朝の逆転(#毎週ショートショートnote)
なんであの店に入ったのか、覚えていない。
シラフなら絶対に視界にも入らなかった。
黴臭い赤い絨毯張りの、小柄な女が独りでやってる小さなカウンターバー。
他に客はいなかった。
すぐに出ようとする俺を引きとめ、場違いな、だけどとんでもなくうまいカフェオレを作ってくれたんだ。
パッと見、冷たく見えた女は、口を開けば驚くほど気さくでチャーミングだった。
世間に見下され続ける日々や、苦い思い出だけの故郷の話。
自分でも呆れるほど、俺は洗いざらい彼女にぶちまけていた。
聖人君子の仮面