〈キューバ紀行13〉他人の不倫ではしゃぐ日本、亡命のために婚活するキューバ。
不倫って、なんだろう。
22世紀には不倫など無いが、2020年の日本では、まだ月替わりで有名人の不倫が報道されている。
ユーチューブに視聴者を奪われたテレビが必死に視聴者をつなぎとめ、CMの合間を埋めるためだ。
テレビを主たる情報源にしている人たちは、不倫と政権批判を不満のはけ口にし、リズムネタとモノマネがユーモアだと信じ、ドラマとお笑いで気持ちを慰める。
芸能人は、次のCMまで視聴者をつなぎ止めるのが仕事。不倫も離婚も芸のうちだ。騒がれて視聴率ナンボ。騒がして話題を担保。やりたいように、やったらいい。
しかしTVショーに多くの日本人が、強い影響を受けすぎていることには疑問を感じる。
不倫報道に「そういうことをするイメージじゃなかったので、ショック」「理想のカップルだと思っていたから悲しい」と言うのはまだ分かる。
「危ないな」と思うのは「旦那の浮気が発覚したときを思い出して気分が悪くなった」「フラッシュバックして吐き気がした」「顔も見たくない。芸能界追放だ」と言っている人たちだ。
「他人の家庭のいざこざ」というナイフで自分の傷をほじくっても、誰も得をしない。それでもしてしまうのは傷ついているからではない。社会正義を行使したいからでもない。淋しくて、暇で、かまって欲しいからだ。
キューバのコンサートには、よく既婚の有名人が愛人と来ている。しかしそれを話題にする者はいない。取材するマスコミも無い。面白い話ではないからだ。
不愉快だとか悪口を言わないとかではなく、他人の浮気に、まったく興味が無いのだ。
もちろん自分の夫が浮気したと知れば、血をみる事態になる。しかし他人の、ましてや隣人でも友人でもない芸能人の不倫話に自分を同化させてキレたりフラッシュバックしたりする人はいない。不倫がバレて引退する芸能人もいない。他人の家庭を批判する趣味も暇も無い。
「強制離婚」なる制度がキューバにはある。いかなる理由でも、片方が離婚を申し立てて6ヶ月経てば、離婚が成立する。
不倫しても罰金は無い。結婚=契約という観念そのものが無い。
① 教育と医療が無償で、住居は保証される。
② 子供はいかなる差別も受けない。
③ 男女とも平等に仕事ができて、給与に差がない。
キューバ人は食いっぱぐれることがないから経済的理由で離婚を踏みとどまる者はいない。世間体も気にはしない。他人の家より自分の人生に集中している。
親権、養育費、財産分与も、なぁなぁの馴れ合いだ。
財産と言っても主に家と車。口座貯金、現金、株などは、ほぼ持っていない。首都ハバナのマンション、一戸建ては、20年落ちのプジョーやワーゲンと同程度の価格である。
すなわち生活の道具としては有用だが、資産価値は低い。ほかは冷蔵庫、テレビ、エアコンなどの家電、テーブルセットなどの家財道具くらいか。これもずっと使いつづけたものだ。
結婚後に購入したものは、共有財産として二人で分ける。ここは日本と同じ。
面白いのは家。当然、結婚前から持っていれば名義人の物だが、人を家なしで放り出すことは法律で禁止されている。
離婚後、所有者でない側に別の家をもつ余裕が無ければ、仕方なく家を中で二つに分け、玄関も別にして生活するケースもある。
社会主義国家では、固有財産など無いも同然。柔軟に、融通させるのだ。「相手を困らせても、自分に何のメリットも無い」とよく知っている。
子供はどうなるか。
出産すると出生証明書に両親の名前だけが記される。両親が入籍しているかは子供の人生と関係ない。
子供が小学生のうちに60%以上は離婚してしまう(籍を入れない夫婦も多いので正確な統計は取れないが)。
離婚すると幼い子供は母親と暮らし、週末に父親の家に泊まるのがならいだ。意思決定できる子は自分で決める。書面など交わさないが、面会で揉めることは無い。子供を「所有物」扱いしないからだ。
たいてい父親の家には新しいパートナーやその連れ子、新しいパートナーとの子供がいる。いわゆるステップファミリーだ。
彼らは当然のように兄弟として接し、気が合えば末長く家族として付き合う。事の経緯ではなく、相手そのものを見て関係を選ぶのがキューバ人だ。
母親に問題がある場合は、裁判でどちらが引き取るかを決める。裁判所は、子供に良い環境を真剣に検討する。
日本の家庭裁判所は、親権者や監護者を決めるにあたって、内情の調査も子供からの聴取も、まともにしない。裁判を早くたくさん終わらせた者が出世するシステムだからだ。裁判の内容や判決が、当事者たちよりも職員の人生の都合に引きずられる仕組みになっている。
キューバでは社会全体が、規則ではなく文化として「子の福祉」を守っている。裁判官自身の損得と関係なく、正しいことが行われる司法だ。
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