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【読了】『武道館』---感想。そしてアイドル・ビートルズへの感謝。

今日の1冊: 朝井リョウ著『武道館』

『武道館でのライブ』を目指すアイドルグループの物語。
なんですが、主人公「愛子」目線のメンバーの姿はイメージできたけど、愛子本人のアイドルとしての姿があまり見えなかった。
それは著者の狙い?
でも、物心ついた時からアイドルになりたかった彼女の葛藤を想像する材料として、”アイドル" でいる時の客観的な様子がもう少し欲しかったかなと思います。

多分母親譲りの美形で歌もダンスもセンスがあってそこそこに上手くて、でもそこまでガツガツしてない雰囲気がセンターにはなれないけどアンチもできないポジションを作ってるんだろうな。と想像しながら読みました。

2015年の作品なので当時のアイドルの不祥事に関する炎上や対応の描写など既に少し懐かさを感じましたが、"アイドル" は、ファンなのかどうかも分からない不特定多数の"世間"に対して泣きながら謝罪し坊主になったりするより、ゴージャスなドレスを着て、「かわいいよ」と言い続けてくれる愛する人に笑顔を向けている方が、ずっと私たちに『夢を見せてくれる』と思いました。
2022年下半期に読むと、この著書はある種予言書のようにも見えて面白い。

個々の人間のしんどさ・辛さなどの苦悩について突き詰めてない分、緩くふわっと "time heals everything" だよね。と感じました。

そして、10代の登場人物たちが一番苦悩していた「何かを選ぶ、選ばない」という部分について共感するには、自分は少し歳を取りすぎているのかもしれない。とも思いました。

—ここから長めの追伸———

さて、今回『武道館』を読んでみようと思ったのは、わたしの推しのビートルズの武道館ライブの未公開映像が56年ぶりに公開されたというニュースに触れたから。

(以下は、アイドルとしてのビートルズについての考察になり、『武道館』の感想からはやや逸脱する部分があるかもしません。)

なので、武道館の収容人数の最大数や、観客が6000人足らずでもライブは成立する、などという会場としての武道館の描写は興味深かったです。

因みにビートルズは、来日公演では一回におよそ1万人の観客を収容し5回のライブを行ったので、4日間の日程で合計4万5千〜5万人ほどのファンを楽しませています。

ビートルズの『前期』は、ライブツアーを行っていた期間とニアリーイコールで、つまり揃いのスーツを着て、マッシュルームカットで笑顔で写真に収まる『アイドル期』でした。

ジョンが既婚であることは当初秘密にされていたし、インタビューでは政治の話をしないなどマネージャーによって統制されたルールが存在していました。

「音楽で金持ちになる」という夢を持っていたリバプールの労働者階級の若者たちは、その夢を叶えるためその指示に従います。
しかし徐々に疲弊し、あんなに楽しかったステージでの演奏にも興味を失い(音響も悪く観客も聴こうとしなかったため)、遂にライブを止めてしまいます。

その過程で彼らを疲れさせたのは、踏み躙られる人格やプライバシー、世間からの的外れな欲求、暴力、炎上…など、半世紀経った今も変わらず、いやインターネットの普及でさらに肥大化してそうな、人の前に立つ “アイドル” のストレスとプレッシャーのオンパレードでした。

その渦中に4年程身を置き、常に心身を打たれ続けるということはどんなにきつい事なのか。
そして、そんな狂った嵐を乗り越えられたのは、同じ価値観の4人が一緒にいたからだったんだと、改めて感じました。

同じグループに属していても、メンバーそれぞれに個性があり、考え方も違う。
それは『武道館』の中でも徐々に明らかになって行きますが、幸いビートルズのメンバーは4人とも同じような熱量、スタンスでやって行けた。少なくとも前期は。
だからあんなに過酷なアイドル業をやり遂げる事が出来たんだろうなと、想像しながらも、どっと疲労感を抱いてしまいます。

スーツを着て、魂を売り、反吐が出るような要求にも耐え、地球を何周もしながらも、常に笑顔で手を降り続けてくれていた世界のアイドルに、改めて感謝する読後となりました。


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