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〈25〉娘が見守る中、元妻と対峙。「子供たちじゃなく、おまえに会いに来たんや」

■25
「もしもパパが来たら、すぐママに知らせなさい。パパのせいで運動会にも出られなくなったんだから。パパに連れていかれたら、もうママにも会えなくなるんだよ!」
 後から聞いた話では、娘はそう言いつけられていたそうだ。私の到来を娘は元妻に伝えたのだが、これで娘を責めるわけにはいかない。母親と私に板挟みにされた娘になにができるだろうか。両親の間で分断された子供の胸の内は、想像するだけで心臓が握りつぶされるようだ。

 息子は私に手を伸ばしたが、元妻はその手を制止し、家に向かって走り出した。私は後を追った。元妻が家のドアを閉めようとしたとき、とっさに私は靴を挟み、それを阻止した。
 ドアの向こうでは、娘が立ち尽くしている。心配そうにこちらを見つめる瞳には、「自分がしたことは正しかったのか」という困惑の色が見てとれた。
 私は目で「大丈夫」と頷き、すぐに元妻と目を合わせた。睨むのではなく、落ち着かせるように、心を込めて目の奥を見つめた。元妻は息子を娘に渡し、奥へ行くように命じた。
「突然来て、ごめん」
 私は話を切り出した。
「何の用ですか」
 硬質な声。無表情な顔面の目の奥には、疑念と嫌悪が浮かんでいた。ひるむわけにはいかない。
「おまえと話したくて来たんや」
 「君」とか「あなた」ではなく、勇気を振り絞って、あえて「おまえ」と呼んだ。調停でのノリを、ここでまた持ち出されたくなかったのだ。

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