『ジャングルの夜』第十話
ガイドは風が強すぎて、なんどもめくれ飛ばされそうになりながら、古地図を模した紙を広げて、今日まわるコースを説明してくれた。
彼が沖縄の自然や生物についてのことや、注意事項だとかいうことを上手いこと、堅苦しくなり過ぎないようにしながら話し、雰囲気を盛り上げたところでいよいよ出発ということになった。
ジープの荷台に乗るように言われた。いつの間にか、刈り上げの女と、ぽっちゃりのガイドより、少し落ち着いた感じの女性が運転席にいた。
ぽっちゃりは千多と一緒に荷台へ乗り込み、 「しっかり捕まっていてください。彼女運転が荒いんで気をつけてください!」というようなことを言った。
運転席の女は、気にする様子もなく、 「はーい、それじゃあ出発」と陽気な声を出してアクセルを踏み込んだ。
運転は本当に荒くて、施設の外へ出ると、ジープは砂利道を滑るように曲がった。
Gを感じながら、これも演出のひとつだと察した千多は、たかだか三五〇〇円の参加費を払った自分一人のために、三人もスタッフが残ってツアーを行っていることに、申し訳なさを感じた。
ほんの二、三分程度の移動で目的地に到着したジープは砂埃を上げるように旋回しながら止まった。 「はー。大丈夫でしたか?」と言うぽっちゃりに、千多は、「本当に荒い運転ですね」と答えた。
荷台を降りた二人に女は、「それじゃあ、お気をつけていってらっしゃい」と与えられたキャラクターを崩さずに声を掛け、ジープは元気に走り去った。
ぽっちゃりは木々に覆われた一面を懐中電灯で照らしながら、
「入り口からすでにジャングルは始まっています」と子供一人分もない、僅かな草木の隙間を指して、
「ここがウワーガージャングルの入り口です」と言った。
ぽっちゃりに続いて、茂みをかき分けて中へ入ると、舗装されていない山道のような場所へ繋がっていた。
足試しに小高い丘を登りながら、ぽっちゃりは生い茂る葉の裏で雨宿りをするカタツムリや蛾を見つけては、生態の説明をしてくれた。丘を登り切ったところで、
「ひと休みしましょう」と足を止めながら、ぽっちゃりは「ウワーガー」というジャングルと、「ティラダキ」という丘の名前にまつわる話しをしてくれた。そして、
「これから下りに入りますが、雨で地面が滑ったり崩れたりしやすくなっているので気をつけてください」と改めて注意を促した。
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