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娘の通う学校を推察。元妻の性格から、3つの地域にしぼりこむ。さながら奪還探偵だ。

■10
 子供たちが通う学校は、どこにあるのだろう。
 元妻は気が強い反面、臆病な面もある。自分が虐げる対象と、媚びて機嫌を伺う対象の間で生きるのが彼女のライフスタイル。誰かしら頼れる人物が近くにいる場所で生活をしている可能性が高い。私が知る彼女の交友関係から、娘の学校区をしぼりこんでいく。
元妻の実家、女権団体運営のシェルター、元妻の親友が住む地域の三つが濃厚だ。それぞれ、ひとつずつ小学校がある。各小学校のホームページを見ても、生徒の情報はもちろん得られない。ひとつずつ調べていくしかなさそうだ。まず私は、シェルターがある地域の小学校へ行ってみた。
 娘は一年生。黄色い帽子をかぶっているはずだ。下校時刻、児童が校門から出てきた。私はレンタカーの中から、じっと注視していた。娘は見当たらない。
 すぐさま元妻の親友宅付近の小学校に向かった。大半が下校してしまっていたが、まだ何人か黄色帽の児童がいた。思い切って娘の名前を出して、その子たちに聞いてみた。
「Rちゃんは、もう帰ったのかな」
「だぁれ、それ?」
「Rちゃんだよ、お友達じゃない?」
「そんな子、いないよ。それより、おじさんは誰?」
 最近の子供は防犯意識が高いのか、私が逆に尋ねられた。
「おじさんは、Rちゃんのお父さんだよ」

元妻の実家近くの小学校へ車を走らせた。
 下校はすっかり終わっていて、児童の姿はほとんど見当たらない。
私は意を決して、もし見られても怪しまれない程度の早歩きで、校門から昇降口に入った。
一年生の下駄箱の名前を見ていく。もしも教職員に見とがめられたら、不審者認定確実だ。
 気は急くが、見落としては元も子もない。この学校の下駄箱に娘の名前がなかったら、消息は完全に途絶える。もう為すすべがない。
祈るような気持ちで左端から順に、上から下へと指をさしながら名前を追っていく。早く見つかってくれ。右へ一列ずつずれるたびに、焦る。
 視野の端に、いちばん最後の列が入ったところで、私の指が止まった。あった。あった・・・・・・。あったのだ、娘の名前が。
 二段に分かれた下駄箱の上の段に、小さな可愛い上履きがあった。ここにいたんだ。それが分かっただけで、胸がいっぱいになった。小さな足に、靴をはかせた日々が頭をよぎる。
 そうか、ここだったのか。この学校に通っているということは、娘と息子は元妻の実家に住んでいる。それがわかっただけで、心が満たされた。
「待ってろよ、もうすぐ会えるからな」 娘のクラスを確認し、私は足早に小学校を後にした。

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