見出し画像

「私にとっての保護者は、お母さんだけです!」ヒステリックな物言いに絶句。

■16
 翌月、学童を再訪すると、すっかり様子が変わっていた。学童の入口で、私は先生に止められた。先月対応してくれた、あの優しかった先生だ。
 そこへ娘が、私を見つけて駆け寄ってくる。その後ろからは、いっしょに遊んだ子供たちも駆け寄ってくる。
ところが先生は娘を「こっちに来ちゃダメ!」と叱りつけ、奥へ追い払ってしまった。
「どうしたんですか。先月、『学童でなら娘と会っていい』って言ってくれましたよね」
 困惑した私の問いに先生は「『保護者の方』が、ダメだと言っていますので、お引き取りください」と言う。
 硬化した態度と「保護者の方」という物言いに面食らった。
「いや先生、私もあの子の保護者ですよ。実の父親です。戸籍も親権も持っています。養育費だって払っています」
 乱暴な物言いに対して当たり前の反論しか出来ない私の笑顔は、引きつっていたに違いない。先生は、ヒステリックに言い放った。
「私にとっての保護者は、お母さんだけです!」
先月とは人が変わってしまったかのような態度。「私にとっての保護者」という日本語に、頭が真っ白になった。この先生個人にとっての保護者って……。法律や学校の規則に則った発言ではなく、感情的に口をついて出てしまった叫びだ。あきらかにパニックを起こしている。
先生の様子に、私も気が動転してしまった。納得のいかないことがいっぺんに言われすぎて、何から話せばいいのか分からなくなってしまう。
これが私の弱点だ。元妻と暮らしていたときも、いつもそうだった。理不尽なことを感情にまかせて一気に放ってくる人を目の前にすると、気が遠くなってしまう。
心苦しかったのだろう。自分でも納得できていないのだろう。それでも、私を「どうにか」しなければならなかったのだろう。
私と娘を会わせたら、元妻から何を言われるか分からない。
 自分でも理不尽だと思うことに手を染めなければならないツラさが伝わってくる。私が混乱と悲しさと共感で沈黙すると、先生も沈黙してしまった。
 そこへ担任の先生がやってきた。四十代後半と見受けられる大柄な女性が、鬼の形相で近づいてくる。その迫力に、私は固唾を呑んだ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?