ビートルズの革命。『映像の世紀・バタフライエフェクト』
見たことのないビートルズの映像が多数ありました。
2023年6月の12日と19日の2週に渡り、NHK(総合)の『映像の世紀 バタフライエフェクト』がビートルズをテーマにした番組を放送しました。
ご覧になった方も多いのではないでしょうか。
ビートルズの活動期を前編と後編の2つに分け、前期にあたる1962年から1966年までをまとめた【ビートルズの革命 赤の時代 『のっぽのサリー』が起こした奇跡】、後期の1966年から1970年、そして解散後に続くその余韻を描く【ビートルズの革命 青の時代 そしてルーシーは宇宙を行く】で構成されていました。
『ビートルズの革命』と謳っているだけあって、ビートルズ自身の活動に焦点を当てるというよりは、彼らの偉業や苦悩を振り返りながら、当時の時代や世界が抱えるさまざまな問題に彼らの活動や音楽がどのような役割を果たしたのか?ということについて紹介し、そして更なる時代の変化とともに彼らの残した足跡はどんな風に残っていくのか考えるきっかけを与えてくれる番組でした。
「わー!ビートルズってやっぱり奇跡のバンド!かっこよすぎる!」と思いながら興奮したり寂しくなったり、情緒を振り回しながら見入っていました。
映像の世紀・バタフライエフェクトとは?
まず、NHKの『映像の世紀 バタフライエフェクト』という番組ですが、わたしは今回テーマがビートルズということで初めて視聴しましたが、2022年4月から放送が始まっているようです。
1995年から1996年に放送されていた『映像の世紀』という番組の新シリーズで、世界各国から収集した貴重なアーカイブス映像をもとに、「蝶の羽ばたきのような、ひとりひとりのささやかな営みがいかに連鎖し、世界を動かしていくのか?」を伝えるドキュメンタリー番組です。
そして今回、2週連続で『ビートルズの革命』をテーマに放送されました。
ビートルズの革命・赤の時代
一週目のビートルズの革命 赤の時代 『のっぽのサリー』が起こした奇跡では、ジョンとポールが夢中になった楽曲『のっぽのサリー “Long Tall Sally”」を軸に、第二次世界大戦後の1960代の世界にビートルズが何をもたらし、人々を何から自由にしたのか、ということが語られました。
"Long Tall Sally" は、1956年にリトル・リチャードがリリースしたロックンロールの古典のような楽曲で、若きビートルたちも始めて耳にしたときに大きなショックを受け、彼らを音楽の道に導いた楽曲のひとつです。
ビートルズはデビュー前から何度もカバーしていて、アルバムだと『PAST MASTERS』に収録されたものを聴くことができます。
"Long Tall Sally" は、ポールの伸びやかでみずみずしくちょっと品さえ感じる高音の素晴らしいシャウトはもちろんのこと、レコーディングも1テイクで終えたというビートルズの爆発的なバンド力を堪能することができます。
特に曲の終わりにさしかかる頃のリンゴのドラムも必聴な楽曲です(ジョージ・マーティンのピアノも聴きどころです)。
ビートルズの憧れだったエルヴィス・プレスリーもこの曲をカバーしていますが、ビートルズのカバーを聴いた後だとちょっと物足りない気がしてしまうほどビートルズの演奏はエネルギッシュで仲間とロックを演奏する喜びに満ち溢れていてパワーをもらえます。
この楽曲は「ビートルたちをロックンローラーにした曲」として大きな意味を持つ他、「ジョンとポールを繋いだ曲」としても重要な役割を果たしています。
二人は1957年7月6日に、リヴァプールのセント・ピーターズ教会の夏祭りで運命的な出会いをしますが、その時ポールがジョンにこの "Long Tall Sally" を演奏して聴かせたことが、その後の "Lennon-McCartney" という最強のパートナーシップを生むきっかけとなりました。
番組のナレーションでは、『ふたりは大好きな音楽の話で盛り上がり、そしてポールはそばにあったピアノに向かい(Long Tall Sallyを)歌い出した』と、この時の様子を表現していたのですが、「いやいや、ジョンとポールの衝撃的な出会いの一曲はエディ・コクランの ”Twenty Flight Rock” でしょう」と思われた方もいたかもしれません。
ポールがこの日ジョンの前で披露した楽曲については、伝えられているところでは最初に ”Twenty Flight Rock” をギターで弾いたとされていますが、他にも “Be-Bop-A-Lula” など何曲か演奏したと言われていて、何と言っても、最後にポールが演奏した渾身の “Long Tall Sally” が完全にジョンの心を掴んでしまったんじゃないかと、ビートルズ研究家のマーク・ルイソン氏の本を読んでいると思います。
得意の妄想をここで発動させると、多分ポールはジョンのギターを借りて変なバンジョーチューニングを治しながらめっちゃ緊張しつつ ”Twenty Flight Rock” を演奏しながら反応を伺っていて、多分、クオリーメンのメンバーからしたら「え?チューニングできるとかすごすぎん?」って感じで最初から見てたと思うんですが、いつもいい加減な歌詞を歌うジョンが普通だった彼らからすると歌詞もギターのコードも完璧なポールを見て、拍手して歓声をあげたいくらい興奮してたんじゃないかと想像します。
その様子は多分ポールにもありありと伝わっていて、それで他にも何曲か演奏してその場の空気が完全に自分のものになったのを感じ取ったポールは、喉も温まったところでピアノに向かってとうに捨て去っていた羞恥心を置き去りにして自分の最大の自信作 “Long tall Sarry” を歌ったんだろうなと思います。
そして、一方のジョンは、「ギターを逆さまにして弾ける上にピアノも弾けるの?」「しかもこのシャウト何???」「見た目もエルビスに似てるしこいつ何者??」って、一瞬にしてポールへの興味を掻き立てられたんだろうな、と妄想できます。
今回放送された『バタフライ・エフェクト ビートルズ・赤の時代』の趣旨はビートルズの歴史について詳しく伝えることではなく、「彼らが人々を60年代の足枷から如何にして自由にしたのか」という話なのではないかと思うので、あの場面で突然エディ・コクランが出てきてもちょっと拍子抜けですし、わたしは番組の文脈的にも、ビートルズの歴史的にもあのシーンで紹介されるのが黒人のロックンローラーが歌う ”Long Tall Sally” であったことに違和感はありませんし、適任だと思います。
こんな風にビートルズの結成についてだけでも深掘りしたくなってしまいますが、番組は45分しかありません。
最初の15分で当時の社会情勢とビートルズのメンバーの誕生からバンドのデビューまでを一気に伝え、その後の15分で、イギリス全土、アメリカ、そして世界を制覇していくビートルズの快進撃が描かれます。
60年代が味方したまさに時代の寵児で無双に見えるビートルズにただただ惚れ惚れするのも束の間、彼らは一挙手一投足に常に注目が注がれるその狂った日常と多忙を極めたツアーでどんどん疲弊していき、今でいう「炎上」も世界を股にかけるものすごい規模で体験し、次第にその翼を折られていきます。
終わらないサーカスを生きるような活動の中で、ビートルズは彼らの音楽やファッション、言動によって人種や階級の壁を壊し、人々を開放していきました。
「ビートルズが世界を開いた」
「ビートルズは自由の象徴」
「輝くビートルズの前では、人種も階級も古ぼけたガラクタだった」
というような言葉に、同じ60年代を生きた人たちにとってのビートルズという存在が如何に大きくて眩しいものだったのか少しだけ理解できた気がします。
一方のビートルズは、というと、4人のストレスは絶頂を迎え、1966年8月のサンフランシスコのキャンドルスティック・パークでの大規模なライブを最後にツアーを完全に辞める決断をします。
そして、その【最後のツアーの最後の公演の最後の曲】に選んだのは、彼らを音楽の道に導き、ジョンとポールを引き合わせ、そして4人がずっとステージで演奏し続けてきた “Long Tall Sally” でした。
なんとも胸熱なストーリー、そして美しい番組構成です。
ビートルズの革命・青の時代
視聴後大興奮した前編『赤の時代』から一週間後に、後編の『青の時代』が放送されました。
後編は、ビートルズが人前から姿を消したレコーディング期の物語です。
ビートルズは世間から解放され休暇を取り自由な時間を持つことで音楽への創作意欲とアイデアを取り戻します。
史上初の世界同時中継で “All You Need Is Love “ を披露したビートルズは、その後も破竹の勢いで世界を驚かせる音楽を次々に生み出し、彼らの音楽は騒音から芸術へと変貌を遂げていきます。
一方、未だ戦争が続く世界で、若者たちの中には「ドラッグが平和をもたらす」と考える人たちも登場します。
ビートルズもドラッグ・カルチャーとは無縁ではなく、そういった社会の混沌に加え、最愛のマネージャーを突然亡くしたことで、彼らの歯車は少しずつ狂って行きます。
その頃、ビートルズの音楽はソ連にも届き、言葉の壁を超え、「まるで血のように」若者たちの体内を巡っていました。
しかし国家は西側のロックンロールを禁止していたため、レントゲン写真にビートルズの音楽をプレスした「肋骨レコード」を作ってまで隠れて聴く人もいたほどでした。
彼らに国家からのプロパガンダにも抵抗しうる力を与え、自由を求め挫けそうになる心を支え励ましたのは、他でもないビートルズの音楽でした。
そして長髪の4人組から受け取ったメッセージを変換し祖国の言葉で自分の思いを音楽に乗せ、『歌の革命』を起こす人も出てきました。
1991年にソ連は崩壊し、ビートルズの登場からおよそ30年後にロックンロールは解禁され、もう警察の監視を恐れながらビートルズの音楽を聴く必要はなくなりました。
90年代でもなおビートルズのコピーバンドが熱狂的に支持されていたのも胸熱でしたし、2003年にモスクワで初のロシア公演を行ったポールを「本当のビートルズに会えた」と喜ぶファンも、「もっと早くあなたに会いたかった」とポールに語りかけるミハイル・ゴルバチョフ氏の姿も感慨深いものがありました。
ただ、『青の時代』の放送は、最後の15分がほぼソ連の革命に割かれていて、ビートルズの後期の活動に関しても、ジョージがヒッピーの聖地ヘイト・アシュベリーに行ったことは紹介してもビートルズがリシケシュに滞在したことはまるまるカットだったり、リンゴがホワイト・アルバムでバンドを離脱したことは詳しく紹介してもジョージがゲット・バック・セッションで脱退したことはスルーだったり、ちょっとアンバランスに感じることがありました。
時間が限られていることに加え、映像が不足していたのか、社会情勢というか時勢柄ソ連の話を厚めに入れたかったのか、制作サイドの意図は分かりませんが、後編は「ビートルズの革命」というタイトルからイメージする内容とは少し逸れてしまっていた部分もあったようにも感じました。
とはいえ、『映像の世紀』という番組のタイトルに偽りなく、見たことのない興味深い映像を、ビートルズのものも含めいくつも見ることができましたし、番組の中で紹介されていた「解散してもビートルズは永遠に終わらない」というファンの言葉に完全同意だな…と思いながら改めてビートルズの偉大な足跡を辿ることができました。
1975年にジョンは、「60年代は新しい世界を発見しに行く船だった。そしてビートルズはその船の見張り台に立っていただけだ。」と語っていましたが、本人たちには嫌がられるかもしれませんが、これからも時代が大きく変わる時、彼らの音楽や言葉は私たちの支えや力になるでしょうし、ずっと船頭でいて欲しいな、と思ってしまいました。
前編の『赤の時代』の冒頭で、NASAの小惑星探査機がビートルズの楽曲にちなんで『Lucy(ルーシー)』と名付けられているという紹介がありました。
そしてルーシーには、未来の人類に向けたタイムカプセルが搭載されていて
その中にはジョン・ポール・ジョージ・リンゴのメッセージも含まれています(ヨーコや、クイーンのブライアン・メイのメッセージもあります)。
今火星付近にいるルーシーが地球に帰還するのは数百年、もしくは数千年後だそうです。
番組は「その時世界はまだビートルズを聴いているだろうか。」と問いかけて終わりましたが、私は「地球がある限り、もちろん聴かれているでしょう。」と答えたいと思います。
まとめ
以上、妄想入り混じる番組の感想となりましたが、ビートルズの偉業と歴史を普段見ない角度から振り返り、また彼らが躍進した時代背景や世界情勢についても改めて知ることができました。
これからの時代にもきっと私たちはビートルズを必要とするんだろうな…と確信したり、もうとにかくビートルズっていうのはスーパー魅力的でファビュラスな奇跡のバンドだな!と思わせてくれる素敵な番組でした。
NHKさんにはその貴重なアーカイブスを生かし、今後も頻繁にビートルズと映像資料を絡めた番組を制作していただきたいです。
番組をまだ観てないけど気になる!もう一度観たい!
という方は、6月21日(水)に「赤の時代」の再放送がありますのでぜひご覧になってみてください。
後編の青の時代の方もNHKプラスでの配信や再放送があるはずですのでNHKのサイトなど確認されてみてください。
【★2023年11月30日追記★】
2023年12月30日(土) 21:00- NHK総合
『映像の世紀バタフライエフェクト ビートルズの革命〜完全版』放送予定です!
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