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買い物かごシアター 【約1000字のお話】



午後4時すぎ、予定通り


スーパーに入店し、まずはチラシをチェックする
この時間帯は夕飯の調達で客が多くなるから
タイムセールもあるかもしれない


一通り眺めてから、カゴを手に取る
すると中に、紙切れが入っているのが見えた
前の人のレシートだろうか、と出そうとしたとき

その紙切れに、映像が流れ出したのである


*****


始めは影が動いているだけかと思った
しかし、影は次第に濃く、色が付き
陳列棚であることがわかってきた


オレは、思わず周囲をゆっくり見回した
CM用テレビとか、誰かのスマホとか、監視カメラとか
何かの映像が反射している可能性も0ではない
しかし周りには誰もいないし
監視カメラが棚をアップにするのも考えにくい
この間も映像は途切れることなく進み
場面は酒売り場に切り替わっていた


カゴを凝視していると怪しまれるだろうから
オレはテキトーに商品をカゴに入れながら歩きだした


*****


映像は、どうやら誰かの目線に設定されているらしい
ズラッと並ぶワインを右から左へ隅々まで眺め
そのうちの1本に目が留まった
小さいくせに1本数万円もする赤ワイン……


すると突然画面が四方八方にゆっくり散り
それがある程度落ち着くと、先程のワインに戻り
画面の端から手が伸びてきた


しかし、その袖に見覚えがある


そっと、自分の右腕を確認してみた
……やっぱり、オレのジャンパーだ



嫌な汗をかき始めた今のオレを知らない画面の中のオレは
そのワインをスッと手に取った
その行方は映っていなかったが
どうせ、カゴの中ではない


*****


今のは、ほんの数日前の出来事
一体、これはなんなんだ
いや何でもいい、早く処分してしまおう
オレは紙切れを掴むとそのまま握りつぶし
ポケットにねじ込んだ


……今日は大人しく、普通に食料調達だけしておこう
気を取り直して売り場をまわり、レジへと向かった

待っている間、何気なくカゴに視線を向けると
くしゃくしゃの紙切れが同じ位置に戻っているではないか
ギョッとしてすぐに取り上げようとしたが
さっきは無かった、大量の文字がびっしり並んでいたのである


おそるおそる拾い上げ、文字を追う
すると、さっきのワインを先頭に
ウイスキーや薬の名前が連なっていた
そしてもちろん、全部、見覚えがある……


オレはすぐさまレシートを破ってポケットに入れ直し
汗が止まらぬまま会計を済ませた
大丈夫、レジの店員も普通だったし
誰もこっちなんか見ていない
というか、今日は普通に会計したし
何の問題もないではないか



平静を装って出入口へ向かう、すると
「すみません、お客様」
と、背後から声が聞こえた


「……はい?」
「お客様のカゴの中にレシートが入ってませんでしたか」


ヤバい……いや、まだなんとかなる
だって、他の客のレシートを探しているパターンだってあるし
普通、そっちのほうが現実的にすら思える



「ええ? ああ、そういえば。僕のじゃないんで捨てましたけど」
オレはなるべく、ヘラヘラしながら答えた


すると店員は「そうですか」と言うと
目の中の光を消した



「では、破れたままでよろしいので、
事務所まで来ていただいてもよろしいでしょうか?」





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