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【事例に学ぶ】 経営理念は“Smile & Sexy” 物語コーポレーション

“Smile & Sexy”というユニークな経営理念を掲げ急成長を遂げる外食チェーン・物語コーポレーション(以下「物語Corp」)。焼肉業界で「焼肉きんぐ」が牛角を抜いて1位に躍り出てたのをはじめ、「丸源ラーメン」が2位、「お好み焼き本舗」が4位など各業界で他社を圧倒し続けるその成長力は、“Smile & Sexy” の理念のもと、はたしてどのように生み出されているのか ―― “ざわざわ”の九人衆が不羈奔放に雑話座輪した。


「自分物語」が「会社物語」をつくる

物語Corpは1949年、第2代社長・小林佳雄(現・特別顧問)の母が愛知県豊橋市でおでん割烹『酒房源氏』を創業。1969年に設立した株式会社げんじを、1997年に株式会社物語コーポレーションに社名変更し今日に至っている。

“Smile & Sexy” という経営理念のみならず、社名にもまた徹底した独自性が貫かれているわけだが、これらはいずれも小林社長が自身の体験から編み出した経営哲学に基づくもの。そしてそれが今日の加藤央之社長(第5代/2020年~)にまで連綿と受け継がれることで、『“物語人”が語る「自分物語」が「会社物語」をつくる』という独自の組織文化を形成してきた。

小林社長は、社名を「物語コーポレーション」とした想いを次のように語っている。「どういう意味かというと、私も含めてですけれど、他の人と同じような人生を歩みたくないってみんな思っているんですよね。たくさんの自分物語が集まって結果的に会社物語が出来たらいいねという意味なんです」。

物語コーポレーションのスタッフは、一人ひとりが“物語人”。というわけで、同社ウェブサイトではメニューのトップに「自分物語」が設けられ、それぞれの「物語」が語られるとともに、物語コーポレーションの社名ロゴには「Storytellers tells the Story」のタグラインが冠せられている。

「トップメッセージ」を読み解く

ここからは同社のウェブサイトに掲載されている、加藤央之社長による「トップメッセージ」全文を3つのパート分けて読み解きながら、同社の高成長と“Smile & Sexy”との関係を探ってみたい。

1  一人ひとりの「物語」に寄り添って

加藤社長は2009年4月、同社に入社。2020年9月に34歳の若さで代表取締役に抜擢された。加藤に白羽の矢を立てたのは小林社長。「なぜ若い加藤を社長に推薦したのか?」との質問に小林は「(俺に対して)いちばん挑んでくるからね」と答えている。ここでもまた「自分物語」を臆せず表現する社員を評価する小林の“物語流”経営が貫かれている。

「個」の尊厳を「組織」の尊厳より上位に置き
「とびっきりの笑顔と心からの元気」で世の中をイキイキさせる


会社が大きくなっても、“ひとり”の心に寄り添える会社で在りたいと本気で思っています。小さな頃に家族で外食した記憶は、今でも私の中で大切な楽しい思い出の記憶として忘れることがありません。美味しいものを食べられるワクワク感もそうですが、何より家族で一緒に笑って食事すること、それが幸せで外食に行くのが楽しみで仕方ありませんでした。 お客様一人ひとりにそういった来店のストーリーがあります。そのストーリーに心を寄り添わせ、笑顔と元気を生み出すのが私たちの仕事。ブランド=お客様との約束。「何時どの店に行っても、笑顔と元気になれる」、これが「物語ブランド」なんだと自分たちも胸を張って言いたいし、お客さまからも言われたい。せっかく当社のお店を選んでくださったお客様に、残念な気持ちになって帰って欲しくない。シンプルにそう思っています。(加藤社長メッセージ 1/3)

物語Corpは、本メッセージの表題にもある《「個」の尊厳を「組織」の尊厳より上位に置き「とびっきりの笑顔と心からの元気」で世の中をイキイキさせる》を「長期経営ビジョン」として掲げている。また《お客様の心のリラックス 物語人の心の自立》を「経営目標」として掲げているが、そこには「数字」や「事業プラン」に属する文言はいっさいない。社員が“物語人”として成長すること、それが「長期経営ビジョン」と「経営目標」のすべてとなっている。

そして何よりもスゴイと感じるのが、これらが単に“言葉”としてだけでなく「本気」で実践されていること。「“ひとり”の心に寄り添える会社で在りたいと本気で思っています」「せっかく当社のお店を選んでくださったお客様に、残念な気持ちになって帰って欲しくない。シンプルにそう思っています」という加藤社長の言葉には、「株式会社物語コーポレーション」が誕生以来育んできた理念経営をさらなるレベルへと進化させたいとの想いが溢れている。

2  SexyであるためにSmileを磨く

その「ブランド価値」を生む源泉は、経営理念「Smile & Sexy」という云わば「自己実現」を目指す理念です。どんな人間が最もイキイキし、魅力的かを考えたとき、なりたい自分に向かって一生懸命な人、即ち、自己表現することを恐れずに自分らしく生きられている人だと私は思います。これを私たちは「Sexy」という言葉で表現しています。ただ、「Sexy」で在る為には、それを表現しても周りから愛される、応援される、そんな人間力が必要です。それを私たちは「Smile」という言葉で表現しています。「Sexy」である為に「Smile」を磨く。そのバランスを高めながら2つとも成長させていく為の日々の努力が、「成熟・自立した人間」への道だと考えています。(加藤社長メッセージ 2/3)

物語Corpは《「個」の尊厳を「組織」の尊厳より上位に置く》ことを明言している。企業活動における「組織と個人」の関係は永遠の課題であり、“ざわざわ”メンバーの間でも「現実問題として、こんなことが本当に可能なのか?」「『個』をそこまで優先すると組織が組織として成立しないのでは?」との意見も多く出た。

物語Corpは、なぜそれほどまで「個」(=自分物語)にこだわるのか? この点を加藤社長は次のようなエピソードを通じて説明する; 例えば、いちどOKとなった商品に対して「もっとこの方が美味しんじゃないか」と進言するには生半可ではない覚悟がいる。他社との差別化を図っていくうえで不可欠なこうした勇気ある行動は、会社目線での「やってください」からは決して生まれない。個人が本気で「自分はこんな生き方をしたい」と思わないかぎり生まれない――と。だからこそ「自分物語」をしっかり表現できる「個」の確立こそが大切であり、これを組織に優先して育てないと、組織はやがて過剰な忖度などによって硬直化し死に至る、というのが加藤が力説するところだと思う。

そして、この「個」を大きく成長させるための実践ツールが、「Sexy」と「Smile」という2つの概念を絶妙に組み合わせた経営理念といってよいだろう。“Smile & Sexy”の産みの親である小林は言う; セクシーは「やろうぜ、言おうぜ」と「自分物語を作ろうぜ」なんだけど、スマイルは自分のマナーを磨いたり、自分の表現力を磨いたり、自分の人格を磨いたりすること。そうしないと言うことを聞いてくれる人が少なくなってだんだん言わなくなっちゃうから、セクシーを達成するためにはスマイルを磨かないと駄目なんだよというのが私の考えですね、と。

自分らしくSexyであるためには、自身の人格を磨くためのSmileが不可欠――こうした両者の円環的な因果関係が、自由な「個」を拡大しつつ、それが “個の暴走” を招くことなく「組織」の成長へと結びついていく、そんな構造を可能としている。

3  究極のサステナビリティ

経営理念「Smile & Sexy」の体現により「人財力」が生み出され、そんな“人財”たちが自分の思うことを率直に表現し、議論を戦わせることにより、個々の「開発力」が育ちます。そして、「Smile&Sexy」に生き、「人財力」と「開発力」を磨き上げることで得られる“自分物語が出来上がっていく充実感”が、ただの笑顔と元気を「とびっきりの笑顔と心からの元気」に昇華させます。そんな「個」の魅力があふれる人が増え、たくさんの人と関わる中で生まれる好循環は、「何時どの店に行っても、笑顔と元気になれる」という「ブランド価値」を作り上げるとともに、間違いなく世の中をイキイキさせます。これこそが、私たちが目指すべき究極のサステナビリティであり、この実現を目指してまいります。(加藤社長メッセージ 3/3)

加藤は、「世の中をイキイキさせること」こそが自分たちが目指すべき究極のサステナビリティであり物語Corpはその実現を目指す、との言葉で「トップメッセージ」を結んでいるが、ここには“Smile & Sexy”という経営理念のいちばん深いところに埋め込まれた小林の想いが息づいている。

小林は言う; 私は多くの人を好きになる性格で、これは楽しく生きる秘訣です。そういう人がいる国や会社にしていかないと、新入社員が入ってきても8割の人が挨拶に応えなければ「黙っているのが普通だ」と思い、挨拶をしなくなります。そのような会社にしてはいけません。さらに日本が変わらなければなりません。そのために、おしゃべりで笑顔な人を増やさなければならないと思います、と。

小林社長の、自社の枠組みを越えた社会に対する深い想い。そうした高い普遍性こそが、誕生から25年以上の月日を経てなお “Smile & Sexy” の言葉にますますの輝きを与え続けている秘密に違いない。

“Smile & Sexy”という「動作」と「状態」

私たち“ざわざわ”では、Mission/Vision/Valuesの概念に代表される「経営理念の体系」を[私たちが考えるCC#3]で示した図のように捉えていて、《Doing》の領域に属するCorporate Communicationと《Being》の領域に属するCorporate Brandingとが円環的に相互作用を重ねることでPurposeやVisionが実現されていく、と理解している。

“Smile & Sexy” を、このモデルを使って解釈するとどのように位置づけられるか? それを示したのが下図となる。

すなわち、「Smile」はDoing(「行動」の領域)に属する概念、一方「Sexy」はBeing(「状態」の領域)に属する概念であり、「「個」の尊厳を「組織」の尊厳より上位に置く」というPrinciplesのもと、Smileという行動(Communication)がSexyという状態(Branding)を創り出す円環的相互作用を通じて「「とびっきりの笑顔と心からの元気」で世の中をイキイキさせる」というVisionの実現を図る――というのが物語Corpにおける経営理念の構造と理解できよう。

「物語コーポレーション」に社名変更した1997年から四半世紀。小林社長が“Smile & Sexy”の言葉に込めた想いは、いまもなお脈々と生き続けている。

まとめ:馬渕毅彦


この記事について

“ざわざわ”は、ツールの使い方や社内コミュニケーションの最適解を教え合う場ではありません。道具が多少足りなくても、できることはないか?姿勢や考え方のようなものを「実務」と「経営」の両面から語り合い、共有する場です。

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