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コンビニ 【約1000字のお話】


◯月△日、天気は曇と晴れの中間
私は友人との待ち合わせ場所に来ていた

しかし、本来の時間は30分後
つまり、早く来すぎたのである

さすがにスマホで潰せる時間でもないし
近くのコンビニで飲み物でも買うことにした


*****


この辺は馴染みがなかったが
比較的中心部だから、コンビニはすぐに見つかる
そうなると、1軒目では時間の潰しようがない

ということで、少し足を伸ばして3軒目に入ることにした
やや小さく、他よりも若干古い角地のドアを
何の気もなしに押したのだった

*****

「「「「「いらっしゃいませー!」」」」」

近年稀に聞く総声量の大きさに
何の準備もしていない私の身体は震えた
そして数歩進んで、目を疑った


制服を着ている人が、どこにもいない

弁当を棚に並べている人も
お菓子を整理している人も
モップを手にしている人も


だれもが、どこからどう見ても私服だ

しかしレジにスタンバっている者はおらず
みんなが私をチラチラと殺気立つ目線で見ていた


*****

これは、シンプルにヤバいところかもしれない
コンビニに見せかけた無法地帯だとしたら……

冷や汗が背中をじっとりと濡らす
だが、このまま出るのは逆に危険な気がして
予定通り水を手に取り、恐る恐るレジへ向かった

その瞬間
私服店員が一斉に、こちらに走り出したのである


モップが音をたてて倒れ
お菓子も中途半端に並んだまま
弁当は勢い余って滑り落ちていった

硬直してしまい、スローモーションを見るようだったが
店員らの標的はそんな私ではなく
カウンターを挟んだレジだった


*****

お菓子売り場にいた店員がこの争いを制したらしく
彼がスキャナーを握った瞬間
他の者は肩を落として持ち場に戻っていった


営業スマイルというよりは安堵の表情で
彼はややおぼつかない手で機械を操作し
私はやや緊張の面持ちで会計を済ませた


「どうも……」と言って立ち去ろうとしたが
店員は一向にペットボトルを渡してくれない
いや、ペットボトルなんかもういい
さっさとここから出よう、と足を動かしたとき
店員が私の右腕をガッと掴んだ



「……交代です!」
「……は?」



*****

「「「「「いらっしゃいませー!!」」」」」

新たな客が入ってきた
驚きから徐々に怪訝そうな表情へと
面白いくらい誰もが同じ経路を辿っていく

大遅刻決定に小さく溜息をつきながら
私はモップを強く握りしめた







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