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Une Semaine à Zazie Films 週刊ザジ通信【3月23日㈬~3月29日㈫】

日本時間の3月28日の午前中、第94回アカデミー賞が発表になりました。作品賞は『コーダ あいのうた』。誰からも愛される良い映画ですから、順当な結果と言えましょう。対抗馬の12部門最多ノミネートだった『パワー・オブ・ザ・ドッグ』はジェーン・カンピオンの監督賞のみに留まりました。『ドライブ・マイ・カー』は、脚色賞も行けるかな…と思ってましたが、国際長編映画賞のみ。それだけでも日本映画の受賞は『おくりびと』以来13年ぶりの快挙ですが。

ザジもいちおう外国映画を扱う配給会社なので、アカデミー賞と全く縁がないワケでもありませんが、宣伝作品を含めても絡んだ作品は多くはありません。宣伝作は、フェリシティ・ホフマンが第78回の主演女優賞候補になった『トランスアメリカ』(松竹配給)、第79回の主演女優賞をヘレン・ミレンが獲得した『クィーン』(エイベックス配給)、第80回に7部門ノミネートされた『つぐない』(作曲賞のみ受賞。東宝東和配給)、第82回の外国語映画賞候補『白いリボン』(ツイン配給)、第90回の脚色賞候補『ビッグ・シック ぼくたちの大いなる目ざめ』(ギャガ配給)。自社配給作品は第84回の外国語映画賞にノミネートされた『ぼくたちのムッシュ・ラザール』(アルバトロス共同配給)、第86回の長編ドキュメンタリー賞候補『キューティ&ボクサー』(PARCO/キングレコード提供)の2本のみ。この仕事、30年以上やってて、ちょっと少ない気がします(笑)。そして“配給作で、なおかつ受賞作”というのが1本もないのに、今気がついた!(『キューティ&ボクサー』は割と下馬評も高かったので、ガッカリしたのを覚えています)。引退するまでに1本ぐらいは配給作で受賞作を出したいです(切ない)。

今回、国内メディアの報道は『ドライブ・マイ・カー』一色になるのだろうな、と思っていたのですが、予期せぬウィル・スミスのビンタ事件が起こり、各受賞作にスポットが当たる機会が削がれた感があるのは残念です。アカデミー賞司会者の出席者いじりは昔から“伝統芸”のようなものでした。たとえば第78回の授賞式のオープニング、司会のジョン・スチュワートというコメディアンが放った「Ladies, Gentlemen, and Felicity…」は、『トランスアメリカ』のトランスジェンダー役で主演女優賞候補になっていたフェリシティ・ホフマンを“いじった”セリフで、会場は大いにウケていたのを記憶していますが、これも今となってはOUTでしょう。ジェンダーや容姿をネタに取る笑いは、とっくに時代にそぐわないものになっているのを(元々、許容されていた時代があった、というだけですが)、クリス・ロックも主催者側も自覚すべきでした。それに暴力で応えてしまったものだから、問題がなおさら複雑になっている今回の事件です。

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話は変わりますが、昨夜は渋谷ユーロスペースで行われた“ウクライナ映画人支援緊急企画:ヴァレンチン・ヴァシャノヴィチ監督作品上映会”、初回の上映に参加してきました。上映されたのは2019年のヴェネチア映画祭オリゾンティ部門の作品賞を受賞し、その後東京国際映画祭でも審査員特別賞を獲得した『アトランティス』。これが凄いの、なんの。“2025年の、ウクライナとロシアの戦争が終わった後の世界”という設定からして、現在の状況と地続きなのですが、描かれる“終わりなき戦後処理”が強烈。ノックアウトされてしまいました。明日観る予定の新作『リフレクション』は、クリミア侵攻によって戦争が始まった2014年が舞台だそうで、こちらも言葉が正しいのかどうか、観るのが楽しみです。

残念ながら29、30、31日の上映チケットを含むリターンの枠は終了して、上映会はすべて満席となっていますが、映画人支援のためのクラウドファウンディングは、4月12日まで続きます。昨夜の上映前、矢田部さんが説明してくださっていましたが、今回の上映の経費を差し引いた額は、「危機にさらされている映画人を擁護し、連帯して行動する」ことを指針に、ロッテルダム映画祭、アムステルダム国際ドキュメンタリー映画祭、ヨーロピアン・フィルム・アカデミーが創設したICFRという団体に寄付され、ウクライナ映画人が映画を製作する際の助成金の原資になるそうです。「映画の製作費に充てるのなんて、ずっとあとでいいんじゃないの?」などと思わないで、未来に希望を託す気持ちでぜひ参加してもらいたいです。

texte de Daisuke SHIMURA



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