等で注目されてきましたが、昨今の不確実な事業環境下では、それだけでは不十分であることに多くの企業・人々が気づき、”右脳”的思考であるデザイン思考やアート思考を取り入れた活動を進めています。このような取組はとても素晴らしい事だと思う一方で、当然ですが、”左脳”的思考と”右脳”的思考の両輪を上手く組み合わせることが重要だと考えています。どちらか一方が大事ではなく、両方合って初めて機能する思考法だと思っています。

僕も新規事業立案を行う際は、デザイン思考程体系的手法ではないですが、”右脳”と”左脳”を上手く組み合わせ、従来なかった新たなサービスを構想しています。この記事を読んで、これからデザイン思考やアート思考を深めていきたいという人が増えていただければ幸いです。

本記事の参考とした書籍

本記事を書くにあたり、参考にした書籍をまとめております。どの書籍も大変わかりやすくデザイン思考やアート思考の重要性やHow Toを語っておりお勧めです。

画像出所
Wikipedia、Accenture、大阪商業大学、Pixabay


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