見出し画像

文人の愛した千年の秘湯宿

蔦温泉

蔦温泉の駐車場に車を滑り込ませたのは、チェックインにはまだ少し早い時間だった。ちゃんとした蔦七沼巡りは明日に持ち越すことにして、まだ雨の残る蔦沼まで散策に出かける。
霧に支配されたブナの森はブナの息使いに覆われたように乳白色に沈んだ。

人の気配が全くない。
森の呼吸と沼のほとりにアキアカネだけが、その楽園を謳歌する。

画像1

いい時間になり宿への小道を戻る。
憧れの宿だった。
かつて単独で八甲田山に登山した翌日、湯巡りにこの地を選んだ。
足元湧出の新鮮なお湯に、いつかきっとここに泊まりたいと願い、
その願いが叶う時がやってきた。

歴史の重みを幾歳月刻んだ玄関をまたぎ、趣のある帳場で手続きを済ます。
そう、私達は100年の旅人になって今ここにある。
100年前の旅人と同じように宿を借りる。
ギシギシと階段を昇っていくと長い廊下に向かって、部屋が連なる。
泊まるなら本館と決めていた。

前室があり、次の間のある趣のある部屋だった。
シンプルながら床柱に配した蔓の太い古木がいいアクセントになった。

画像2

次の間は狭いけれど、夫婦で泊まった古の御婦人がこちらで化粧を済ましたりしたのだろうか、慎ましやかなしつらえに想像は膨らむ。

画像3

トイレ(ウォシュレット)と洗面所は共有で、掃除が行き届いてすがすがしい。
洗面所のタイルやいろいろな意匠を見つけることも楽しい。

画像24

画像25

さあ、もう温泉が待ち遠しくて着替えを済ませて泉響の湯に向かいます。
期待を裏切ることのない、一切空気に触れず足元から大きなお湯の泡が
ぷっくうんと浮かび上がり、弾ける。
さあ、次はどこから浮かんで来るかな。と目と耳と皮膚の感覚を最大限に凝らして、次を待ち構える。
なんと贅沢で遊び心を満たすお湯でしょう。

画像4

*蔦温泉のHPよりお借りしました

湯温は心持ち熱いので、休んでは入りを繰り返す。
高い天井と木肌の優しい感触が何と癒しだろう。
洗い場も脱衣所もアメニティからドライヤーまで至れり尽くせりです。

もう一つは男女別で時間制の久安の湯があります。
階段を下った一段下がった場所にあり、鄙びた雰囲気が千年の湯治場の面目を施します。

画像5

建物にしても浴室にしても素朴な木の趣、木と親しむことのできるこれは、ブナの森の中に佇む宿のあるべき姿。
本当に素晴らしいし、後世にずっと残していってもらいたいもの。

休憩処がまたすばらしい。木々の意匠を生かした欄間や大きな梁、正目の天井、居心地のいいロッキングチェア、そこからの庭の眺め。
こちらは日帰り入浴でも利用できてゆっくりとくつろぐことができます。

画像6

*蔦温泉のHPよりお借りしました

夕食の時間です。

画像7

心尽くしの前菜から順に運ばれてきます。
いつものように日本酒をチョイス、こちらはチェイサーまで持ってきていただける気遣いです。意外と持ってきていただけないもの。

おまいのん兵衛だからいらないでしょは言いっこなしでw

画像8

十和田産の岩魚もこんがりと焼きたてです。

画像9

蓋物と酢の物

画像10

小川原湖牛の焼きしゃぶは長いもとろろポン酢で

画像11

つみれ鍋と「天寿米」とつけもの

画像12

画像13

しめのデザートまで美味しく頂きました。

画像14

朝食はバイキング、マスクとビニール手袋を装着して取りに行きます。
今回も相方は和食、私は洋食で頂きました。
リンゴジュースと牛乳が美味しかった。

画像15

画像16


5:00に起床し朝の蔦七沼の散策に向かう。
蔦温泉ビジターセンターの脇から入っていく。

とっくに目覚めたブナたちの今はどんな時間だろう。
そして鳥たちの目覚めの時間でもある。

画像17

平坦道から蔦沼へ、定番のポイントは秋の物、夏場は左手の方がいい雰囲気

画像18

やや登りになる小道を次は鏡沼、小さくてかわいい沼

画像19

ちいさな流れをこえたり、少しのアップダウンで月沼へ
ここが一番神秘的で素晴らしい、沼にせり出した倒木がある緊張感をもって佇む。

画像20

ちょっと高い所から長沼のエメラルドグリーンの湖面を見下ろす。

画像21

菅沼への小道を取ります。
写真にはありませんが南八甲田の山でしょうか。池の奥にそびえます。

画像22

また小道を戻って最後に瓢箪池でぐるっと一周です。

画像23

およそ2.9kmの朝飯前のいい散策ができました。
自然とともにある宿の素晴らしい過ごし方を堪能できました。

*部屋:★★★★★ 古いは粋です
*温泉:★★★★★ 足元湧出の新鮮なお湯を堪能
*食事:★★★★★ 地の物を生かし、やさしいお料理です
*接客:★★★★★ 気遣いのある細やかな接客です

泉質:ナトリウム・カルシウム-硫酸塩・炭酸水素塩・塩化物泉(低張性中性高温泉)自然自噴
泉温:45.4℃(加水あり)
湧出量:測定不可

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?