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映画『ユリイカ』青山真治 監督

映画『ユリイカ』2000年・日本/青山真治 監督

心的外傷というものが人に齎すもの重大さと。
回復や再生の困難さ。

バスジャック事件で生き残った運転手の沢井(役所広司)が、中学生の直樹(宮崎将)と小学生の梢(宮崎あおい)の兄妹と再会し、3人で奇妙な共同生活を始め、再生の旅に出る。

本作は217分(約三時間半)という時間の中で描かれている。
作品中では、色彩というものを排除したセピアカラーで描かれてい
て、ラストのシーンには演出としての狙いを込めてか、フルカラーが用いられていた。

本作を観てまず最初に感じたのは、時代背景があるのではということ。
本作が公開されたのは2000年。
この頃というと、わたしたちにとって、現在も深く記憶に残る恐ろしい事件が起こっている。

1997年、神戸連続児童殺傷事件。
容疑者として逮捕されたのは、当時中学校三年生の男子生徒だった。
酒鬼薔薇聖斗と自らを名乗り、9~12歳の小学生男女5人が被害にあった。
被害者や遺族の方々のことを想うと、言葉が出ない。
この事件などをきっかけに少年法が厳罰化され、刑事罰の対象年齢が「16歳以上」から「14歳以上」へ引き下げられた。

本作がどのように、こういった社会的な事件から影響を受けたのかは分かりかねるが、観る側としてそれを意識せざるおえないものがあった。

バスの中で事件は発生し、運転手だった沢井、乗客の兄妹の三名だけが生き残ることになる。
拳銃を持った犯人は、次々に乗客を拳銃で撃っていく。さっきまで共にバスに揺られていた人たちが死んでいく。次は自分が撃たれるかもしれないという恐怖。
事件は犯人の死というものによって収束し、彼らは現場から解放された。だが、これまでの生活、これまでの自分には戻ることは出来なかった。

心的外傷後ストレス障害(PTSD)を負った人にしかわからないものがあると思うし、それを気安く語りたくない。体にできた何かしらの傷は、手当の施しようがあるかもしれないけど、心に及ぼしたものは、どんなふうに治せばいいのかと思ってしまう。回復にかかる月日や本人や周囲の心労は、計り知れない。

彼ら三人は再び出会い、ともに生活を行うようになる。さらには旅に出ようと試みる。それも、事件と同じくバスという乗り物を使って。

再生したり、回復していくことの困難さを本作は描いていると思う。
その困難さというものが、本作ではある意味、観客側が負う時間的拘束によって感じる苦痛とともに、それらを共に体感することにもなっているかのように感じた。

筆者:北島李の

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